『第65話:爆笑の嵐、幕開け』
いつもお読みいただきありがとうございます!前回(第64話)、時間が止まった会場で、悪い大人たちに前世のブラック社畜魂(と、漆黒の魔筆・マッキー極細)でお仕置きを完了した萌。第65話は、ついに時間が動き出します!……が、どうやらお仕置きをしていたのは萌だけではなかったようで……?お披露目パーティー会場に、前代未聞の爆笑の嵐が巻き起こります!それでは、第65話をお楽しみください!
「ふぅ……。これでおちおきタイム
おわりでしゅ!」
人質は全員保護完了。悪党どもの尊厳はマッキー(油性)で完全破壊。すべての敵の顔を完璧に、かつ一切の手抜きなしでプロデュースし終えた私は
マッキーのキャップをパチンと小気味よく閉めて、満足のいく深いため息をついた。
これで舞台整えは完了。あとはお母様の隣へとよちよち歩きで戻り、止まった
世界の時計の針を再び動かすだけ――。
そう思った、その時だった。トントン、と私の小さな肩を、後ろから優しく叩く手があった。
振り返ると、そこには完全に静止した
世界の中で、なぜか私と同じように自由を許され、優雅に佇んでいるお母様の
姿があった。
「あらあら、萌ちゃん。ずいぶんと楽しそうなことをしていたのね」
お母様は、ふんわりとしたドレスの裾を揺らしながら、にっこりと聖母のような微笑みを浮かべている。
だが、その美しい瞳の奥は、まったく笑っていなかった。むしろ、見たこともないようなドス黒いオーラが背後から立ち上っている気がする。
「もえちゃん、ママもあの悪い人たちをお仕置きしてもいいかしら?」
お母様はそう言うと、首や肩をコキコキと鳴らし、楽しそうにストレッチを
始めた。
その姿は、これから優雅なダンスでも
踊るかのようであり、同時に、これから獲物を狩りに行くベテランハンターの
ようでもあった。
さすがは、中身が元アラサー社畜OLである私の母親だ。我が家の血筋
(主に精神面)の恐ろしさを、私は今
改めて肌で感じていた。
「いいでちゅ! わたちはここで待ってるから、終わったらこえかえてぇ」
萌の快い許しが出た。それを聞いた
お母様は、「うふふ、ありがとう」と
さらに深い笑みを浮かべ、よちよちと
(しかし異様な威圧感を放ちながら)
悪い人たちの元へと歩み寄っていく。
その手には、一体どこから取り出したのか、冷たく鈍い光を放つ一本の
「裁ちバサミ」が握られていた。
シャキ―― シャキ――
静寂に包まれた時間停止空間に、刃物の擦れ合う不穏な音が響き渡る。
お母様は、まずはテロリストのボスの
前に立つと、迷うことなくそのハサミの刃を彼の頭髪へと突き立てた。
ザクッ、ザクザクザクッ!
「まずはこの、いかにも悪党らしい不潔な長髪をすっきりさせてあげましょうね。あ、ついでに前髪はパッツンに
して、後ろは大胆に刈り上げちゃい
ましょう!」
お母様は楽しそうに鼻歌を歌いながら、ものすごい手際でボスの髪を切り刻んでいく。
床にボサボサと落ちていく大量の
髪の毛。
ものの数十秒で、ボスの頭は
「前髪がミリ単位で揃った、奇妙な逆
モヒカン」へと変貌を遂げた。
顔面の泥棒ヒゲ落書きとの相乗効果が凄まじいことになっている。お母様の無双はそこで終わらなかった。
「次はそっちの大男ね。あら、あなたも髪型がだらしないわ」
「こちらの魔法使いさんは、ちょっとおでこが広くなりたがっているのかしら?」
シャキシャキシャキシャキ!
静止した世界の中を、お母様はハサミを片手に軽やかに舞った。ある男は左右
非対称の非対称すぎるアシンメトリーにされ、ある大男は頭頂部だけを綺麗に
丸められてザビエル風にされ、クール
ぶっていた魔法使いにいたっては、前髪だけをめちゃくちゃ短くされた上に
側面に謎のギザギザ模様を刻み込まれていた。
誰も動けない世界の中で、黒い油性ペンを持った2歳児と、裁ちバサミを持った母親が、テロリスト集団を一方的に蹂躙していく光景。
それはある意味、どんな神級魔法の無双シーンよりも、人間の尊厳の崩壊という意味で恐ろしいものがあった。
「ふぅ、萌ちゃん、お待たせいたしました。これでママのお仕置きもおしまいよ」
すべての敵の髪型を完璧にプロデュースし終えたお母様が、ハサミをしまって
上品に微笑んだ。私はお母様の隣へと
よちよち歩きで並び、頭の上のみちゃーれとバチッと視線で目配せを交わす。
さぁ、今度こそ、止まった世界の時計の針を、再び動かす時間だ。
「――にゃあ」
みちゃーれが短く鳴いた。それが、世界の再生の合図。シャンデリアから放たれる光の粒子が再びきらめき、すべてが動き出す。
「――だったら、その自慢の力で人質を守ってみせろよぉ!!」
ついさっきまで完全に静止していたテロリストのボスが、時間が止まる直前の
セリフの続きを、勢いよく叫びきった。
自分の顔面にマッキーで泥棒ヒゲが描かれ、頭髪が奇妙なパッツン逆モヒカンになっているとも知らずに。
「ひっ……!」
「うわあああ! 殺されるっ!」
身構える貴族たち。ボスの掲げた
ナイフが、公爵の首筋へと突き出される――
――キィィィィィンッ!!!
