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第66話『次なる旅へのプロローグ』

いつもお読みいただきありがとうございます!前回(第65話)、時間が動き出した瞬間にテロリストたちの尊厳がマッハで永久破壊され、会場は大爆笑の渦に包まれました。第66話は、その爆笑のドタバタの直後からスタートします。お説教部屋から飛び出してきたお父様に、萌ちゃんが満面の笑みで「おちおき(自白)」を始めますが……?さらに、お母様の無言の圧力と、萌ちゃんのちゃっかりした大暴走が炸裂します!それでは、第66話をお楽しみください!

お父様は、きらきらと輝く家宝の大剣を構えたまま、彫刻のように完全に

フリーズしていた。だが、やがてこれ以上は張り詰めても無駄だと悟ったように、カチカチになった剣からそっと手を離す。


ガシャン、と床にどこか寂しい音を立てて置かれた大剣には目もくれず、お父様は大きな指先で頭をポリポリと掻いて、ふぅーと深い、深い、ため息をついた。


お説教部屋(別室の会議室)から血相を変えて飛び出してきたというのに、目の前に広がっていたのは凄惨な戦場などでは断じてなかった。


顔面にマッキーでいたずら書きをされ、頭髪を悲惨なパッツン逆モヒカン

(お母様の仕業)にされて、床に突っ伏してワンワンと泣き崩れているテロリストたちである。


お父様は、一体全体この数分間のうちに何が起きたのかを、優しく聞こうと思った。


「えっと……もえちゃん? この前代未聞の爆笑の渦の前に、一体何があったのかお父様に話してくれないかな?」


お父様はその場にガシャリと大きな身体を丸めてしゃがみこみ、目線を萌に合わせて、努めて優しく尋ねた。


萌は、お披露目パーティー会場が完全に静止していた不思議な世界での出来事を、最初から順番に話し始めた。


だけど、その内容があまりにも傑作すぎて、本人の頭の中でも思い出すだけで、どうしてもクスッと笑えてしまうよう

だった。それもそのはず、中身は元アラサーの限界社畜OLだ。


自分たちのハッピーなスイーツタイムを邪魔した悪党の尊厳をマッハで永久破壊したのだから、満足感で胸がいっぱいなのも無理はない。


「あのね! 悪いちとたちが来てね、萌はみんにゃを守りたくてぇ、防御魔法使っちゃったの! そしたら、わるい人達をおちおきちたいと思って、時間をとめちゃったの! ペン持って落書きちたら、ママの手元にはしゃみがあって、いっちょにやったの!」


幼い舌で言葉を可愛らしく噛みながら、小さな手をパタパタと動かして、萌はものすごく楽しそうに、満面の笑みで報告した。


「時間を止めた」「一緒にハサミでやった」国家転覆をいとも簡単に成し遂げられそうな超高等古代魔法と、シュールすぎる物理的な散髪のコンボをさらりと自白する娘の姿に、お父様は怒るに怒れない状態になっていた。


というか、すでに一般常識が超えほど

崩壊を起こしており、脳の処理能力が

完全に限界を迎えている。


(ま、待て……。時間を止めた……? え、我が娘は今、さらっと世界を止めたと言ったか……? いや、それ以上に……あのモヒカンーーッに肉や犯人ですって書かれるの面白過ぎるっ!)


お父様は引きつった顔でそう考え

テロリストの頭と、自分のすぐ後ろに

佇むお母様の姿を交互に見た。


「そうだったんだね……。時間を止めて、落書きと散髪……。いや、それにしてもあの、ボスの頭の絶妙な裁ちばさみの切れ味、どこかで見覚えが……」


お父様は本質に迫る疑問を口にしそうになり、言葉を言いかけた。

その瞬間――。


ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!


