第54話『背後に迫る、最悪の足音』
いつも『社畜OLの葛木萌、猫を助けて異世界へ!』をお読みいただき、本当にありがとうございます!前回、ジント様とアレクにぃにの魔力探知によって、ついに犯人の足取りを掴んだ一同。お母様とお父様に会場の後ろ盾を任せ、最強の3人が夜の王都へと飛び出しました。今回は、そんな3人に追われる「犯人視点」……そして、袋の中で目を覚ました「萌ちゃん視点」から物語が始まります。暗闇の中で、萌ちゃんを襲う前世の記憶とは――?そしてラストには、にぃに達が驚愕する大どんでん返しが待っています!それでは、第54話をお楽しみください!
ダダダダッ、と重々しい足音を響かせながら、ジント、アレク兄様、ライダ兄様の三人は、お屋敷の長い廊下を猛然と駆け抜けていた。
しかし、空気中に霧散していく犯人の
『わずかな魔力の残滓』を正確に辿り続けるのは、並大抵の技術では至難の業
(しなんのわざ)だった。
「ジント! 萌ちゃんのいる場所なんですが……まだお屋敷の外には出ていないと思います。だけど、巧妙に自身の魔力を消し込んでいるのです……っ!」
アレク兄様は息を切らしながらも、走りながら必死に魔力感知を続け、ジントへと並走して状況を伝えた。
「アレク。『ジント様』じゃなくて『じん』でいい。それに、俺たちの年齢は近いんだ、言葉も敬語じゃなくて構わないよ。――それより、まだ屋敷の外には出ていないんだね?」
ジントは鋭い眼光のまま前を見据え
並んで走るアレクとライダに向けてそう告げた。この緊急事態において、もはや身分など関係ない。
萌の婚約者として、そして彼女の兄たちとして、対等な立場で一刻も早く救い出したいという強い意志の表れだった。
「……それにしても、これだけの結界が張られた屋敷の中で、自らの魔力を完全に消し去るほどの実力者か。もしや
我々王家の内部に不届き者が侵入していたのかもしれないな」
ジントは走りながら、冷徹に思考を巡らせた。ただのコソ泥や行き当たりばったりの犯行ではない。
王家の事情に精通した内通者、あるいは影の組織が動いている可能性に、ジントは深く目をつけていたのだった。
◇そんな追跡劇が繰り広げられているとは露知らず。お屋敷の壁の裏に隠された『隠れ通路』の中を、犯人は台車の駆動音を消音魔法で完全に消しながら、密かに目的地へと運んでいた。
「クククッ、数年もの間この屋敷に仕えていたが、まさかこうも簡単にあの小娘を誘拐できるとは思わなかったな。
今頃、会場の奴らはフィアンセがいなくなったと大慌てで探し回っている頃だろう」
犯人は、長年王家に忠実に仕えていると見せかけていた内通者だったのだ。
あまりにも計画通りに事が運びすぎた
ため、男は慌てふためいているであろう葛木家やジントの姿を想像し、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべていた。
◇まさにその時、台車の上に載せられた暗い袋の中で、萌はゆっくりと意識を取り戻していた。
(うぅん……頭が痛い。……あれ?
ここ、真っ暗で何も見えない。それに、すごく狭い……っ)
微かに残る薬の匂いに眉を潜めながら、萌は身動き一つとれない空間で完全に目を覚ました。
(……っ、う、嘘……いや、狭いところは嫌……っ!!)
自分が布の袋に閉じ込められていると理解した瞬間、萌の心臓が早鐘のように跳ね上がった。ただの誘拐に対する恐怖ではない。真っ暗で身動きの取れないこの過酷な状況が、萌の脳裏に、前世の幼い頃の『最悪の記憶』を強烈にフラッシュバックさせたのだ。
前世の子供時代。親に「反省しなさい」と理不尽に怒鳴られ、泣き叫ぶ声を無視されて、一人きりで狭くて暗い物置小屋へと閉じ込められた記憶――。
(やだ……っ。狭いところに閉じ込められるのは、あの日を思い出すから絶対に嫌……っ! 息が、上手くできない……。誰か、誰か助けて! お父様、お母様、にぃに達……ジント様……だれか……っ!)
