第24話:お忍びの少年と、無敵のバブ萌モード
いつも『社畜OLの葛木萌、猫を助けて異世界へ!』をお読みいただき、本当にありがとうございます!前回、階段から真っ逆さまに落ちそうになった萌ちゃん(バブ萌モード)。みちゃーれが絶望したまさにその時、階段の下から謎の少年が現れました。今回は、その少年と公爵家一同がついに対面します。張り詰めた空気の中、明かされる少年の驚きの正体とは……!?それでは、第24話をお楽しみください!
お母様がとても丁寧な姿勢で、床にひざをついたまさにその時。 長い廊下の向こうから、ドタドタと激しい足音が聞こえてきました。
「萌ちゃん! 無事か!?」 さっき足の魔力を使い切って動けなくなっていたライダ兄様を、お父様がひょいと肩にかついで、ものすごいスピードで走ってきたのです。
大泣きする萌ちゃんの声を頼りに、
お母様と一緒に駆けつけていたアレク兄様。そこへお父様とライダ兄様も合流しましたが、萌ちゃんをだっこしている
「黄色の髪の少年」を見た瞬間――
全員が、ビクッと体をこわばらせました。
「な、なぜ……あなた様が、こちらに……っ!? 何か、わが家に御用でしょうか……ジント様」
お父様の額からは、滝のような冷や汗がたらりと流れ落ちます。 あの強くて偉い公爵家のボスであるお父様が、体をガタガタと震わせながら、お母様のとなりにすべり込むようにして深くひざをつき、誠意の体制を取ったのであった。 お父様にかつがれたままのライダ兄様と、お母様のとなりにいたアレク兄様は、その異常な光景を見てすぐに察しました。
((ヤバい、これは絶対に頭を下げなきゃダメなやつだ……っ!!))
二人の兄様も本能でヤバいと気づき、親のマネをして、いそいでその場にペコリと平伏しました。
この国でもトップクラスに偉いヴィンテ・ラジ貴族の一家全員が、たった一人の少年の前で、完全に小さくなっています。
「ふぅ……みんな顔を上げて。今日は
お忍びでこちらに来ただけだから、
そんなにかしこまらなくていいよ」
ジント様は困ったように苦笑いしながら、優しい声で言いました。 家族全員が、張り詰めた不安を胸に抱きながら、ゆっくりと顔を上げた。
しかし、ジント様の腕の中にいる萌は、依然として激しく大泣きしたままで
ある。
「ジ、ジント様……っ。どうか、萌ちゃんをこちらに渡していただけないでしょうか? 大泣きしている状態ですので、
あなた様の高貴な衣服や髪を汚してしまいますゆえ……」
お父様は必死に言葉を選びながら、消え入りそうな声で懇願した。 一言間違えれば公爵家がどうなるか分からない。
言葉を選ぶことさえ恐怖で頭が真っ白になりそうだった。 それもそのはず。この『ジント様』こそ、この国のトップクラスに君臨する、絶対的な権力を持った【王族】なのだから。
ヴィンテ・ラジ貴族である公爵家で
さえ、彼らの前では一介の臣下に過ぎ
ない。 しかし、そんなお父様の決死の言葉を受け、ジント様は優しく微笑んだまま、エメラルド色の瞳をすっと細めた。
「ふーん……萌って言うんだね。――
でも、お父さん」
ジント様の声のトーンが、わずかに低くなる。
「萌ちゃんは幻のエルフであり、その上、生まれたばかりの精霊王を一緒に連れている。それはこの国において、
何よりも最優先で守られるべきことのはずだよね? ……君たちは一体、何をしていたんだい?」
「っ……!?」
「僕が空間を跳び越えてキャッチしなかったら、萌ちゃんは今頃、この高い階段から真っ逆さまに落ちる所だったんだよ?」
ジント様から放たれた、静かな、けれど圧倒的な叱責。 そのジント様の静かな叱責に、お父様は息を呑み、声を震わせながら事の顛末を話し始めた。
「……3週間後のお披露目会の準備で、
私どもは皆、忙しくしておりました。
そこに萌ちゃんが声をかけてくれたのですが……私たちは全員
『遊んでほしいのだ』と大きな勘違いをしてしまったのです。
本当は、私たちの手伝いをしたくて声をかけてくれたというのに……」
お父様は心臓をバクバクと波打たせながら、萌への申し訳なさで胸を締め付けられていた。
「私のせいで傷ついた萌ちゃんは、泣き顔を隠してどこかへ行ってしまいました。それで……家族全員で必死に探していたのです」
お父様に続き、今度はお母様が涙ながらにその後の理由を述べ始めた。
