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第72話:噛めば噛むほど旨み抜群

前回のケバブ風屋台で、お肉を注文した萌ちゃん。すると、萌ちゃんの圧倒的な可愛さにノックアウトされた店主さんから、まさかのとんでもない大サービスが……!?幼児の姿になった萌ちゃんは、顔が隠れるほどの超特盛お肉を無事に攻略できるのでしょうか?

注文を受けた大柄な店主さんは、屋台の奥で大きなナイフを構え、豪快に笑った。


「よし分かった! そこまで言うなら

とびきり美味いところを削ってやるよ!」


シャッ、シャッ、と小気味よい音を立てて、ぐるぐると回る巨大なお肉の塊から、特製のタレが染み込んだジューシーな焼き目が次々と削り落されていく。


そうして、目の前で一生懸命に背伸びをしながら注文する萌の幼児化チートの

圧倒的な可愛さが、ガツンと店主のハートに伝わってしまった結果――


まさかのお肉倍以上の量が皿に盛られて出てきたのであった。


「は、はいよ、嬢ちゃん! 特盛りの特製肉だ! 好きなだけ食いねえ!」


カウンター越しに差し出された木皿の上には、文字通り小山のように茶褐色のお肉がうず高くそびえ立っている。


「こ、こんなにいいんでしゅか? 肉もりもりにだちて、おみちぇ(お店)とか、ちブレ(潰れ)ないでしゅか……?」


なんと、差し出されたお肉のボリュームが凄すぎて、萌の小さな顔がすっぽりと隠れて見えなくなるほどのお肉を頂いてしまったのだ。


中身が元社畜OLの萌としては、この大盤振る舞いすぎるサービス

(あからさまで過剰な原価割れリスク)を目の当たりにして、お店の経営状況が傾かないかが本気で心配になってしまった。


目算で利益率の計算が完全に破綻しているのではないだろうか。


萌がお皿の向こうの店主を本気で心配

そうに見上げていると、店主さんは一瞬きょとんとした後、顔のヒゲをわしゃわしゃと動かして豪快に顔を綻ばせた。


「ガハハハ! 嬢ちゃん、そんな小さな体で、店の心配までしてくれてんのかい? ありがとうよ! だがな、店のことは気にせんでええよー!」


店主さんはニカッと白い歯を見せて笑うと、丸太のような太い拳で自分の胸を

ドンと叩き、誇らしく語ってくれた。


「俺たちの仕事はな、みんなが肉を食べて、笑顔になって幸せになってくれるところが最高のご褒美だからよ! 嬢ちゃんみたいな可愛いお客さんが喜んでくれるなら、これくらい安いもんさ!」


ブラック企業の強欲な経営陣に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいほどの、素晴

らしいホワイトな労働理念

(ホスピタリティ)であった。


世の中のすべての社長がこの店主のようであれば、萌も前世で過労死寸前の社畜にならずに済んだかもしれない。


「ありがとうございまちゅ! 大切にいただくでちゅ!」


萌は店主さんに満面の笑みで心からの感謝を伝えると、お肉の山を両手でしっかりと抱え、ローラーシューズでてくてくと座れるところを探して歩き出した。


近くにあった街頭の木製ベンチを見つけ、萌は小さな腰を下ろす。


お皿から漂うのは、前世の焼き肉のタレに最高級のスパイスをブレンドしたような、嗅ぐだけで白米が恋しくなる極上の香りだ。


萌は小さなフォークをギュッと握りしめ、お肉をパクリと口へと放り込んだ。


(よし、モグ、モグモグ……!)口に

入れた瞬間、最初に脳を突き抜けたのはソースの圧倒的な香ばしさだった。


だが、次の瞬間に店主さんが事前に警告してくれた言葉の意味を、萌は本当の意味で理解することになる。


(う、動くゴムを噛んでるみたいに硬いでちゅーーーっ!?)


想像以上の凄まじい弾力だった。歯が

ニュルンと押し返されるような、未だかつて経験したことのない野生の歯ごたえ。


しかし、今の萌の肉体は人類最高峰の身体能力を誇る「幻のエルフ」であり

中身は毎晩のように激硬のスルメやイカ燻製を噛みちぎってきたタフなOLの根性が染み付いている。


(ふ、ふんぬぅぅ……! 舐めてもらっては困るでちゅ! 毎晩の深夜残業(デスマーチ)に比べれば、これくらいの歯ごたえ、むしろ噛みごたえがあって最高の

ご褒美でちゅよ……!

