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第68話 :『屋敷の外へ』

いつもお読みいただきありがとうございます!前回(第67話)、前世の通勤ハックアイテム『ローラーシューズ』をリュックから引っ張り出し、広すぎるお屋敷の廊下を爆走して勝手口までたどり着いた萌ちゃん。第68話は、ついにその扉を開けてお屋敷の外へ飛び出します!異世界の大自然の美しさに感動しつつ、ふと我に返って家族の「お口ポカーン」を思い出す萌ちゃんですが……。門を開けて完全なる自由を手に入れようとしたその瞬間、絶対に遭遇してはいけない「あの人」が目の前に現れて……!?新章突入の第68話、どうぞお楽しみください!

萌はローラーシューズの車輪を滑らせ

お屋敷の勝手口にある重厚な鉄のドアを開けた。


そして、外の世界へと力強く一歩を踏み出す。その瞬間――。


ツンと鼻腔をくすぐる、木々の爽やかで青々とした自然の香り。そよ風に乗って聞こえてくる、瑞々しい草木が優しく揺れる心地よい音。


ふと見上げれば、遮るもののない

どこまでも高く澄み渡った美しい青空が広がっていた。


そこをカラフルな鳥たちが気持ち良さそうに飛び交い、まるでお互いに楽しげに会話をしているかのような、賑やかな鳴き声が響き渡っている。


「わぁぁぁ……! 拾ってもらった時は

生きるのに必死で、周りの景色を見る

余裕なんて全然なかったでしゅけど……。

今は心がとっても余裕だから、色んな

おとに耳を傾けることができるでしゅ」


萌は、異世界の大自然が奏でる美しい音に優しく耳を澄ませた。そのままカカトの車輪を上手に使って、ローラーシューズでくるくると楽しそうに回転してみせる。


小さなロリータドレスの裾をふわりと

翻し、華麗なターンを決めながら

敷地の境界線である大きな正門の前まで一気に滑っていった。


しかし、いよいよ外の大街道へと繋がる門の前にたどり着いたところで、萌の足がピタリと止まった。


萌はその場に、小さな身体を強張らせて思わず立ち尽くしてしまう。


今さっき、お披露目パーティー会場を

抜けてくる直前の大ドタバタが、鮮明に脳裏にフラッシュバックしたのだ。


自分の突拍子もないマイクパフォーマンスに対して、会場を埋め尽くしていた貴族たちは、状況もよく分からずに

「さすが神の愛し子!」と大絶賛の拍手を送っていた。だが、我が愛しき家族たちはというと……。


完全に状況を飲み込めず、お口をポカーンと大きく開けたまま、魂が抜けたようにその場でガチガチに固まっていたのだ。


「ううん……お母様のあのドス黒い圧のせいで、お父様が後ろを振り返ることすらできずに固まっていた姿も、思い出すとすっごく面白かったでちゅけど……」


萌はさっきのシュールな家庭内コメディを思い出して、思わずクスッと小さな笑い声を漏らす。中身がアラサーOLということもあり、過保護すぎるお父様が慌てふためく姿を見るのは、ちょっとした

エンタメ要素でもあった。


だが、次の瞬間、萌の顔からすっと楽しげな笑顔が消えた。


「……あの膠着状態を利用ちて、

『当然のように旅に出まちゅ!』って

マイクで堂々と宣言しちゃったでしゅ。


だけど、あれが冗談じゃなくて本気の

『お家出(電撃退職)』だって家族に

バレたら、その後の怒りのアフターケアが本気で怖いでしゅ……!」


特に、先ほど鮮やかな裁ちばさみ無双を披露したばかりのお母様と、愛娘の暴走で常識がゲシュタルト崩壊してしまったお父様が、本気で追っ手を差し向けてきたらと思うと、背筋に冷たいものが走る。


どれだけローラーシューズのスピードが速くても、国家権力レベルの過保護な

捜索網を敷かれたら一たまりもない。


ブルブルと小さく首を振って恐怖の想像を無理やりかき消すと、萌は覚悟を決めて門の大きな鉄格子の扉に小さな手をかけた。


(とにかく、まずはこの門を開けて敷地の外へ脱出する。これ以上の居残りは、残業確定の説教部屋行きでしゅ。

話はそれからでしゅ!)


そう意気込んで、萌が門を開けようとしたまさにその瞬間――。


「萌ちゃん、どうしたの? そんな大きな門の前にぽつんと立って。ヴィンテ・ラジの家族はどうしたの?」


上から降ってきたのは、非常に優しくて、どこか気品に満ち溢れた少年の声だった。その声を聞いた瞬間、萌の身体がビクッと文字通り硬直した。


門を開けて完全なる自由を手に入れようとしたまさにそのタイミングで、お屋敷の外側からちょうど歩いて帰ってきた人物がいたのだ。それは、先ほどまで屋敷の周囲を囲んでいたテロリストたちの残党(見張りの誘拐犯ども)を、私設騎士団と共に完璧に、かつ迅速に片付けてきたばかりのジント様だった。


返り血一つ浴びていない涼しげな顔を見るに、王族としての圧倒的な実力で一瞬のうちに制圧してきたのだろう。


ジント様はこの国の立派な王族であり、そして何を隠そう、萌の「婚約者」でもある少年だ。そんな本物のエリート王子が、異世界収納リュックを背負い

足元には見たこともない謎のローラーシューズを履いて、幼児ドレス姿でたった 1人で門を突破しようとしている萌ちゃんを、不思議そうな顔で見つめていた。


(げ、げぇぇぇーーーっ!? ここでまさかのジント様!? 残務処理(誘拐犯の片付け)が早すぎでしゅーーーっ!!)


よりによって一番見つかってはいけない超重要人物に、密航(お家出)の現場を完璧に押さえられてしまった萌。


新章早々、自由気ままなスローライフを夢見る元社畜OLの前に、最大級の

「引き止め(婚約者)」という名の巨大な壁が立ちふさがるのだった。


(第68話完)

第68話をお読みいただき、ありがとうございました!お屋敷を脱出して異世界の大自然に感動する萌ちゃんでしたが、ラストでまさかの超展開となってしまいました!お父様たちの「お口ポカーン」を思い出してクスッとしている場合ではありませんでしたね(笑)。よりによって、外の残務処理をマッハで終わらせて帰ってきた、超優秀な婚約者のジント様に、お家出の瞬間をバッチリ見つかってしまうとは……!萌ちゃんの「残務処理が早すぎでしゅ!」という元OLならではの悲痛な心の叫びには、書いていて思わず笑ってしまいました。目の前に立ちふさがったジント様に対して、萌ちゃんは一体どんな言い訳(無罪モイモイアピール)を繰り出すのでしょうか!?次回、ジント様とのドキドキ(?)の攻防戦が始まります!【読者の皆様へのお願い】「ここでジント様が来るのは熱い!」「残務処理が早すぎるジント様最高!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】の評価ポイントや、ブックマーク登録で応援していただけると非常に励みになります!星を【★★★★★】にして応援ボタンをポチッと押していただけますと、作者の執筆モチベーションがジント様の残務処理スピード並みに跳ね上がります!感想やレビューもぜひお気軽にお寄せください!

7月29日水曜をおやすみいたします


7月30日からまた投稿いたします

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