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第62話:お披露目パーティー再開?

いつもお読みいただきありがとうございます!前話では、暴走したシスコン兄貴二人がお父様に引きずられ、無事にお説教部屋(地獄)へと連行されていきました。残された萌とお母様のエレオノーラ。お騒がせな男たちを放置して、ようやく平和な(?)お披露目パーティーが再開されるかと思いきや……?元アラサーOLの萌ちゃん、今回は会場の異変と新たなトラブルに直面します!

「うふふ、さぁ行きましょうね、萌ちゃん。あんなむさ苦しい男たちは放っておいて、女の子だけで楽しむのが一番よ。さぁ、お騒がせな男の人は放っておいて、私たちはパーティーを優雅に再開しましょうね」


お母様は機嫌よくフンスと鼻を鳴らし、私の小さな手を引いて、再びお披露目パーティーの会場へと足を踏み入れた。


きらびやかなクリスタルのシャンデリアが放つ、まばゆいばかりの光。楽しげに、そしてどこか興奮した様子で談笑する貴族たちの賑やかな声。


そして、鼻腔をくすぐる最高級の宮廷料理や甘い果実の香りが私たちを迎える。(おおお……! これよこれ! これが私が求めていた『貴族の優雅なパーティー』ってやつよ……!)


さっきまでの、お説教部屋から響いていた「地獄のデスゲーム(物理)」の悲鳴が嘘のようだ。


床をずるずると引きずられていった哀れなにぃに達の姿が一瞬だけ脳裏をよぎったが、私はそっと目を閉じて脳内ゴミ箱へとデリートした。


強く生きてね、にぃに達。


私は一足お先に、天国へと戻らせてもらいます。


「まぁ! エレオノーラ様、お待ちしておりましたわ!」


「そちらが噂の、萌様ですね! なんて

愛らしい……!」


会場に戻るやいなや、私とお母様の周りには、さながら高級ブランドの新作発表会のごとく、一斉に華やかな貴婦人や令嬢たちが集まってきた。


普段ならお父様やお兄に達という名の

「強固なシスコン防壁」があるせいで、誰も私に近づけなかったのだ。


男手が一時的に排除された今、彼女たちにとっては絶好のチャンスというわけである。


(うわぁ、視線が痛い! でも前世の取引先との、おじさんだらけの圧迫懇親会に比べれば、ドレスを着た綺麗なお姉さんたちに全方位から囲まれる方が一兆倍

マシね!)


「あいっ! もえ、みんなに会えて、とっても、うれちいでちゅ!」


私は必死に、前世の営業スマイル

(※ただし2歳児仕様の破壊力抜群バージョン)を浮かべ、小さな手をパタパタと振った。


その瞬間、周囲の貴婦人たちから

「キャーッ!」という黄色い悲鳴が一斉に上がる。


「なんてお行儀が良いのでしょう!」


「お顔立ちがまるで天使のようですわ!」


「あのお口元、まるで極上のミルクチョコレートを一口かじった時のような幸福感を得られますわ……!」


(よし、掴みはオッケー! 幼児化チートによる精神攻撃はバッチリ決まったわね。チョロい、貴族の皆様チョロすぎるわ!)


お母様も周囲の絶賛に満足げに微笑んでいる。だが、元社畜OLの鋭い目は騙せない。


お母様の背後で、控えているお抱えのメイドさんが、おそらくさっきの

「萌のネコの絵オークション」でむしり取ってきたであろう、天文学的な金額の金貨が詰まった革袋を必死の形相で両腕に抱えているのが見えた。


ずっしりと重そうなその袋は、さながら現代の宝くじで大当たりしたように見える


(……うん、やっぱり我が家で一番敵に回しちゃいけないのは、肉体派のお父様じゃなくて、この笑顔で財布を合法的に毟り取るお母様だわ。確信した。

これぞヴィン・ラジ家の真の支配者)


「さぁ萌ちゃん。あちらに、あなたのために用意させた特製のタルトがあるの。ドレスも髪型も、とっても似合っていて可愛いわよ。一緒に食べましょうね」


「たると! あいっ、いきまちゅ!」


お母様にエスコートされ、会場の奥にあるVIP専用のデザートカウンターへ向かう。


そこには、きらきらと輝く幻の果実が

これでもかと乗った、宝石箱のような

フルーツタルトがずらりと並んでいた。


今度こそ、本当に今度こそ、私はこの

平和な時間と甘いスイーツを堪能できる――。そう思ったのだが、改めて会場全体をぐるりと見渡した私は、思わず持っていたフォークを床に落としそうになった。


(……いや、ちょっと待って。パーティー再開どころの騒ぎじゃないわこれ!?)


