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第52話『小さな証言者と、消えた台車の行方』

いつも『社畜OLの葛木萌、猫を助けて異世界へ!』をお読みいただき、本当にありがとうございます!前回、お披露目パーティーの最中にまさかの大ピンチを迎えてしまった萌ちゃん。今回は、ボロボロになりながらも奇跡的に目を覚ました「小さな証言者」みちゃーれのお話からスタートします。いつもはデレデレな家族と、氷の王子ジント様が、ついに本気ガチモードで動き出します……!そして、ラストに現れる人物の一言で事態は急展開へ!?それでは、第52話をお楽しみください!

「奥様、どうなさいましたの? 

壁をじーっと見つめて……何かがそこにいらっしゃるのですか?」


一人の貴婦人が、お母様の視線が気になって不思議そうに尋ねてきた。

どうやら一般の人間には、そこに倒れているみちゃーれの姿は見えていないようだった。


「え、ええ……あ、いえ! 何でもありませんの。壁に小さなアリさんがいて、一生懸命ご飯を運んでいるな、と思いまして……ふふ」


(思わずとんでもない言い訳をしてしまったわ……! でも、みちゃーれが倒れているなんて周囲に気づかれたくありませんし、今は大事おおごとにしたくありませんもの。それにしても、皆様にはみちゃーれが見えていないようですわね……)


お母様は慌てて笑顔で言い訳をして、なんとかその場の話を繋いだ。そこまでは良かったものの、ボロボロになって倒れているみちゃーれの存在を、どうにかして家族に伝えなければとお母様は焦っていた。


◇その頃、お父様とアレク兄様、ライダ兄様、外してジント様は、萌の手がかりを求めて会場の真ん中で立ち尽くしていた。


するとその時、いつもライダ兄様の側にいる『はちみつ精霊』が、緊迫した様子でライダ兄様の耳元に話しかけてきた。


『(ライダ! お母様がいるところの壁際に、精霊王みちゃーれが倒れてる! お願い、助けてあげて……っ!)』


「えっ、みちゃーれが……!? わかった、すぐに行くからその場所まで案内してくれ、はちみつ!」


ライダ兄様ははちみつ精霊の言葉に目を見開くと、友人たちを置き去りにして、お母様たちのいるテーブルのさらに

奥、壁際へと猛然と走り出した。


「ラ、ライダ!? もしかして萌ちゃんの居場所がわかったのかい!?」


突然走り出した弟の背中に、アレク兄様が驚きの声を上げる。


「……アレク、お父様、ジント様も付いてきてくれ! あっちに行けば、何かわかるかもしれねぇ!」


ライダ兄様は走る速度を落とさないまま、短くそう叫んだ。止まっている暇など一秒もない。お父様たちもその尋常ではない気迫に弾かれたように、全員でライダ兄様の後を追い、壁際へと急行したのだった。


◇ドタドタとこちらに向かって走ってくる家族たちの姿が見え、お母様は思わず胸の内で深く安堵した。

(良かったわ……! きっと、はちみつ精霊がみちゃーれのピンチを教えてくれたのね。これであとは、私がこの場所から皆様の意識を逸らすだけ……!)


お母様は安堵しつつも、すぐに頭を切り替えた。走ってきたライダたちに周囲の注目が集まらないよう、自分が盾となって、貴婦人たちのマシンガントークをさらに盛り上げる引きつけ役に徹することを買って出たのだ。


そして――ライダ兄様がお母様の横をすり抜ける、ほんの一瞬のこと。二人の瞳と瞳が、バチッと重なり合った。たったそれだけの視線の交錯で、お母様の意図とすべての状況がライダ兄様に伝わる。


(たったこれだけで通じ合えるなんて、これが家族の愛の絆なんだわ……!)