お父様は、後ろにいたお母様から

放たれる、目に見えそうなほどの凄ま

じい「圧」を全身の肌で感じた。


恐る恐る後ろを向きたい。向けたいのに、その凄まじい圧のせいで、本能的な恐怖から身体がピキッと固まって一ミリも動かない!お父様の背中からは、滝のような冷や汗が恐ろしい勢いで流れ出ていた。まるで床に汗が波になりつつあるぐらい…。


お父様の直感が、告げていた。今もしも後ろを振り返って、ハサミを持った妻と目が合ってしまえば、自分の前髪も

テロリストと同じ悲劇を迎えることになると。


後ろのお母様は、相変わらず聖母のようなにっこり笑顔のまま、一切の弁解を

許さない「絶対零度の無言の圧力」を

かけ続けている。


――そして、お父様とお母様がそんな風にガチガチの膠着状態に陥った、まさにその隙だった。


「ふふん、今がチャンスでしゅ」


萌は大人たちの視線から外れ、すたこらさと1人でステージ(壇上)に上がった。


空間に置かれていた、司会進行用の拡声魔導マイクをちいさな手でしっかりと握りしめると、会場全体に向けてよく通る大きな声を響かせた。


「わたちは! このお披露目会ができて、ちわわちぇ(しあわせ)でしゅ!

それで、わたちの目標は……冒険者になって、色んなところに行くでしゅ!」


まだ2歳児ほどの可愛い幼女エルフが、マイクを使って堂々と将来の目標を宣言したのだ。


「おおオ……っ! なんという素晴らしい志なのだ!」


「命を狙われた直後だというのに、なんという不屈の精神! さすがは神の愛し子!」


テロリストを撃退した興奮冷めやらぬ貴族たちは、萌の健気で勇敢な言葉にこれ以上ないほどの大感動を覚え、会場全体から割れんばかりの拍手喝采が巻き起

こった。


しかし。


「「……え?」」


拍手で沸き立つ貴族たちとは対照的に、我が家の家族たち――お父様、お母様、そして遅れて突入してきた騎士団の面々だけは、お口をポカーンと大きく開けたまま、魂が抜けたようにその場で完全に固まっていた。


お母様のドス黒い圧も一瞬で消え去り、夫婦揃って「冒険者……? 旅に出る……? え、今なんて言ったの……?」と完全にフリーズしている。


そんな家族の硬直をよそに、萌は頭の上のみちゃーれとバチッと視線を交わした。


(わ、わぁぁ……っ! このままここにいたら、絶対に後でめちゃくちゃ面倒く

さい社交界の接待ビジネス

お父様たちの過保護な説教残業に巻き込まれるやつでしゅ! 逃げるが勝ちでしゅ!)


前世のブラック企業時代の嫌な記憶が

萌に全力の撤退を促す。テロリストたちが本物の警備兵に引きずられて退場していくドタバタと、貴族たちの熱狂的な拍手の渦に紛れて、萌はステージの裏手へとこっそり飛び降りた。


背中には、なぜか事務用品が詰まった

異世界収納リュック。頭の上には、最強で最高にモフモフな相棒の精霊王

みちゃーれ。


「誰にも縛られない、自由気ままな旅を、今ここから始めるでしゅ!」


小さくて可愛い幼女エルフの姿をした

元社畜OLは、唖然とする家族を置き去りにしたまま、まだ見ぬ未知の大地

そして本当のスローライフへと向けて、そっと会場の裏口を押し開け、記念すべき第一歩を踏み出すのだった。


(第66話完)

第66話をお読みいただき、ありがとうございました!お父様の困惑をよそに、満面の笑みでお仕置きを自白しちゃう萌ちゃんが最高にマイペースでしたね(笑)。そしてお母様の物理的な「ゴゴゴッ」という圧……! お父様が動けなくなっている隙を見逃さない萌ちゃんの社畜仕込みの立ち回りと、マイクパフォーマンスには作者自身も書いていてニヤニヤしてしまいました。家族一同がお口ポカーンとなる中で、面倒な残業(社交界の接待)をスルーして電撃退職(お家出)を決めた萌ちゃん。ついに次回から、本当の「自由気ままな旅」が始まります!【読者の皆様へのお願い】「お父様の冷や汗が目に浮かぶ!」「お口ポカーンとする家族が最高!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】の評価ポイントや、ブックマーク登録で応援していただけると非常に励みになります!面白い、続きが読みたい!と思っていただけましたら、星を【★★★★★】にして応援ボタンをポチッと押していただけると嬉しいです!感想やレビューもお待ちしております!

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