空間に、小気味よい硬質な音が響き渡った。ボスのナイフは、公爵の肌に触れることすらできない。私が仕込んでおいた超高等全方位保護魔法の防護壁が
淡いブルーの輝きを放ちながら、すべての人質を完璧に包み込んで弾き返したのだ。
足元の氷も綺麗に溶けていく。
「な、なんだと……っ!?」
驚愕するボス。しかし、会場の誰も
その高度な魔法に感動してはいなかった。
「……ぷっ」
誰かが、必死に笑いを堪えるような声を漏らした。それを皮切りに、張り詰めていたはずのお披露目パーティー会場の
空気が、一瞬で奇妙なものへと変貌していく。
「お、おい……見ろよ、あのテロリストのボスの顔……と、頭……っ!」
「ププッ! 泥棒ヒゲにおでこの
『肉』……だけでも酷いのに、あの頭は何だ!? パッツン……パッツンモヒカンだぞ!!」
「アハハハハ! 似合いすぎている! 腹が痛い、ハハハハ!」
一人の貴族が耐えかねて吹き出すと
それは一爆十爆、いや、百爆となって会場全体へと瞬く間に感染していった。
「おい、あっちの大男の頭を見ろ!
ザビエルだ! ザビエルがいるぞ!」
「ク、クスクス……! あの冷酷な暗黒魔法使いの目が少女漫画なのに、髪型が
ギザギザのハゲ散らかしスタイルよ……! 斬新すぎるわ……っ!」
ドッと沸き起こる、文字通りの爆笑の嵐。命の危機から一転、会場はまるで
一流の喜劇の劇場と化していた。
「な、なんだ!? なぜ笑う!? 貴様ら、死ぬのが怖くないのか!?」
ボスが顔を真っ赤にして怒鳴り散らすが、そのマッキー顔と新型モヒカンの
せいで、怒れば怒るほどコミカルさが
増していく。
「頭領、大変です! 鏡を、水魔法の鏡を見てください!」
「あぁん!? 鏡だと……って
ぶはっ!? 貴様、その顔と頭はなんだ!」
「頭領こそ、その顔と頭は何ですか!?」
仲間同士で顔を見合わせ、お互いの
ギャグ漫画フェイス&大失敗散髪
スタ イルに硬直するテロリストたち。
慌てて差し出された水鏡を見た瞬間
ボスの顔から血の気が引いた。
「な、なんだこれはぁぁぁぁぁっ!?
いつ、誰がこんな呪いと散髪を施した!?」
ボスはパニックになりながら、自慢の
水魔法で頭と顔を激しく洗い始めた。
だが、油性マッキーと物理的に切られた髪の毛が、異世界の水魔法程度で元に
戻るはずがない。
キュッ、キュッ、と水に濡れてさらに
黒光りする『肉』の文字。
そして、水を含んでペッタリと張り付く悲惨なパッツン前髪。
「お、落ちん……! 髪も生えてこん……!? 一体どんな強力な、尊厳を
破壊する闇の古代魔術だ……!」
「頭領! 俺の顔には『私がスパイです』って書いてあります!
犯人は私ですって矢印が……!」
「おお、自己主張をありがとう。では、大人しく捕まってもらおうか」
内通者の前に、親切な告発文を読んだ
本物の警備兵たちが、笑顔で手錠を
持ってゾロゾロと集まり、一瞬で
スピード検挙。
悪党たちは、テロリストとしての威厳を完全に木っ端微塵にされ、ガタガタと
震えながらその場に泣き崩れた。
うんうん、最強親子のコラボお仕置き
(物理)だからね。
諦めてお縄についてね。その時
バンッ!! と大きな音を立てて、お披露目会場の重厚な扉が勢いよく開け放たれた。
「萌!! 無事か――って、え?」
奥のお説教部屋から、異変を察知して
武器を片手に血相を変えて飛び込んで
きたお父様たち。
しかし彼らが目にしたのは、大爆笑する貴族たちと、顔面に落書きをされ
髪の毛をめちゃくちゃにされて泣き叫んでいるテロリスト集団の姿だった。
あまりの温度差に、お父様は剣を構えたまま完全にフリーズしている。
私はすかさず、お母様のドレスの裾へとよちよち歩きで隠れた。
そして、うるうると大きな目を限界まで潤ませ、可愛い幼児の声で思いっきり
叫んだ。
「お、おとーしゃまぁ……! わるいひとが来て、も、もえ、すっごくこわかったのぉ……っ!!」
私のその完璧な演技
(無罪モエモエアピール)
にテロリスト一同が「お前ら親子が一番怖いよ!!」
と言いたげな絶望の視線を送ってきたが、もちろんすべて無視した。
こうして、私のお披露目パーティーを
邪魔した不審者処分業務は、弊社の完全勝利で幕を閉じたのだった。
(第65話完)
第65話をお読みいただき、ありがとうございました!萌ちゃんのお仕置き(マッキー極細)だけでも致命傷だったテロリストたちですが、まさかのお母様までハサミを持って参戦してしまいました……(笑)。顔はギャグ漫画、頭はパッツン逆モヒカンやザビエルにされた悪党たちの尊厳は、もう完全にゼロです。お父様が突入してきた時の、あの温度差が作者的にもお気に入りです!最後はしっかり「無罪モイモイアピール」で締める萌ちゃんでした。【読者の皆様へのお願い】「お母様容赦なさすぎる!」「テロリストの髪型で吹いた!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】の評価ポイントや、ブックマーク登録で応援していただけると非常に励みになります!面白い、続きが読みたい!と思っていただけましたら、星を【★★★★★】にして応援ボタンをポチッと押していただけると嬉しいです!感想やレビューもお待ちしております!