「それで私どもは、アレクの魔力感知を使って萌を探しました。すぐには見つけられなかったのですが、アレクが最後の魔力を振り絞ってくれたおかげで、
ようやく萌の居場所が分かったのです。私は魔力を使い果たしたアレクを治療するため、看病を終えてから一緒にこちらへ向かいました……っ」
お母様は必死に説明を続けるが、萌を危険な目に遭わせてしまった恐怖と愛おしさで、美しい瞳から大粒の涙が溢れ返っていた。
公爵夫妻の必死の言い訳を聞いていたジント様だったが、最後に、お父様に担がれたままのライダ兄様が、気まずそうに最後の理由を口にした。
「……あ、あの。居場所は見つけたのですが……見にいった時、萌の寝起き状態(バブ萌モード)が死ぬほど可愛すぎて……。俺とお父様、同時に胸キュンしてその場で悶絶して倒れてました。
それで……ここへ来るのが遅くなってしまいました」
「……え?」
ライダ兄様のあまりにも正直すぎる白状に、それまで威厳に満ちていたジント様の顔が、一瞬でポカンと呆気に取られたものへと変わるのだった。
ライダ兄様のまさかの告白に静寂が
広がる中、最後にアレク兄様が、ジント様を真っ直ぐに見据えて力強く言葉を紡ぎ出した。
「ジント様……! 至らない点があったのは事実ですが、僕たちは萌ちゃんを心から愛しています! 今回のことは、
お互いを想うがゆえにすれ違ってしまった出来事です。ですが……私たちはこの件を経て、家族の絆がより一層深まったと確信しています!」
まだ魔力が回復しきっていないはずのアレク兄様だったが、その瞳には強い決意と、妹への濁りない愛情が宿っていた。「……ぷっ、あはははは!」
張り詰めていた空気を破ったのは、
ジント様の突然の爆笑だった。 あまりにも真っ直ぐで、どこかズレている公爵家一同の「萌ちゃんへの愛」に、王族としての威厳を保ち続けるのが無理だったらしい。
「最高だね、君たち。最初はどんな冷酷な家族に放置されているのかと思ったけれど……ただの過保護で、萌ちゃんにメロメロなだけじゃないか」
ジント様は楽しそうに目を細めると、腕の中でまだ「ふえぇ……」と涙を浮かべている萌の頭を、優しくポンポンと叩いた。
「うん、これなら安心だ。……よし、それじゃあこの子は、ちゃんとお父さんたちに返さなきゃね」
ジント様がホッとしたようにニコッと笑い、萌ちゃんをお父様たちに渡そうとした――まさに、その瞬間のことでした。 ぽわん。 萌ちゃんの小さな体から、きれいな桜色の光がふわっとあふれ出します。
「――え?」
ジント様が目を見開きました。
なんと、萌ちゃんの体がジント様の腕をすり抜けて、ふわりと宙に浮かび上がったのです!「ふにゃ〜〜」 無意識のままで「浮遊魔法」を使った萌ちゃんは、まるでプールの中を泳ぐみたいに、
小さな手足をパタパタと動かし
始めました。
そしてそのまま、あぶない階段の上をすいすいと、楽しそうに空中散歩しながら下へと降りていってしまいます。
「「「「…………っ!?!?!?光の浮遊魔法……っ!?」」」」 ジント様も、
お父様も、お母様も、お兄様たちも、
全員の時間がピタッと止まりました。 最高位の存在であるジント様の腕をすり抜け、超すごい魔法を無意識に、しかもバブバブの赤ちゃんで使いこなす萌ちゃんのチートっぷりに、みんな言葉を
失ってびっくり仰天しています。
さぁ、ジント様の腕をすり抜けて空へと飛び出した萌ちゃんは、一体どこへ向かうのでしょうか!(第25話へつづく)
第24話をお読みいただき、ありがとうございました!緊迫した空気から一転、ライダ兄様のあまりにも正直すぎる白状に、さすがのジント様もポカンとしてしまいましたね(笑)。公爵家の重すぎる「萌ちゃん愛」がジント様に伝わって本当に良かったです!……と思ったら、最後の最後で萌ちゃんがまさかの「無自覚空中遊泳」!?ジント様の腕をすり抜けて、すいすいと階段の下へ降りていってしまいました。最高位の王族の前でとんでもないチート能力を披露してしまった萌ちゃん、一体どこへ向かうのでしょうか……?「ライダ兄様ナイス白状!」「萌ちゃんの空中泳ぎ可愛すぎる!」など、皆さんの感想を【ブックマーク】や【評価(☆評価)】、感想欄で教えていただけると、執筆の大きな励みになります!




