『第67話:初めの第一歩へ』
いつもお読みいただきありがとうございます!前回(第66話)、お披露目パーティー会場の大爆笑の渦に紛れて、お口をポカーンと開けて固まる家族たちを置き去りにし、電撃退職(お家出)を決開した萌ちゃん。第67話からは、ついに待望の新章が突入します!誰にも縛られない自由気ままなスローライフを求めて、いよいよ外の世界へ脱出を図ります。……が、2歳児の小さな歩幅の前にお屋敷の「広すぎる廊下」という大人の壁が立ちはだかり……?そこでリュックから取り出した、前世の無敵グッズとは一体!?新章の幕開け、どうぞお楽しみください!
萌は、重厚な鉄のドアに小さな両手をかけた。そして、体重を思いっきり乗せてゆっくりと押し開ける。
ギィィ……と低い音を立てて開いた扉の隙間から、まばゆいばかりの美しい光が差し込んできた。
その暖かな光が、萌の幼くて愛らしい
エルフの顔を優しく照らす。
しかし、お披露目パーティーの会場を
隙を見て脱出したものの、ここはまだ
巨大なお屋敷の敷地内であった。
萌の目的は、完全なるお家出を成立させること。前世でいうところの
「長期有給休暇」のスタートだ。
そのためには、まずは何としてでもこの巨大な屋敷の外へ出なければならない。未知の大自然へと繋がる、本当の出口
(ドア)を探し出す必要があった。
「い、いま思ったでしゅ……。このお屋敷、あまりにもひろしゅぎー! わたちが歩いたら、お外に出る前に日が暮れちゃうでしゅ!」
萌はよちよちとした幼児特有の、非常におぼつかない足取りで歩いていた。
どこまでもまっすぐに続く、長い、長い廊下を一生懸命に進む。だが、目的地までの道のりが絶望的に遠すぎるのだ。
現在の萌の肉体は、推定2歳児ほど。
歩幅にして、わずか15センチ程度である。それに対して、このファンタジー
世界の一流貴族のお屋敷は広大すぎた。
端から端まで移動するだけでも、大人の足でかなりの時間を要する。歩いても、歩いても、周囲の景色がまったく変わらない。本気でこのままでは、屋敷の玄関や勝手口にたどり着く前に夜を迎えてしまう。
萌の元アラサー社畜OLとしての鋭い危機管理センサーが、脳内でカンカンとけたたましく警報を鳴らしていた。
(この移動距離は完全に労働基準法違反でしゅ……! 前世のブラック企業だって、タイムカードを押す場所から自分のデスクまでこんなに歩かされなかったわよ! 早くも足がパンパンでパンパースでしゅ……!)
あまりの劣悪な移動環境の悪さに
萌が豪華な絨毯の廊下の真ん中でガクッと膝をつきそうになった、まさにその時だった。
萌の頭の上にしっかりと重心を置いて、ちょこんと乗っかっている、頼れる相棒の精霊王みちゃーれが、鼓膜を優しく震わせるような可愛い声で鳴いた。
「にゃあ」
『にゃあにゃあ(萌、そんなに苦労して自分の足で歩かなくとも、もっと効率のいい移動方法がそこにあるんじゃないか?)』
「はっ! そっかわたちには、この無敵の福利厚生があったでしゅ! たしか、このあたりに……あった
あった、あったでしゅ!」
みちゃーれのテレパシーによる助言を聞いてハッと気づいた萌は、小さな背中
から異世界収納リュックをどさりと床に下ろした。
そして、その中をごそごそ、ゴソゴソと小さな手で必死に漁り始める。
前世のオフィスや自宅から、なぜか異世界転生時にそのまま持ってきてしまった私物が大量に詰まっている、四次元
ポケットもびっくりの謎仕様の便利
バッグだ。
萌がリュックの奥底から勢いよく引っ張り出したのは、まさに今欲しかった
アイテム。
靴の裏に小さなインラインタイヤが仕込まれている特製の『ローラーシューズ』だった。
これこそが、大人の足を遥かに凌駕し
履くだけで通常より何倍ものハイスピードが出せる無敵の乗り物である。
「ふふ……! 前世の日本で、悪名高き満員電車の通勤ラッシュを限界まで避けるため、そして定時退社と同時に駅まで爆走するために密かに愛用していた、最強の退勤ハックアイテムでしゅ!」
萌はフリフリとした可愛いロリータドレスの裾を気にしながら、よちよちと器用にローラーシューズへと履き替えた。
小さな足に靴のベルトが、パチッと心地よい音を立ててフィットする。萌はカカトのタイヤにグッと全体重を乗せ
お屋敷の頑丈な床を思いっきり蹴り出した――。
シューーーーッ!!!
