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第56話:『解かれた縄と、静かに動く影』

いつも応援ありがとうございます!第56話をお届けします。前回、ジント様の規格外な魔法とライダにぃにの怒りの鉄拳により、裏切り者・ザイガヴィスを見事に成敗した一同。無事に萌ちゃんを袋の中から救い出すことができました。今回は、そんな萌ちゃんがヴィンテ・ラジ一族の温かい家族の元へ戻り、これでもかと甘やかされる癒やしの時間……。ですが、事件はこれで終わりではありませんでした。ザイガヴィスを裏で操っていた『真の黒幕』が、静かに動き始めます――。それでは本編をどうぞ!

最悪の危機を乗り越え、萌は無事に

ジント、アレク、ライダの三人の元へと救い出された。


袋の暗闇から解放された萌を、三人は

壊れ物を扱うように、代わる代わる優しい力でぎゅっと強く抱きしめてくれた。


「さぁ、萌ちゃん。こんな暗い場所からはささっと出て、お母様とお父様の待つところへ向かおうね」


アレクにぃには、萌の小さな身体を腕の中にしっかりと抱きしめたまま、その心を底から安心させるように優しく穏やかな言葉をかけた。


「萌! 今日は本当によく頑張ったな!

がんばったご褒美に、明日からは萌の

欲しいものを何でも買ってやるよ。

美味いお菓子がいいか? それとも、大好きなもふもふのぬいぐるみか? 何でも

言ってみろ!」


ライダにぃには、萌の柔らかい髪を大きな手でぽんぽんと撫でながら、満面の笑みを浮かべた。


怖かった記憶やトラウマから、一刻も早く楽しいこと、嬉しいことへと萌の意識を引っ張っていようとする、ライダなりの不器用で最大の優しさだった。


お兄ちゃんたちの温かい言葉の数々に、萌は「……うんっ、ありがとぉ……!」と涙を拭いながら、ようやく少しだけ笑顔を取り戻すことができたのだった。


◇そんな兄妹の微笑ましい光景をそっと見守りながら。ジントは一人、冷徹な瞳を崩さないまま、壁際に転がって気絶しているザイガヴィスの前に立っていた。


萌に恐怖を与えた男を、このまま眠らせておくつもりなど毛頭ない。ジントは空間の水分を操って冷水を呼び出すと

ザイガヴィスの顔面に向けて、躊躇なくバシャリと激しく浴びせかけた。


「……っ!? ぶはっ……! げほっ、ごほっ……っ!!」


強烈な冷たさと息苦しさに、ザイガヴィスが激しく咳き込みながらガバッと目を覚ます。視界がはっきりとした瞬間

男の目に飛び込んできたのは――暗闇の中で、氷のように冷たく青く輝く

ジントの怒りを秘めた瞳だった。


「ひっ……ジ、ジント、様……っ」


ジントは気絶から覚めたばかりのザイガヴィスを見下ろし、静かに、けれど逃げ場のない口調で質問を開始した。


「ねぇ、ザイガヴィスくん。君一人だけの力では、これほど用意周到に王家の

結界をかいくぐることなんてできないだろう? ――君に手を貸した『黒幕』は誰だい? 僕の怒りがMAXにならないうちに、早く話してね?」


ジントの背後から、目に見えるほどの凄まじい怒りのオーラが静かに立ち上る。


それは周囲の空気を一瞬で凍りつかせるほどの絶対的な冷気だった。

隠し通路の壁がみるみるうちに白く凍りつき、あまりの恐ろしさと寒さに

その場にいる全員がガタガタと身体を

震わせる。


「……な、なんか急に、ちゃむいでちゅ……。通路だから、風が吹いてるのかにゃ……?」


だが、そんな緊迫した空気のなか、抱きしめられていた萌だけが、無邪気に寒気を感じて身体をぶるっと震わせていた。


まだ薬が少し残っているせいか、ちょっぴり舌足らずな口調で、ジントの怒りの冷気を「ただの通路の隙間風」だと可愛い勘違いをしているのだ。


「っ! 萌ちゃんが寒がってる! 

ジン、一旦その魔力を抑えてくれ!」


「萌、俺の上着を着ろ! ほら、にぃにが温めてやるからな!」


萌の一言で、アレクとライダは慌てて自分たちの上着を萌にかけ、過保護全開で抱きすくめた。


大好きな萌を寒がらせてしまったと気づいたジントは、一瞬で

「おっと、いけない」という表情になり、冷気をピタリと霧散させたのだった。


しかし、ジントがザイガヴィスに向ける視線は、依然として刃物のように鋭いままだった。


「い、言いたくても言えねぇんだよ……っ! あの方に、絶対に他言するなと口止めされてるんだ! もし少しでも裏切れば、その瞬間に俺の命が消える呪いを

かけられてるんだよっ! だから……

なぁ、お願いだから俺をもう解放して

くれよ、ジント!!」


ザイガヴィスは恐怖で歯をガタガタと

激しく鳴らしながら、必死に悲鳴を上げた。


「俺はただ、あの方の命令に従って台車を運んだだけだ! もう俺には関係ないだろう!? 頼むから見逃してくれ……っ!」


自分勝手な理屈を金切り声で叫ぶなり、ザイガヴィスは床の爆弾のことすら

忘れ、四つん這いになって通路の奥へと必死に逃げ出そうとした。


だが、そんな哀れな裏切り者の背中に向けて、ジントは一歩も動かぬまま、凍りつくような冷徹な声を投げかける。


「……僕の萌を傷つけておいて、自分だけは命が惜しいから逃がしてくれ

ですか。どこまで浅ましい男なんだ

君は」


ジントがフッと指先を小さく一振りした。それだけで、通路の壁から無数の氷の鎖が蛇のように伸び、逃げようとしていたザイガヴィスの身体を瞬時にがんじがらめに縛り上げた。