そこに広がっていたのは、きらびやかな夜会とは程遠い、まるで大型台風が直撃した直後のような、あるいは深夜の満員電車に揉みくちゃにされた後のような、凄まじい光景だった。


お兄にたちのあの命がけの、そして狂気に満ちたジェスチャーゲームに巻き込まれたせいで、並み居る高位貴族たちの

高級なシルクの衣服はシワだらけのボロボロ。


バッチリ決まっていたはずの貴婦人たちの縦ロールの髪型は、鳥の巣一歩手前まで激しく乱れ果てている。


紳士たちはネクタイが曲がり、みんな一様に「ハァ、ハァ……」と肩で激しく息を荒くしており、完全に「戦後」の空気感が漂っていた。


そんな地獄絵図のような惨状を前に

して、完璧なお母様も、引きつった笑みを浮かべながら頬をピクピクと震わせている。


「残念ね、萌ちゃん。お披露目パーティーを再開しましょう……と言いたいところなんだけど。さすがにこの散乱した状態でやるのも、あれなのよねぇ……」


お母様は、白く美しい額を押さえて深いため息をついた。いくら我が家の愛娘をお披露目したいとはいえ、招待客が全員ボロ雑巾のようになっている状態では、優雅な歓談などできるはずもない。


(お母様、気づくのがちょっと遅いよ! 完全ににぃに達の暴走のせいで、我が家の格式高いパーティーがぶち壊しじゃないの! ていうか、その暴走のきっかけを作ったのは、間違いなく萌の

『ネコの絵』で貴族たちを限界まで釣り上げたお母様だからね!? 自分だけすっきりとご満悦な顔をして帰ってきているあたり、この親にしてあの子あり

といったところだけど!)


私の脳内でアラサーOLのハイスピードツッコミが木霊する。すると、私の頭の上で、ずっと存在感を消して大人しく丸くなっていた「猫」――その正体である最高位の精霊王みちゃーれが、呆れたように小さく「にゃあ」と鳴いて念話を送ってきた。


『やれやれ。人間の貴族ともあろう者が、子供の悪ふざけにここまで翻弄されるとはな。これではパーティーどころか、ただの難民キャンプではないか。

情けない限りだ』


(みちゃーれ、心の中の念話で辛辣な毒を吐くのやめなさい。まぁ、ぐうの音も出ないほど正論なんだけどね……。あのおじさま貴族なんて、片方の靴が脱げてるし)


