第69話ジント様を説得のやり方
前話の緊迫した(?)ラストから、まさかのあの人が登場です。お屋敷の過保護な包囲網を前に立ち尽くす萌ですが、果たして無事に『自由気ままな旅』へ出発することができるのでしょうか……!?中身アラサーOLの、命がけの(?)ビジネス交渉(言い訳)が始まります!ぜひお楽しみください!
門を開けて完全なる自由を手に入れようとした、まさにそのタイミングだった。
お屋敷の外側から、ちょうど歩いて
帰ってきた人物がいたのだ。それは
先ほどまで萌を誘拐したジント様のお世話する人が萌を誘拐して、犯人の親玉の特定をしていたのだ。ひとまず落ち着いたので萌のお披露目会に再度参加しょうとしていたのだ。
返り血一つ浴びていない涼しげな顔を見るに、王族としての圧倒的な実力で一瞬のうちに制圧してきたのだろう。
聞けば、ジント様は指先一つから放たれる最高位の氷魔法で、ジント様のお世話役の人を音もなく一瞬で気絶させたらしい。
まさに、この国の未来を担うにふさわしい、規格外のハイスペック王子である。
そんな最強の少年が、何を隠そう、萌の『婚約者』でもあった。本物のエリート王子であるジント様は、今、目の前で
起きている奇妙な光景に、美しく整った眉をピクリと動かした。
小さな異世界収納リュックを背負い
足元には見たこともない謎の車輪付きの靴を履いて
ひらひらとしたロリータドレス姿で
たった一人で門を突破しようとしている幼児(萌)を、じっと不思議そうな顔で見つめている。
「えっと……みんにゃ反対と理解出来にゃくて固まってる……」
よりによって一番見つかってはいけない超重要人物に、密航(お家出)の現場を完璧に押さえられてしまった。
萌は何とかこの場を切り抜けたいと思ったが、いい言い訳がとっさに浮かばず、目を泳がせながらしどろもどろに答える。
「そうなんだね? みんな何かに反対したけど、理解できなくてみんな時間が止まったように停止ね……。萌、一体何が
そうなったのか聞かせておくれ」
ジント様は萌の目線に合わせてスッとしゃがみこみ、にっこりと微笑んだ。
(げ、げぇぇぇーーーっ!? 目が、目が笑ってにゃいでしゅ! これ、完全に
ブラック企業の面談室で
『キミ、何か隠してない?』って詰められてる時の上司のプレッシャーと同じでちゅーーーっ!!)
ジント様の背後に、テロリストを秒殺してきたばかりの『圧倒的強者』のオーラがメラメラと見えた気がして、萌はヒエッと背筋を凍らせた。
ここで「お家出でしゅ!」と正直に言えば、即座に両脇を抱えられてお屋敷の
『説教部屋(残業確定)』に強制送還されるのは目に見えている。
(落ち着くんだ私……! 私は何のためにアラサーまで過酷な社会人をやってきた!? 理不尽なクライアントを言いくるめるためのあの交渉スキル(ハッタリ)は、今こそ使うためにあるーーーっ!?)
萌はすぅと小さく息を吸い込むと
幼児の顔をキリッと引き締め、あえて
ジント様の瞳をまっすぐに見つめ返した。
「ジ、ジント様。誤解しないでほしいのでしゅが、萌は決して、ただの我が儘でここを飛び出そうとしているわけでは
ありまちぇん!」
「ほう? 詳しく聞こうか」
ジント様が面白そうに片眉を上げる。
よし、食いついた。
「今回の誘拐事件で、萌は深く反省ちまちた。ジント様のお世話係だった方が
犯人だったということは、この国には
まだ不穏な動き(バグ)があるという
ことでちゅ。そして、我が家が過保護すぎるあまり、萌が世間知らずのまま
だと、また同じように足を引っ張る
リスクになってしまいまちゅ!」
萌は小さな胸をドンと叩き、さも
「国のため、ジント様のため」という
大義名分を掲げるようにプレゼンを続けた。
「だからこそ! 萌は将来、ジント様の
立派な婚約者
として隣に立つために、今こそ
『現地への市場視察(フィールド
ワーク)』に行くべきだと判断ちまちた!
自分の目で世界を見て、強くなるための自分探しの旅……いわば、『ロイヤル・長期有給休暇』でちゅ!!」
「ろいやる……ゆうきゅうきゅうか……?」
完璧超人のジント様が、生まれて初めて聞く謎の社畜用語に、一瞬だけポカンと美しい目を見開いた。ジント様の視線が、萌の背負う特大のリュックと
カカトについている怪しい車輪へと注がれる。
(それ、どう見てもただの家出の準備だし、その靴は何なんだい……?)