誰もいない静かなお屋敷の長い廊下に、滑らかで非常に心地よい風切り音が響き渡った。
「うひょーーー! すっごく快適でしゅ! これなら歩幅がちいさな幼児エルフでも、新幹線並みの超スピードで定時退社ができるでしゅ!」
萌は風を切りながら、迷路のような長い廊下を颯爽と滑り抜けていった。
ついさっきまでのよちよち歩きが嘘の
ようだった。廊下の壁に飾られた高級な絵画や観葉植物が、ハイスピードで後ろへとビュンビュン流れていく。
頭の上のみちゃーれも、強い風に自慢の白い毛並みを激しくモフモフとなびかせていた。
『にゃあ!(これは速いぞ萌! 人間の
文明もなかなか面白いじゃないか!)』
楽しそうにキャッキャと目を輝かせて
いる。前世の日本の技術が詰まった
ローラーシューズの驚異的な機動力のおかげで、日が暮れるどころか、わずか数分という圧倒的なビジネス効率でお屋敷の最深部を突破。
あっという間に「お屋敷の敷地から本当の外へと繋がる、最後の大きな勝手口の扉」の前へとたどり着いた。
萌はカカトをグッと押し当てて
シューーッと綺麗なブレーキングを決める。大きな扉の前にピタリと止まった。
「お世話になりました、お父様、お母様。萌は一足お先に失礼いたしましゅ!」
そう心の中で呟きながら、カチャリと
重厚な鍵を開けた。萌は今度こそ本当の「外の世界」へと足を踏み出した。
一歩外へ出ると、そこにはお屋敷の中とは比べものにならないほどの景色が広がっていた。
どこまでも抜けるような美しい青空と、生命力に満ち溢れた緑の大自然が地平線の向こうまで続いている。
「ついにやったでしゅ……! 誰にも邪魔されない、本当の自由気ままなスローライフの始まりでしゅ!」
小さくて可愛い幼女エルフの姿をした元社畜OLは、お供の最強精霊王みちゃーれと一緒に。
まだ見ぬ未知の大地、そして新章のわくわくする冒険へと向けて、記念すべき
『初めての第一歩』を力強く踏み出すのだった。
(第67話完)
第67話をお読みいただき、ありがとうございました!ついに始まった萌ちゃんのお家出(自由な旅)ですが、まさかのローラーシューズ大爆走での幕開けとなりました(笑)。歩幅15センチの2歳児姿でありながら、前世の通勤ハックアイテムを使いこなして廊下をシューッと滑っていく姿は、書いていてとても微笑ましかったです。お供のみちゃーれも風に吹かれてモフモフになりながら楽しそうでしたね。お屋敷の広さにツッコミを入れる萌ちゃんの社畜魂は、外の世界に出ても健在のようです。ついに本当の「初めての第一歩」を踏み出した萌ちゃん。次回からは、初めて訪れる異世界の街や、念願の冒険者ギルドでのドタバタがスタートします!【読者の皆様へのお願い】「ローラーシューズで爆走する幼女がシュールで可愛い!」「これからの旅が楽しみ!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】の評価ポイントや、ブックマーク登録で応援していただけると非常に励みになります!星を【★★★★★】にして応援ボタンをポチッと押していただけますと、作者の執筆スピードが萌ちゃんのローラーシューズ並みにアップします!感想やレビューもぜひお気軽にお寄せください!




