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第78話:前世の萌を助けて

いつも『社畜OLの葛木萌、猫を助けて異世界へ!』をお読みいただきありがとうございます!前話で前世の悲しい幼少期のトラウマがフラッシュバックしてしまった萌。完全に当時の精神に戻ってしまい、ここがどこかも分からずパニックに陥ってしまいます。隠れる場所を探そうとして、まさかのあの装備が仇となり大ピンチに……!?ゲス店員の魔の手が迫る中、相棒のみちゃーれが萌を救うために大奮闘します!それでは、第78話をお楽しみください!

「ごめんなさい、お母ちゃん……!

私、いい子にするから、いらない子って言わないで……!」


お菓子の宿の大広間、黄金色のはちみつの川の中で、萌は小さな頭を両手で抱え込みながらガタガタと激しく震えていた。


その瞳は完全に焦点を失い、大粒の涙が止まらない。中身は元社畜OLの大人で

あるはずなのに、精神を蝕む呪いの魔力によって、脳内は完全に「前世の怖い思いをいた幼少期」へと引き戻されてしまっていた。


一時的に意識を失った後、すぐに目は覚めたものの、いつもの聡明な萌の意識はそこにはなかった。


萌は完全に前世の幼少期の精神になってしまい、一体ここがどこなのか、自分がなぜこんな不思議な場所にいるのか

何一つとして全くわからない状態に

陥っていたのだ。


「ここ、どこなの……? はちみつの川……? しかも、可愛い猫ちゃんもいるし……?」


目の焦点が合わないまま、萌はキョロキョロと周囲の見たこともないメルヘンな光景を見回す。不安と恐怖に満ちた目で、必死に周囲の状況を把握しようとしていた。


かつて前世の萌を縛り付けていた、絶対的な家庭内の支配の記憶。


それが幼い心を恐怖で支配している。


「はっ……! ここ、隠れる場所がない……! 早く隠れる場所を見つけないと、お母ちゃんに見つかって、また酷く怒られちゃう……ッ!」


狭くて薄暗い戸棚の奥だけが、かつての萌にとっての唯一の安全地帯だった。

見渡す限りの広々とした大広間には

自分を隠してくれる壁も扉もない。


パニックになった萌は、とにかくこの場から逃れて隠れる場所を探すため

はちみつから這い出て歩き出そうとした。


――だが、その瞬間だった。


「――!? きゃっ!」


派手な音を立てて、萌の小さな身体が宙を舞った。今の萌は、自分が足元に便利な「ローラーシューズ」を履いている

ことを完全に忘れて歩き出してしまったのだ。


ただでさえ滑りやすい、いちごゼリーでできたもっちりとした床の上。車輪が

虚しく空回りし、萌は勢いよく転倒して床に激しくひっくり返ってしまった。


「う、うあぁぁん……! 痛い、痛いよぉ……お母ちゃん、ごめんなさい……!」お尻を強打した痛みに、萌は子供のように声を上げて激しく泣きじゃくる。


その無防備で弱り切った姿を目の前で見ていた女性店員は、不気味な高笑いを上げた。

「ひっひっひ! 母親がどうとか、一体何に怯えているのかしら? よく分からないけれど、完全に精神が壊れて自滅したみたいね!」


いかに畏怖されるヴィンテ・ラジの娘

だろうと、一度心が壊れてしまえばただの無力な幼児だ。


店員は勝ち誇った顔で、萌をドロドロに溶かしてお菓子の素材に変えるための、禍々しい紫色の魔法陣を右手に展開した。


「さあ、極上のエルフのジュレになりなさ――」


「にゃああぁぁぁーーーっ!!」


店員が萌に手を伸ばそうとしたその瞬間、鋭い咆哮とともに、一匹の三毛猫が凄まじい速度で弾丸のように飛び出してきた。


ずっと萌の異変を心配そうに見つめて

いた、相棒のみちゃーれである。


「な、何よこの泥泥猫っ!?」