と言いたげなジント様の心の声が聞こえてきそうだ。
萌はその一瞬の隙を逃さなかった。
ローラーシューズの車輪をジリッと一歩後ろへ滑らせ、必死の営業スマイルを
浮かべる。
「そういうわけでちゅから、みんにゃには『ジント様直属の極秘任務に出た』と、ジント様の方から上手く書類を回して……ゲホゴホ、お口添えをしておいてほしいのでしゅ!
これは二人の、将来のための『Win-Win』な取引でちゅ!!」
「それなら萌も私もウィンウィンだけど……それ、本当に理由で合ってる?
もし嘘なら――『頭グリグリ刑』にするけど、それでもいいのかな?」
ジント様はそう言って、悪戯っぽく綺麗な拳を握ってみせた。
(頭グリグリ刑って、拳を両手を使ってグリグリされるやつだよね!? 痛いやつじゃん! さ、さすがにジント様も
こんなに幼い私には手加減ちてくれるよね!?)
いや、待て。相手はさっきまで誘拐犯をを笑顔で一網打尽にしてきた規格外の
王子だ。
手加減という言葉が彼の辞書にあるかどうかは非常に怪しい。
(幼女の柔らかい頭にそんなのされたら、脳みそまでシェイクされて
せっかくの可愛いエルフの髪型が爆発頭になっちゃうでちゅーーーっ!!)
萌はブルブルと激しく首を横に振った。
「う、嘘じゃにゃいでしゅ! 萌は本気で、ジント様の未来のビジネスパートナーとして相応しい、デキる女になるために旅立つのでしゅ!
だからグリグリ刑だけは断固拒否
(コンプライアンス違反)を主張ちまちゅ!」
必死に両手をバタバタさせて抵抗する萌を見て、ジント様はついに耐えきれなくなったように、「ふっ……」と口元を
緩めた。
そして、クスクスと楽しげな声を上げて笑い出す。
「あはは! 本当に萌ちゃんは退屈させないね。わかったよ、その『ろいやる有給休暇』とやらの言い分、信じてあげる」
「ほ、本当でしゅか!?」萌の瞳がパッと輝く。
「うん。ただし、条件が二つある」
ジント様は綺麗な人差し指と中指を立てて、萌の鼻先に突きつけた。
「一つ目は、旅の途中で絶対に無茶をしないこと。二つ目は……僕に毎日
ちゃんと連絡を入れること。
もし破ったら、どこにいても追いかけていって、今度こそ『頭グリグリ刑』
だからね?」
「了解ちまちた! 毎日の業務報告
(日報)は、元社畜の基本中の基本でちゅ!!」
萌はピシッと綺麗な敬礼を決めてみせた。ジント様は呆れたように笑いながら、大きな門の鉄格子に手をかけ
ゆっくりと外側へ向けて押し開いてくれた。
キィィ……と重厚な音を立てて
外の大街道へと続く道が完全に開放される。
その先には、どこまでも果てしなく続く豊かな緑の草原と、木漏れ日がきらめく美しい一本道が広がっていた。
「行ってらっしゃい、萌ちゃん。君の
『市場視察』の成果を楽しみにしているよ」
「はい! ジント様、お留守番(書類仕事)よろしくお願いいたちまちゅーーー!」
引き止められるかと思いきや、まさかの最強の味方(共犯者)を手に入れた萌は、今度こそ大街道に向けてローラーシューズの車輪を力強く滑らせた。
「お先に失礼ちまちゅーーー!!」
カカトの車輪がカラカラと軽快な音を立てる。背後に感じるジント様の優しい見送りの視線を背に受けながら、萌は風を切って、どこまでも続く広い世界へと飛び出していく。
お屋敷の過保護な『説教部屋』を脱出し、ついに手に入れた完全なる自由!
新章早々、自由気ままなスローライフを夢見る元社畜OLの、誰にも縛られない異世界旅が、今ここに幕を開けるのだった。(第69話完)
第69話をお読みいただき、ありがとうございました!最強の婚約者・ジント様を前にどうなることかと思いましたが、元社畜OLのハッタリ(プレゼン能力)と『日報の提出』という業務提携(?)により、無事(?)に門を突破することができました!ジント様の「頭グリグリ刑」、幼児の萌ちゃんにとっては死活問題(主に髪型的な意味で)ですね(笑)。お屋敷の説教部屋(残業確定コース)を脱出し、次回からはいよいよ本格的な『異世界スローライフ旅』がスタートします!萌ちゃんが最初に訪れる街では、一体どんな出会いや異世界グルメが待っているのか、どうぞお楽しみに!【読者の皆様へお願い】もし「面白い!」「萌ちゃんの旅を応援したい!」と思っていただけましたら、ぜひページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の凄まじい励みになります!よろしくお願いいたします!