と、ライダ兄様は我が家の確かな絆に、心の中で熱いものを感じずにはいられなかった。


◇お母様が華麗に貴婦人たちの視線をブロックしてくれている隙に、ライダ兄様は迷わず壁際へと飛び込んだ。


「みちゃーれ……っ!!」そこには、はちみつ精霊が言った通り、小さな体をボロボロにしてピクリとも動かない精霊王の姿があった。


遅れて駆けつけたお父様、アレク兄様、そしてジント様も、その痛々しい光景に息を呑む。


ジント様は鋭い眼光を崩さないまま、

自身の空間魔法から最高級の回復ポーションを素早く取り出すと、それをライダ兄様へと手渡した。


ライダ兄様は受け取ったポーションの蓋を、躊躇うことなく自らの歯で噛みちぎって開ける。そして、横たわるみちゃーれの口元へ、少しずつ優しく流し込んでいった。


「みちゃーれ、頑張れ……! これを飲めば、傷も痛みも引くからな……っ」


ライダ兄様は祈るような気持ちで、小さな体を優しく撫でながら語りかけた。ポーションが喉を通り、傷口が淡い光に包まれて癒えていく。


「にゃあ……にゃあ、にゃ……っ」みちゃーれは消え入りそうな声を絞り出しながら、必死に皆へと状況を伝えた。


(萌が……知らない男に連れていかれた。顔は隠れていて分からなかったけど、怪しい薬を嗅がされて、気を失うように眠らされてたんだ……。でも、それから先は分からない。僕もその男に壁に投げつけられて、意識を失っちゃったから……っ)


本来、精霊王の言葉は萌にしか聞こえない。しかし、事態の深刻さを察した

『はちみつ精霊』が、必死になってその言葉をライダ兄様たちへと通訳した。はちみつ精霊から紡がれた最悪の真実を聞いた瞬間、家族の空気が凍りついた。


「はっ……!? 萌が、誘拐された……!?」


次の瞬間、ライダ兄様の理性が怒りで消し飛んだ。


「おい、アレク!! お前が今回のパーティーの招待客リストを徹底的にチェックしたんじゃねぇのかよッ!!」


いつもはあんなに仲の良かったアレク兄様の胸ぐらを、ライダ兄様は凄まじい力で掴み上げた。激しい怒りと焦燥の籠もった拳が、小刻みに震えている。


「いい加減にしなさい! 二人とも手を離すんだ!」


掴み合おうとする息子たちの間に、

お父様が割って入った。


「今は誰の失敗かを責め合っている場合ではないだろう! 今の君たちは、冷静さが欠けているんじゃないのか!?」


お父様の一喝が響き渡る。それは同時に、大切な妹を奪われて焦る息子たちに「頭を冷やせ」と言わんばかりの、父親としての深い怒りと愛が籠もった声だった。


その頃、お母様も流石に貴婦人たちとの会話を切り上げ、ただ事ではない雰囲気を察して息子たちの元へと駆け寄っていた。


「さっきまで良い雰囲気でしたのに、急に仲間割れだなんて……男のくせに情けない! 今はそんなことをしている時ではないでしょう!」


お母様が静かに、けれど毅然と言い放つと、周囲の空気がピシッと凍りついて止まるほどの凄まじい威圧感があった。その迫力に、ライダ兄様もアレク兄様も、思わず肩をビクッと震わせて動きを

止める。


家族全員が、萌の行方の分からなさに怒りと焦燥で張り詰めていた、まさにその時だった。背後から、一人の給仕の作業員が恐る恐る声をかけてきた。


「あ、あのお……。ここに置いてあった清掃用の台車、誰か知りませんかー? ちょっと目を離した隙に、無くなっちゃってて……」


ひょっこりと現れた作業員のその一言に、お父様とジント様の目が同時に見開かれた。


(台車……!? 萌ちゃんが連れ去られたこのタイミングで、清掃用の台車が消えた……? まさか、それに萌ちゃんを隠して……!?)


みちゃーれの「連れ去られた」という証言と、作業員の「台車が消えた」という言葉。バラバラだった情報が、

今この瞬間に最悪の仮説となって一つに繋がった。


消えた台車の行方を追うため、事態はここから一気に、そして急速に発展していく。


次回、怒れる最強の過保護陣による、萌の行方の大捜索がいよいよ開始される――!

第52話をお読みいただき、ありがとうございました!みちゃーれ、ボロボロになりながらも萌ちゃんの状況を伝えてくれて本当にありがとう……!そして、焦りのあまりに仲間割れしてしまうにぃに達を止める、お父様とお母様の「親の一喝」がめちゃくちゃ痺れましたね。特に怒ったお母様の威力はさすがです(笑)。そしてラストにひょっこり現れた作業員さんの「台車知りませんか?」の一言……!ここで初めて、みちゃーれの「知らない男に連れて行かれた」という証言と「消えた台車」が一つに繋がり、犯人の手口が判明しました。バラバラだった点と線が繋がる瞬間、書いていて鳥肌が立ちました!次回、ついにジント様やお父様たちによる、王都を揺るがす「萌ちゃん大捜索編」がいよいよ幕を開けます!「みんな、仲直りして萌ちゃんを助けて!」「犯人、絶対に許さない!」と思ってくださった方は、ぜひ評価(★)やブックマーク、いいねで応援していただけると、53話の執筆の大きな励みになります!次回もどうぞお楽しみに!

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