モグモグモグモグ!!)


萌が可愛いお顔を少し膨らませながら、エルフのアゴの力とOLの意地を全開にして必死に咀嚼(そしゃく)を繰り返す。


すると、どうだろう。10回、20回と噛み締めを重ねていくうちに、お肉の繊維の奥から信じられないほど濃厚な旨味

(肉汁)がじゅわじゅわと溢れ出してくるではないか!


「……っ! ん、んまーーーいでちゅっっ!!」


それは、噛めば噛むほど味が染み出してくる、究極のスルメ系ご褒美グルメだった。


野生の魔獣肉だからこそ蓄えられた

大自然の凝縮された生命の旨味が、噛むたびに特製ソースと絡み合って口いっぱいに広がっていく。まさに『噛めば噛むほど旨み抜群』である。


「にゃ、にゃあ……(萌、僕にもそのお肉ちょうだいにゃ……)」


頭の上から膝の上へと降りてきたみちゃーれが、羨ましそうに目をキラキラさせて萌の服の袖を引っぱってきた。


「はいはい、みちゃーれにもあげるでちゅね。でも、すっごく硬いから小さく切って……」


萌はフォークを使って、お肉をみちゃーれが食べやすいように小さく小さくちぎって差し出した。


みちゃーれは待ってましたとばかりに

パクリと一口で飛びつく。


「にゃっ、にゃにゃあぁぁ……!?

(む、ムググ……!? なにこれ、全然

お肉が小さくならないにゃ! でも……

噛んでたら、すっごく美味しいスープがいっぱい出てくるにゃ……っ!)」


みちゃーれも最初は予想外の硬さに慌てていたものの、次第に溢れ出る旨味の虜になったらしく、目を細めて

「むにゃむにゃ」と幸せそうに未知の

味を堪能し始めた。


こうして二人で、平日の青空の下、倍以上の山盛りお肉と全力で格闘すること約200分。お皿を綺麗に空にした萌とみちゃーれは、ベンチの背もたれにクッタリと体重を預けた。


「ふはぁ〜……! ごちそうさまでちゅ。最高にホワイトな市場調査だったでちゅね!」


美味しいお肉でお腹は大満足だが、予想以上の噛むエネルギーを使ったせいで、ぷにぷにの顎が少しだけ心地よい疲労感に包まれている。


(ふふ、脱出して大正解でちゅ。……

はっ! 買い食いが楽しすぎて、本来の最重要タスク(宿探し)を忘れるところだったでちゅ!)


お腹が満たされると、急に心地よい眠気が襲ってくる。


元OLとして、残業(野宿)だけは絶対に避けなければならない。萌はふぃ〜と

アゴをさすりながらベンチから立ち上がると、再びカカトの車輪を構えた。


「さぁみちゃーれ、次はいよいよ萌たちの旅の拠点となる、安心・安全な

『ホワイトな宿屋』を探しに行くでちゅよーーー!」


「にゃ〜ん(ふかふかのベッドがある宿がいいにゃ〜)」


お肉の誘惑を無事に乗り越えた萌ちゃん一行は、次なる目的地を目指して、再び賑やかな街並みの中へとローラーシューズを滑らせていくのであった。

(第72話完)

第72話をお読みいただき、ありがとうございました!タイトル通り、まさに『噛めば噛むほど旨み抜群』な絶品魔獣肉でした!萌ちゃんの可愛さにやられて、お顔が隠れるほどの「倍以上の量」をドカンと盛ってくれた店主さん、本当に男気あふれる素敵な人でしたね。お店が潰れないか本気で経営の心配をする萌ちゃんの元OL視点も、なろう系らしくてクスッと笑ってしまいます(笑)。お腹もいっぱいになり、買い食いという極上の有休を楽しんだ萌ちゃん。次回からは、いよいよ旅の拠点となる「宿探し」が本格的に始まります。元社畜OLの厳しい目で選ぶ、ホワイトな宿屋とは一体どんな場所なのでしょうか?【読者様へのお願い】「店主さん良い人すぎる!」「萌ちゃんのモグモグタイムに癒やされた!」と思ってくださった方は、ぜひ下部の【☆】評価や【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、今後の更新の大きな活力になります!どうぞよろしくお願いいたします!

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