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第60話:『バラの髪型と地獄絵図』

いつもお読みいただきありがとうございます!お兄にたちが会場で「とんでもない作戦にゃんこジェスチャーゲーム」を繰り広げる中、お着替え部屋でメイドちゃんに最高に可愛い「バラの髪型」にしてもらった萌ちゃん。誘拐された恐怖を乗り越え、仕切り直して会場の扉を開けた瞬間……そこに広がっていたのは、まさに「この世の地獄」でした。元アラサーOLのコミュ力と、幼女の圧倒的なあざとさをフル活用した萌ちゃんの奮闘を、ぜひお楽しみください!

カチコチ。ピキリ。


会場を包むのは、まるで世界の時間が

完全に停止してしまったかのような

圧倒的な静寂だった。さっきまで

この世のものとは思えない熱気で床をのたうち回り、『尊厳を失ってマタタビに悶絶するサーベルタイガー』を全力で演じていた大貴族たち。


彼らは今、文字通り石像のように硬直していた。高級なシルクのタキシードは

床の埃にまみれ、気品あふれる仕立てのドレスは無惨にもシワだらけ。髪型も

すっかりぐちゃぐちゃになった国の重鎮たちが、顔面を真っ青に染め、滝のような冷や汗を流しながら、入り口に立つ

私を凝視している。


すべては、壇上にいる我が家のシスコン兄貴二人――アレクにぃにとライダにぃにが掲げた、私の『超絶可愛い限定・寝顔写真』を手に入れるため。


まさか、当の本人にその狂気の現場をバッチリ目撃されるなんて、彼らは微塵も思っていなかったのだろう。


「あ、あはは……萌ちゃん、おかえり……早いお着替えで、助かるよ……」


「お、おう、萌……綺麗になったな……? その、今のはだな……」


壇上でマイクを握ったままの鬼コーチ

二人も、完全に顔を引き攣らせて冷や汗をダラダラと流している。


その横では、私を優しく抱きしめているお父様の身体から、ゴゴゴゴと地鳴りのような怒りのオーラが立ち上っていた。


お父様の笑顔の奥にある目が、全く笑っていない。お兄にたちの退路は完全に断たれていた。


(な、なによこのカオスな状態……!

一体どういう同期タイミングでこの場に戻れば正解だったのよ……!?)


私の脳内(中身:元アラサーOL)の細胞が、フル回転で現状を分析する。私は

ついさっき、お披露目パーティーの最中に誘拐されて袋に詰め込まれるという、とんでもなく怖い目に遭ったばかりだ。


あまりの恐怖に大泣きしてしまい

ドレスを汚してしまったから着替えに

引っ込んでいた。


まさか、自分が命からがら戻ってきた

戦場で、別の意味での地獄絵図が広がっているなんて誰が想像できただろう。


(まずい、このままじゃお父様の怒りが大爆発してお兄にたちは間違いなく社会的……いや物理的に逝く!

それに、招待した貴族の皆さんも恥ずかしさのあまりショック死するか、自分で自分に記憶消去の魔法をかけかねないわ。まずはみんなに服を直してもらって、お兄にたちをお父様のお説教部屋へ連行する時間を稼がなきゃ……!

うーん、どうする私!?)


この場にいる全員の尊厳と命を救うため、私は意を決して、お父様の腕の中で精一杯の幼児偽装スキル――すなわち、あざとさ1000%の可愛いポーズを発動することにした。


「おもたて(お待たせ)いたちまちた! 萌に、ちゅうもく(注目)してねっ!」


鈴を転がすような、幼女特有の高い声を会場中に響かせる。私は自分の新しい

ドレスの裾をキュッと両手でつまむと、お父様の腕からぴょんと床に降りた。


そして、その場でフリルのスカートをなびかせながら、くるりと一回転してみせる。


「見てみて! このお花がまう(舞う)ようなドレスに……この、薔薇のかみがた(髪型)! メイドちゃんがしてくれたの! ……にぃに、皆様、おにぃあ

(似合)ってる?」


首をほんの少し小首を傾げ、上目遣いできゅるんとした満面の天使スマイル。

さらに、メイドちゃんたちが私のどんよりした空気を変えようと魂を込めて編み込んでくれた、頭の上の見事な「バラ」をちんまりとした人差し指で指差してみせた。


(わぁっ……! 我ながら何とも言えないド修羅場の空気に、私が必死に言い訳

(フォロー)をする羽目になってるよぉ……! だ、大丈夫だよね!? みんな

お願い、カオスから戻ってきてぇぇ!!)