前世のトラウマが萌の理性をジワジワと削り取っていく。過呼吸になりかけ
パニックで涙をボロボロとこぼしながら、萌は暗闇の中でただ、大好きな家族と婚約者の名前を心の中で必死に叫び続けることしかできなかった。
◇その頃、屋敷中をくまなく走り回っていたジントたちだったが、どれだけ探しても萌の姿を見つけられずにいた。
「はぁ、はぁ……っ! クソ、これだけ屋敷の中を探し回ってんのに、なんで萌が見つからねぇんだよッ!」
ライダ兄様は激しく息を切らしながら
手がかりが一向に掴めない焦燥感に
イライラを募らせ、その拳を強く握りしめていた。
「なんて狡猾な犯人なんだ……。僕がどれだけ魔力感知を広げようが、微塵も引っかからないなんて……。これじゃあ、僕は兄貴失格だ……っ」
アレク兄様は自分の無力さを心底悔やみ、奥歯をギリリと噛み締めていた。
その唇からは、あまりの悔しさに薄っすらと血が滲み出ている。
「……待って二人とも。これだけ探しても気配がないということは、王家に代々伝わる『隠し通路(裏道)』を使っている可能性が極めて高い。やはり、犯人は内部の人間だ。アレク、ライダ、俺に付いてきてくれ! 裏道から先回りすれば、きっと萌に追いつける!」
屋敷の構造を知り尽くしたジントだからこそ行き着いた、確信の推測。ジントは即座に踵を返すと、一般人には決して
知られていない隠し扉を開け、暗い裏道へと二人を案内した。
背後から迫る、三人分の冷徹な足音。
隠れ通路のゴールも間近というところで、犯人は自らの真後ろから漂う圧倒的な気配に気づき、足を止めた。
「おや、やっとお出ましですか〜? ジント様。……ふふ、もうちょっと遅く助けに来てくれても良かったんですよ?
――ところで俺のこと、覚えてます?」
逃げ場のない通路の奥で、犯人はゆっくりと振り返った。その顔には、追い詰められた焦りなど微塵もなく、むしろ勝ち誇ったような歪んだ微笑みが浮かんでいる。
月明かりの届かない暗闇の向こう
犯人の容姿がハッキリと露わになった
瞬間――。ジント様は、信じられないものを見たかのように大きく目を見開いた。
「お、お前……ッ! お前だったのか……!!」
次回、予想外すぎる犯人の正体! そして、大切な萌を救うための直接対決がいよいよ幕を開ける――!
第54話をお読みいただき、ありがとうございました!萌ちゃんーーーー!!前世のトラウマがここでフラッシュバックしてしまうなんて、真っ暗な袋の中でどれだけ怖かったことか……。お兄ちゃんたち、ジント様、一刻も早くその袋を開けて抱きしめてあげて……!と、書いていて胸が締め付けられました。そして、ジント様の機転によってついに隠し通路で犯人を追い詰めた一同!さあお仕置きの時間だ!……と思いきや、ラストで明かされた犯人の正体に、にぃに達が驚愕して終わるという大波乱の引きとなりました。数年も王家に仕え、アレクにぃにの完璧なリストをすり抜けた人物とは、一体誰なのか!?次回、ついに「犯人の正体発覚&直接対決編」に突入します!「萌ちゃん、もうすぐ助かるから頑張って!」「犯人の正体が気になりすぎる!」「ジント様とにぃに達、その裏切り者をボコボコにしちゃってください!」と思ってくださった方は、ぜひ評価(★)やブックマーク、いいねで応援していただけると、55話の執筆の大きな励みになります!次回もどうぞお楽しみに!




