『第31話:ジント様の言葉と、緑のゆりかご』
前話(第30話)では、夢のトラウマからパニックになってしまった萌ちゃん。ジント様たちが駆けつけますが、部屋は大変なことに……!ついに、萌ちゃんの口から「あの秘密」が語られます。ぜひ最後までお楽しみください!
萌ちゃんが『緑のゆりかご』に閉じこもった、ちょうどその時だった。
お部屋の扉が、ガチャリと大きな音を立てて開いた。
「萌! 大丈夫か!?」
大慌てで飛び込んできたのは、
ジント様の後ろを追いかけてきたお父様だった。
しかし、お父様は部屋に入った瞬間、その場でピタリと動きを止めてしまう。 部屋の中は、萌ちゃんが投げつけた枕や時計が散らばり、床にはパリンと割れた花瓶の破片が散乱している。
そして部屋の真ん中には、見たこともない頑丈そうな植物のゆりかごが、ただ静かにドスンと鎮座していた。
お父様はキョロキョロと辺りを見回すが、肝心の萌ちゃんの姿がどこにも見当たらない。
「え、えーと……萌ちゃんは? どこかへ消えてしまったのか? それとも……まさか、こんな一瞬の間に、誰かに誘拐されてしまったのか……っ!?」
愛する娘の姿がないことに大パニックを起こし、完全に誘拐だと勘違いして
頭を抱えるお父様。
そんなお父様を見て、お母様は悲しそうに首を横に振り、ゆっくりと説明し
始めた。
「あなた、落ち着いて……。萌ちゃんは誘拐されたわけじゃないわ。……萌ちゃんは、あのゆりかごの中にいるの」
「えっ? あの草の中に?」
「ええ。この散乱しているお部屋はね、萌ちゃんが突然大暴れして、物を投げつけちゃったのよ……。私は初めて見る萌ちゃんの姿に戸惑ってしまって、何もできなくて……。萌ちゃんは自分の身を守るためなのか、あのゆりかごの中に
入っちゃったの……っ」
お母様はキュッと胸元を抑え、ショックで息を詰まらせながらもお父様に事情を話し終えた。
しかし、さっきまで難しい緊急会議をしていた疲れもあるのだろう。お父様は頭をポリポリと掻きながら、未だにイマイチ理解が追いついていない様子で、
ぽかんとゆりかごを見つめるばかり
だった。
お父様が困惑する中、ジント様はただ静かに『緑のゆりかご』を見つめていた。
(どうすれば彼女の心を傷つけずに、外へ連れ出してあげられるだろうか……)
ジント様が真剣に悩んでいる、その時だった。 ジント様のすぐ横から、
ひょっこりと妖精王みちゃーれが姿を現した。 みちゃーれは、ゆりかごのすぐそばまでトコトコと歩み寄ると、心配そうに「にゃあ」と小さく鳴いた。
そして、ゆりかごの隙間に向かって一生懸命に話しかけ始めた。
「にゃあにゃあ!(萌! しっかりして! ここは怖い夢の中じゃなくて、現実の世界だよ! ちゃんと幸せなところにいるんだよ! みんな萌のことを心から愛しているし、もちろん僕だって萌のことが大好きなんだから!)」
みちゃーれは優しく、力強くゆりかご越しに訴えかけた。しかし、中に入っている萌ちゃんからの反応はなにも
なかった。
まだ恐怖で耳を塞いでしまっているのかもしれない。
その様子を見ていたジント様は、ふと
ある可能性を思いつく。
(萌は幻のエルフだ。だけど……もしかして彼女は、この世界の違う国、いや、まったく別の世界から魂がやってきた
『転生者』だったりしないだろうか?)
確かな根拠があるわけではなかった。しかし、彼女が先ほど叫んだ
「殴らないで」
「お掃除もお料理もがんばるから」
という言葉は、この温かい家族の元で
育った子供が言うはずのないセリフ
だった。
ジント様は一か八か、自分の直感を信じて試してみることにした。
ゆっくりとゆりかごに近づき、そっと手を添えて、包み込むような優しい声で語りかける。
「ねぇ、萌ちゃん。君はもしかして……『転生者』だったりしないかい?」
その言葉に、お父様とお母様がハッと息をのむ。
「今、君の中で、前世のつらい記憶と、今世の記憶がごちゃ混ぜになって苦しんでいるんじゃないのかな? 突然のことに、気持ちが追いついていないんだね。でもね、思い出してごらん、萌ちゃん。君はここで、優しくて幸せな時間を少しずつだけど、確かに過ごしてきたはず
だよ」
ジント様の言葉に、ピクリと
『緑のゆりかご』が反応を示した。
中から、小さく震える萌ちゃんの声が漏れ聞こえてくる。
「な、なんで……わかったの……? 私、
転生者、なの……。だけど、前世ではただの普通の人だったの。あの日、お仕事の帰りに……道に猫さんがいて、車に
ひかれそうだったから、
助けるために……っ」
ジント様の真剣な言葉が、しっかりと萌ちゃんの心に届いたのだろう。
萌ちゃんは涙をこらえながら、少しずつ、ぽつりぽつりと自分の秘密を話し始めてくれた。
「そうだったんだね……」 ジント様は決して急かすことなく、萌ちゃんの言葉をひとつひとつ優しく受け止め、深く頷いて相槌を打った。
すべての話をしっかりと理解しながら、聞いてくれた。
「猫を助けようとして、命を落としてしまったんだね。それでこの世界にやってきて、あの森にいて……幻のエルフという種族として生まれ変わったんだね」
ジント様はゆりかごの緑の葉に、そっと手のひらを重ねる。
「ねぇ、萌ちゃん。君が話してくれたことは、すべて信じるよ。だから、もう
怯えなくて大丈夫だ。君がさっき夢に見て苦しんでいたこと、前世や子供の頃にあったつらいことは、この世界ではもう絶対に起きたりしないよ。僕たちが、君を絶対に守るから」
ジント様は、世界で一番温かい声でゆりかごの中へ呼びかけた。
「だから……もう大丈夫だよ。
そのゆりかごから出ておいで、
萌ちゃん」
ジント様のぬくもりのある言葉は、
萌ちゃんの冷え切った心を優しく、
じっくりと溶かしていく。
張り詰めていた緊張がふっと解けると、頑丈だった緑のゆりかごの葉が、
ゆっくりと柔らかく開き始めた。
第31話をお読みいただき、ありがとうございました!ついに萌ちゃんが「転生者」であることをジント様に打ち明けました。優しく話を聞いてくれるジント様、本当にかっこいいですね……!そして、大パニックで的外れな心配をしてしまうお父様には、ちょっとクスッとしてしまいました(笑)。前世の悲しい過去を知った家族やジント様たちが、これから萌ちゃんをどう包み込んでいくのか。次回の第32話で、いよいよゆりかごが開きます!「ジント様優しい!」「お父さん落ち着いて!」など、皆さんの感想をブックマークや評価、コメントで教えていただけると励みになります!次回もお楽しみに!




