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第75話 その頃のヴィンテ・ラジ家族は

いつも『社畜OLの葛木萌、猫を助けて異世界へ!』をお読みいただきありがとうございます!前話でおぞましい「お菓子のホラー宿」の罠に一歩踏み出してしまった萌ちゃん。第75話は、視点をガラッと変えまして、萌ちゃんが脱出した直後のヴィンテ・ラジ家族側の様子(お披露目会パーティ)を覗き込んでみましょう!過去のすれ違い家出事件の話、そして萌ちゃんが旅に出ることを全て把握した上で、裏で「悪い虫の掃除」を終えて戻ってきた婚約者・ジント様が満を持して登場します!それでは、第75話どうぞ!

――萌がローラーシューズを滑らせ

自由気ままな異世界スローライフ

(と、おぞましい食テロお菓子の宿)へと旅立っていた、まさにその頃。きらびやかな装飾に彩られた、ヴィンテ・ラジ公爵邸の大広間へと、少しだけ時間を巻き戻して視線を覗き込んでみよう。


そこでは、本来の主役であるはずの萌のお披露目会(パーティー)が、盛大に

催されている真っ最中であった。


主役の萌が忽然と姿を消してから

およそ一時間が経過しただろうか。


最初は、お色直しか何かの都合で席を外しているのだろうと誰もが思っていた。


会場に招かれた貴族たちは、萌が事前に「旅に出る」と言い残していたことに

ついても、どうせ幼い子供のちょっとした遊び心や、可愛い我が儘の類だろうと高を括っていたのだ。


だが、主役の不在があまりにも長すぎる。沈黙に耐えかねた一人の貴族が、周囲の様子をうかがいながら、ふと言宝を滑らせた。


「あの……萌様がなかなか戻ってこられませんけれど、もしかして……本当に

『本当の旅』に出られてしまったのですの?」


その不躾ぶしつけながらも核心を突いた疑問が引き金となり、それまで優雅だった会場が一気にざわざわと不穏に騒ぎ始めた。


「まさか、あの小さくて愛らしいエルフ様が、本当にたった一人で旅に出だなんて……!」


「そんな,嘘でしょう!? まだほんの子供ではありませんか!」


「お労しや……! あんなに可愛いお姿なのですから、もし悪い誘拐犯にでも目をつけられたらどうするのです!」


次から次へと沸き起こる貴族たちの不安と驚愕の声。その騒音を耳にした瞬間、まるで会場全体の時間がピタリと停止したかのように、呆然と固まってしまっていた人物がいた。


萌の義理の両親である、ヴィンテ・ラジ家のお母様とお父様である。


「は、ハッ……!?」現実に引き戻されたお母様は、今まさに自分たちの身に起きている絶望的な状況を理解しようと

パニック寸前の頭をフル回転させ始めた。


その美しい顔はみるみるうちに青ざめていく。


「も、萌ちゃん……! 冗談じゃなくて、本当に旅に出てしまったの!?

で、でも、そんなはずはないわ! 邸の

正門にいる熱心な警備の人たちが

あんなに小さな女の子が一人で外へ出ようとしたら、絶対に怪しんで止めるはずだわ……っ!」


お母様は信じられないという顔で

ガタガタと小刻みに震えていた。

きっと今頃は、門番が萌ちゃんを優しく抱きかかえて、この会場へと連れ戻してくれているはず――


そう自分に言い聞せるように、必死に

現実を拒絶している。


一方、その隣に佇むお父様は、お母様とは対照的に、どこか遠い目をして静かに上を見上げていた。


「……萌を我が家に迎えてから

もう一年くらいになるのか」


ぽつりと、お父様はこれまでの日々を振り返るように呟いた。


「私達も、あの小さな萌をどうやって

甘やかしていいのか、最初は全然慣れていなかったからな。


お菓子の与え方ひとつ、服の着せ方ひとつとっても加減が分からず……良かれ

と思ってしたことで、気持ちがすれ違ってしまう出来事もあった」


お父様の脳裏に、かつて起きた苦い思い出が蘇る。


ヴィンテ・ラジ家族が萌を大切にしたいあまり、過保護に、そして不器用に甘やかそうとした結果、萌がその過剰な愛から「逃げ出してしまった時期」があったのだ。


あの時の、お家から忽然と姿を消した

萌を家族総出で血眼になって探した家出事件の焦燥感は、今でも鮮明に覚えている。


「あの時は、あんなに可愛い萌が悪い奴らに目をつけられて、あやうく『誘拐事件』に発展しかけて、本当に家族みんなで生きた心地がしなかったな……。


無事に連れ戻せて、やっと家族としての絆が深まり、頼もしい婚約者までできて……。

そんな中での、まさかの本格的な旅か」


お父様は深くため息をつきつつも

どこか確信に満ちた様子で言葉を続けた。


「……だがね、お母様。私は、萌が案外すぐに見つかって、この場所にひょっこり戻ってくるような気配がしているんだよ」


「えっ……? あなた、どうしてそんな風に言えるの……? あんなに小さな子が、たった一人で外の世界へ行ってしまったのよ! 過去に誘拐されかけたのなら  なおさら今すぐ追いかけないと……!」