みちゃーれは店員の顔面にダイレクトに飛びかかると、鋭い爪を剥き出しにして、その綺麗な化粧顔を容赦なくバリバリと激しく引っ掻いた。


「ぎゃあぁぁぁ!? 顔が、私の顔がぁぁっ!!」


予期せぬ猫の猛攻に、店員は悲鳴を上げて思わず後ろへとよろめく。展開しかけていた紫色の魔法陣は、集中が途切れてパリンとガラスのように砕け散った。


「にゃんっ! にゃあぁんっ!(萌! 目を覚ますにゃ! あんなクソババアの言うことなんか聞かなくていいにゃ!)」


店員を一時的に退かせたみちゃーれは

すぐさま反転して、ゼリーの床で泣き叫ぶ萌の元へと駆け寄った。


そして、はちみつと涙でドロドロに濡れた萌のぷにぷにの頬に、自分の小さな頭を、これでもかと全力で何度も何度も

すり寄せた。


「にゃ〜ん……にゃおん……(ぼくはここにいるにゃ。萌は一人じゃないにゃ。萌は、いらない子なんかじゃないにゃ……!)」


みちゃーれの柔らかい毛並みのぬくもり、そして必死に自分を呼ぶ相棒の温かい声。しかし、萌を蝕む『暴食の呪い』の精神汚染は、想像以上に深かった。


前世の幼少期のトラウマという最も脆い部分を突かれた萌の心は、固く閉ざされたままで、すぐには解けそうになかった。


「ひっ……! や、やだ……喋る猫ちゃん

怖いよぉ……! お母ちゃん、助けて、助けてぇ……ッ!」


それどころか、混乱した萌の目には

必死に呼びかけるみちゃーれすらも

「得体の知れない恐ろしい怪物」に見えてしまい、さらに怯えて身体を小さく丸めて泣き叫んでしまう。


「にゃ、にゃあ……!?(萌……僕のことがわからないのかにゃ……!?)」


ショックに目を見開くみちゃーれ。


そんな二人の前に、顔から血を流し

髪を振り乱した店員が、鬼のような形相で立ち上がった。


「痛い……痛いわねぇ……ッ! よくも私の顔を傷つけてくれたわね、この薄汚い

糞猫がぁぁぁ!!」


キィィィン! と、店員の周囲に、先ほどよりも一回り大きな禍々しい魔法陣が複数展開される。


店員はブチギレて本気モードに入っていた。狂気に満ちた目で、怯える萌とみちゃーれを睨みつける。


「もうジュレになんてしてあげないわ! 跡形もなく消し飛ばして、新しいお菓子の肥やしにしてあげるから、二人まとめて死になさい!!」


「にゃ、にゃあぁぁんっ!(萌には指一本触れさせないにゃっ!)」


みちゃーれは萌の前に立ちはだかり

背中の毛を逆立てて、鋭い牙を剥き出しにしながら全力で店員を威嚇する。


その小さな身体は恐怖で震えていたが、それでも大好きな萌を守るために、一歩も引く気配はなかった。


後ろでは、萌がただガタガタと震えながら、涙を流し続けている。


呪いが解けないまま、かつてない絶体絶命の危機が、幼い二人へと容赦なく迫っていた――。

(第78話 完 )

第78話をお読みいただきありがとうございました!完全に子供の心に戻ってしまい、ローラーシューズを忘れてゼリー床でコケてしまう萌。切ないけれど、当時の恐怖がどれほど強かったかが伝わってきます……。みちゃーれが必死に助けようと頭をすりつけますが、今回の呪いは一筋縄ではいきません。みちゃーれのことすら分からなくなってしまい、さらに恐怖する萌……。顔を引っ掻かれてブチギレた店員さんが、容赦ない魔法で二人を消し飛ばそうと迫ります。みちゃーれはボロボロになりながらも萌の前に立ち塞がりますが、呪いは解けないまま次回へ続く……!この大ピンチ、一体どうなってしまうのでしょうか!?続きが気になる方、みちゃーれと萌を応援したい!と思ってくださった方は、ぜひ下にある【ブックマーク登録】や、評価の【☆☆☆☆☆】を★★★★★にしていただけると、今後の執筆の大きなパワーになります!

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