お母様は、乱れたドレスを必死に直そうと冷や汗を流している公爵夫人たちを見つめながら、「はぁ……」ともう一度重いため息をつく。


「仕方ないわね。一度お着替えや身だしなみを整える時間を設けて、パーティーは一時中断――」


お母様がそう決断を下し、声を上げようとした、まさにその瞬間だった。


「も、萌さまぁ……? はっ、何がパーティーだよ!」


ボロボロになった貴族の列を割って

一人の名も知らない男が、狂ったように顔を真っ赤にして叫びながら飛び出してきた。その衣服も乱れているが、その目は明らかに正気ではない。


「このちびのお披露目パーティーなんぞに大金をかけて、しかも厳重なはずの警備すらおろそか! これがヴィン・ラジの力か? 笑わせるなよ! お前ら、一斉攻撃だ!」


男が懐からホイッスルを取り出し、鋭く口笛を吹いて合図を送った、その刹那。


会場の空気が一瞬で、凍りつくような殺気へと一変した。華やかな夜会に給仕係に変装して紛れ込んでいた男たちや

テラスのカーテンの影に潜んでいた武装した暴漢たちが、一斉に鈍く光る武器を抜いて飛び出してきたのだ。


「キャー! なんですの!? ヒッ……殺さないでくだまし〜っ!」


先ほどまで髪型を気にしていた一人の貴婦人が短い悲鳴をあげる。その首元には、すでに暴漢の一人が冷たいナイフの刃を容赦なく突きつけていた。


一瞬にして、華やか(でボロボロ)だった会場が、血生臭い人質監禁事件の現場へと変貌を遂げる。


(はあああ!? ちょっと待って、何この急展開!? テロ!? 逆恨みの襲撃!? 展開早すぎない!?)


私の脳内でアラサーOLの危機管理センサーが、最大音量で非常警報を鳴らし始める。男の言う通り、お父様とにぃに達が説教部屋という名の防音室に籠もってしまったせいで、この会場の最高戦力が一時的に不在なのだ。


彼らはその一瞬の隙を、完璧に狙って仕掛けてきたらしい。


だが、この哀れな男は、人生最大の決定的な勘違いをしていた。


「ふん、ヴィンテ・ラジ家も形無しだな。この小娘の身代金と、さっきのオークションで集めた大金をすべてここに置いて――」


「にゃあ(本当に愚かな)」


私の頭の上で、精霊王みちゃーれが

心底からの哀れみを含んだ冷ややかな声で鳴いた。


『おい、萌。あの大ボケ野郎、我が主であるお前を『ただのちび』呼ばわりした上に、この場にいるエレオノーラを

『警備が薄くて無防備な女』だと本気で勘違いしているぞ。身の程を知らんとはこのことだな』


(……あ、終わったわね、あの人たち。命がいくつあっても足りないわ)


私が冷や汗を流したのは、武器を持ったテロリストたちに対してではない。

私の隣で、パサリと扇子で口元を隠しながら、ウフフ……と本日一番の、そして最も美しい笑顔を浮かべているお母様に対してだ。


「あらあら……。萌ちゃんの大切なお披露目に泥を塗ったばかりか、私の大事な『売り上げ』にまで手を付けようとするなんて。ずいぶんと命が軽い子たちのようね」


お母様の周囲の空気が、お説教部屋に向かった時のお父様以上に、絶対零度まで凍りついていく。その背後からは

物理的な威圧感プレッシャーが黒いオーラとなって立ち上っているのが見える気がした。


手元の人形(萌のネコの絵)を汚され、せっかく稼いだ財布を狙われた

この世界最強の母親が静かにブチ切れた瞬間だった。


(よし、みちゃーれ! お母様が怒りの

あまり、この会場ごとあのテロリストどもを跡形もなく消し飛ばす前に、私たちがサクッと片付けるわよ! これ以上パーティー会場を壊されたら、私のタルトが食べられなくなっちゃう!)


『御意。幻のエルフの力、そして精霊王の真の恐ろしさ、この愚民どもに骨の髄まで見せつけてやろう』


見た目は2歳の可愛い幼女、中身は

ガッツリ修羅場をくぐってきたアラサーOL。


お父様たちが説教を終えて戻ってくるまで、おそらくあと数分。


私の、異世界における初めての「お仕事(不審者の迅速な排除業務)」が、

今まさに始まろうとしていた。


(第62話 完)

第62話をお読みいただき、ありがとうございました!お父様がいない隙を狙ったテロリストたちの襲撃……ですが、彼らはこの会場にいる「お母様」と「2歳児(中身アラサーOL&精霊王)」という、ヴィン・ラジ家の本当の化け物(失礼)たちを完全に怒らせてしまいました。次回、萌ちゃんとみちゃーれの異世界初のお仕事(不審者スピード排除業務)が始まります!もし「萌ちゃん、テロリスト相手に容赦なさそう!」「お母様キレさせたらアカン……」と少しでも楽しんでいただけましたら、画面下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に!評価・ブックマークで応援していただけると、執筆の凄まじいモチベーションになります!感想やレビューもお待ちしております。次回の第63話もどうぞお楽しみに!

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