涙目で縋り付いてくる妻に、お父様は

フッと苦笑いを浮かべた。なぜ、お父様がこれほど冷静に「すぐ戻ってくる」と感じ取っているのか。


その理由は極めてシンプルだった。

なぜなら萌という少女は――どこへ行こうとも、その圧倒的な規格外のチート能力と幼児らしからぬおかしな行動力で、何かと大きな事件(トラブル)を自ら

引き寄せて、こちらへ持って帰ってくる性質があると知っていたからだ。


「今回もどうせ、大都市の市場あたりで美味しいものでも買い食いしているうちに、何かとんでもない事件に首を突っ込んで、自分からひょっこり帰ってくるさ」


「そんな、あなた! のんきに笑っている場合じゃ……!」お母様がキッと夫を睨みつけた、まさにその時。


ギィィ……と大広間の重厚なドアが静かに開き、一人の青年が部屋の中へと戻ってきた。鋭い眼差しに冷徹なまでの知性を宿した、萌の婚約者――ジント様で

あった。


彼は萌が本気で旅に出てしまったことを最初からしっかりと知っていた。


知っていたからこそ、愛しい婚約者の

旅路に害を及ぼしそうな不審者や、過去に萌を狙った悪質な誘拐犯どもの残党を一刻も早く排除すべく、直前まで自ら地下で冷徹に取り調べを行い、完璧な調書を作成し終えて戻ってきたのだ。


手元にある調書の束をトントンと整えながら、ジント様は取り乱すお母様へと歩み寄り、静かだが有無を言わせぬ覇気を纏って告げた。


「お母様、そう心配なされるな。萌が旅に出たことは私も把握している。道中の障害になりそうな不審者どもの『掃除』は、今しがた私の手で綺麗に終わらせてきたところだ。あの子の行く手を阻む悪い虫は、この私が一匹残らず叩き潰してある」


「あ、ジント様……! 旅に出ることを知っていて、裏でそんなことを……っ!」


お母様がジント様の婚約者としての執念と有能さに圧倒された、まさにその瞬間。


バァァァンッ!! と、大広間の扉が

今度は壊れんばかりの勢いで外から激しく押し開けられた。


息を切らせて飛び込んできたのは、邸の正門を警備していたはずの、顔面蒼白になった門番の兵士だった。


「報告いたします! 公爵閣下、奥様!

萌様が……萌様が、たった今、邸の正門を突破されました!」


「な、なんですって!? どうして止めなかったのよ!」


お母様が悲鳴のような声を上げる。


兵士は恐怖に震えながら、必死に状況を説明した。「い、家令の静止も振り切り、萌様はご自身の『カカト』から

見たこともない謎の小さな車輪(ローラーシューズ)をシャキーンと出現

させ……! 人類のものとは思えない凄まじい神速のスピードで、門番の股の下を滑り抜けていかれたのです!


あまりの速さに、誰も物理的に追いつけませんでした!」


「カカトから車輪……!? 神速……!?」


お母様はついに脳の理解が追いつかなくなり、その場に卒倒しそうになるのを侍女に支えられた。お父様は

「やはりな……」と言わんばかりに

ポンと手を叩いて笑った。


「ガハハ、相変わらず我が娘の行動力は規格外だな! だが、流石に今回は大都市の方へ向かったのだろう。お母様、心配せずとも大丈夫だ。萌のあの速度なら、並の誘拐犯では追いつくことすらできまい。それに、あの子には優秀な猫(みちゃーれ)もついている」


「……カカトから車輪、ですか。フッ、やはり私の愛しい婚約者は、いつも私の想像を軽々と超えていってくれる」


ジント様の手元で、先ほどまで持っていた調書の紙がみしりと音を立てる。


その瞳の奥には、神速で逃げ出した婚約者への底知れない愛着と、何があっても必ず自分の手の中に連れ戻すという冷ややかな光が静かに灯っていた。 

「お父様、お母様。このジントが、地の果てまで追いかけてでも彼女を無傷で連れ戻してご覧に入れます。私から逃げられると思っているのなら、可愛いお仕置きが必要ですね」


お父様はジント様のただならぬ気迫に苦笑しつつも、キリッと表情を引き締め、近くに控えていた優秀な隠密部隊の隊長へと鋭い視線を向けた。


「過保護な親バカと婚約者と言われても構わん。至急、大都市へ潜入し、萌の動向を影から見守るのだ。

ジント様も行くなら共に行け。……ただし、萌の地雷(怒り)を踏まないよう、絶対に手出しはせず、まずは見守るだけにしろよ? また逃げられたら敵わんからな」


「御意に」


影のように素早くその場から消え去る隠密部隊。そしてジント様もまた、不敵な笑みを浮かべながら、愛しい萌が残した神速の軌跡を追うべく大広間を後にした。


お父様は再び窓の外の青空を見上げながら、呟くのだった。


(さて、萌。今回は一体、どんな面白いお土産(大事件)を我が家に持ち帰ってきてくれるのかな?)


まさかその予感が的中し、萌が今まさに「人間をお菓子の材料にするおぞましいホラー宿」の罠に自ら飛び込んでいるとは、流石のお父様も、すべてを先回りしていたはずのジント様すらもまだ、夢にも思っていないのだった。

(第75話 完)

第75話をお読みいただき、ありがとうございました!ついにヴィンテ・ラジ家族視点、そして婚約者のジント様が登場です!萌ちゃんが旅に出ることを知った上で、先回りして誘拐犯の残党どもを冷徹に取り調べていたジント様……!萌ちゃんへの愛と執念が強すぎて、有能なスパダリっぷりが最高にカッコいいですね(ちょっと愛が重くてコワい気もしますが!笑)。門番をローラーシューズで股抜きして神速で突破していく幼児萌ちゃんに一同は呆然ですが、ジント様と隠密部隊がさっそく追跡に動き出しました。果たしてジント様たちは、恐怖の「フティラ宿」に囚われそうな萌ちゃんを無事に救い出せるのでしょうか!?ジント様最高!裏での掃除っぷりにシビれた!と思ってくださった方は、ぜひ作品下部にある【ブックマーク登録】や、【いいね・ポイント評価(☆をポチッと!)】で応援していただけるとめちゃくちゃ励みになります!次回、第76話もお楽しみに!

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