私の心の中の必死な叫びとは裏腹に

その瞬間、会場の空気が再び物理的に震えた。


「「「ぶっっっ……!!(鼻血)」」」


静止していた貴族たちの胸に、今度は

「尊さ」という名の特大の衝撃波が突き刺さった。


誘拐事件の恐怖から健気に立ち直り

さらに可愛くなって戻ってきた幻の

エルフの幼女。しかも、自分のために

髪をバラの形に結って

「似合ってる?」と無邪気に聞いてきているのだ。


先ほどまでの「床ゴロゴロの醜態を見られた絶望」は、萌ちゃんの圧倒的な愛らしさによって一瞬で上書き消去された。


「お、お似合い……お似合いにございますぅぅ!!」


「なんと愛らしい薔薇の妖精様か……! 目が、目が浄化される……!」


「ドレスを汚した誘拐犯など、我が侯爵家が総力を挙げて地の果てまで追い詰め、八つ裂きにしてくれよう……!」


あまりの尊さに理性を吹き飛ばされた貴族たちが、今度は限界オタクのような目で血走らせて立ち上がった。


床の埃を払うのも忘れ、ドレスのシワも気にせず、一斉に私を拝み始める。


「萌ちゃん、めちゃくちゃ似合ってるよ! 世界一可愛いよおぉぉ!!」


「さすが俺の妹だ! バラより萌の方が何百倍も綺麗だぜぇ!!」


さっきまでの冷や汗を綺麗さっぱり吹き飛ばし、再びド級の親バカモードで壇上から飛び出してこようとするお兄様

たち。


――しかし。彼らが私の元にたどり着く前に、お父様の大きな手が

ガシッ ガシッと二人の肩を背後から力強く掴んだ。


「……萌。とてもよく似合っているよ。可愛い我が娘のために、パパがこの会場を少し片付けさせておくからね」


お父様は私にだけ極上の聖母スマイルを向けると、そのままの笑顔で、両手に

生け捕った息子二人を引きずり始めた。


「ひっ……!」


「お、おやじ……!? 萌、萌ちゃん助けてぇぇぇ!」


「アレク、ライダ。……さぁ、お説教

(おはなし)の時間だ。たっぷり夜通し語り合おうか」


床をずるずると引きずられながら

恐怖の表情で私に必死に手を伸ばす

お兄にたち。私はそっと目をそらし

心の中で静かに手を合わせたのだった。にぃに達、どうかお達者で。

(第60話 完)

第60話をお読みいただきありがとうございました!萌ちゃんの「似合ってる?」という天使の一言、破壊力が凄まじかったですね……!自分の尊厳が死にかけ、恥ずかしさのあまり消え入りそうになっていた貴族たちにとって、萌ちゃんのその言葉はまさに救いの光(と特大の萌え爆弾)でした。貴族たちの服のシワやメンタルは、萌ちゃんの可愛さによって無事に(?)上書き修正されたようです。……が、良かれと思って暴走したにぃにたちの物理的な安全だけは救えませんでした(笑)。笑顔で息子たちを引きずっていくお父様、さすがの貫禄です。お説教部屋での二人の冥福を祈らざるを得ません。もし「萌ちゃんナイスフォロー!」「バラの髪型可愛すぎる!」と思ってくださったら、ページ下部のブックマーク登録や、評価の☆をポチッと応援していただけると、執筆の凄まじい励みになります!次回、怒れるお父様の制裁と、お披露目パーティーの本当の結末へ続きます!

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