「ぎゃあっ!? う、動けねぇ……っ!」


「安心してください、今すぐ君の命を奪ったりはしませんよ。君の口から何も聞けないのなら、君にその『呪い』をかけた黒幕の魔力の出どころを、じっくりと調べ上げさせてもらうだけですから」


絶望に顔を歪めて完全に白目を剥き

その場にへたり込んだザイガヴィス。


こうして、身勝手な欲望によって引き起こされたお披露目パーティーの誘拐事件は、ひとまずの解決を迎えたのだった。


◇数分後。隠し通路から脱出し、ようやくお披露目パーティー会場の豪華な控室へと戻ってきた一同。


「萌……っ! ああ、我が家の可愛い萌……っ!! 無事で本当によかった……っ!」


「萌ちゃん……! 怖かったわよね、本当によく頑張ったわね……っ!」


扉が開いた瞬間、待ちきれずに飛び出してきたお父様とお母様が、大号泣しながら萌を壊れ物を扱うようにぎゅっと抱きしめた。


「お父様、お母様……うわぁぁん! 怖かったよぉ……っ!」


大好きな家族全員の腕の中で、萌は今日一番の涙をこぼしながら、心からの安心感に包まれていた。誘拐された萌の縄は無事に解かれ、ヴィンテ・ラジ家にはいつもの平穏な温もりが戻ってきた――。


◇――その頃。王都の喧騒から遠く離れた、誰も知らない不気味で大きな部屋。そこには、窓から差し込むかすかな月明かりを浴びながら、優雅にお茶をすする『謎の黒幕』の姿があった。


部下から「ザイガヴィスが失敗し

拘束された」という報告を受け

その人物は口元を不敵にニヤリと歪めて微笑んだ。


「せっかく高い値を提示して、あのザイガヴィスを雇ってやったというのに……。まさか、何一つ成果を上げられずに失敗に終わるとは、本当に情けない男ですわね」


黒幕はフッと冷酷なため息をつき

手元のティーカップを静かに机へと置いた。


「まあ、あ奴が『給料が高くても、一瞬ですぐに消える』と言っていたのは

当然のこと。……だって、そのお金を裏で一瞬にして使い果たしていたのは

この『私』なのですから。ふふっ……」


妖しく、引いては傲慢に響く高笑い。

なんと、ザイガヴィスがどれだけ真面目に働いてもお金が消えていた本当の理由は、この黒幕が裏で彼の支給額をすべて吸い上げ、自分の贅沢や計画のために使い込んでいたからだった。


ザイガヴィスが「1兆」という狂った額の報酬に魂を売ったのも、この底なしの支配から逃れるためだったのだろう。


黒幕は静かに立ち上がると、暗闇の

向こうを見つめながら、鋭く瞳を光らせた。


「……まぁ、良いでしょう。今回の件で、ジントたちの【ヴィンテ・ラジ一族】は、よりいっそう警戒を強めるはず。これからは、より慎重に動かねばなりませんわね。――待っていなさい

しもべたち。次こそは、すべてを私の手中に収めて見せますわ」


闇の中で、静かに動く巨大な陰謀の影。ザイガヴィスというトカゲの尻尾を切り捨てた黒幕は、ヴィンテ・ラジ一族へ次なる冷酷な罠を仕掛けるべく、静かに

動き始めていた――。(第56話 完)

第56話をお読みいただき、ありがとうございました!萌ちゃんが無事にヴィンテ・ラジの温かい家族の元へ戻れて、本当に心が温まりましたね……! にぃに達の「お菓子にする?ぬいぐるみ?」の過保護な全力ケアも可愛すぎて最高でした。しかし、ラストで判明した黒幕の正体と、ザイガヴィスの「お金が消える理由」の真実にゾクゾクが止まりません!まさかザイガヴィスのお金を裏で全て使っていたのが、この黒幕だったとは……。しかも萌ちゃんたちの【ヴィンテ・ラジ一族】をハッキリと敵視している様子から、かなり身分の高い、あるいは一族の裏事情に精通している危険な存在であることが伝わってきます。口調からして、もしかして高貴な女性の可能性も……!?事件は一度解決したものの、ヴィンテ・ラジ一族を巻き込む、さらに大きな戦いの幕が開いてしまいました。「萌ちゃんが無事で本当に良かった!」「黒幕のゲスっぷりと強者感がヤバい!」「ジント様、ヴィンテ・ラジ一族の力で黒幕をぶっ潰して!」と思ってくださった方は、ぜひ評価(★)やブックマーク、いいねで応援していただけると、次回57話の執筆の大きな励みになります!次回、お披露目パーティーの再開と、動き出す黒幕の次なる一手。どうぞお楽しみに!

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