第20話すれ違ってしまった家族の行方
いつも応援ありがとうございます!前回、みんなの役に立ちたくて声をかけるも、大忙しの家族に幼児扱いされてしまい、独り寂しく廊下の棚で泣き寝入りしてしまった萌ちゃん……。一方その頃、主役の姿が見えないことに気づいたヴィンテ・ラジ公爵邸では、とんでもない事態が巻き起こっていました。家族のすれ違いと過保護が限界突破する第20話、どうぞお楽しみください!
萌が泣き疲れ、小さな体で
眠ってしまっている――
そんな中、ヴィンテ・ラジ公爵邸の中は、まさに国家存亡の
危機を迎えたかのような
大パニック状態に陥っていた。
「みんな、落ち着くんだ……。
ひとまず、萌がなぜ居なくなったのか、その理由をいくつか
挙げてみよう。……まずアレクから、何か心当たりはあるか?」
お父様は必死に動揺を抑えながら、理性を保とうと重々しく問いかけた。 指名されたアレク兄様は、青ざめた顔で少し考え込んでから、声を震わせて話し始めた。
「僕は……最初、萌ちゃんが僕と遊びたいのかと思ったんだ。
だけど、今どうしても外せない用事があって忙しいから
『ごめんね』って言って、そのままにしてしまった……。お披露目会に萌ちゃんのための悪い奴らが絶対に参加しないよう、
セキュリティのチェックリストを作ろうと思ってね……」
そう、アレク兄様はすべて萌のために、裏で必死に準備をしていたのだ。それでも、なぜ萌がいなくなってしまったのか、
理由までは分からなかった。
「そっか……。アレクは萌のために、悪い奴らが参加しないようにチェックリストを作ってくれていたんだね。ありがとう、
アレク」
お父様は息子の健気な想いを
優しく受け止め、アレク兄様の頭を撫でてわしゃわしゃと
した。
「……俺は、萌に声をかけられた時、やっぱり遊んで欲しいのかなって思ったんだ。だけど今、やらなきゃいけない仕事があるからって後回しにして……
お菓子が美味しいのかなと
思って、ポケットのお菓子を
あげちまった。俺、萌のために何か最高のサプライズができないかってずっと悩んでて、それで『これなら行けるかも!』って良いアイデアが浮かんだもんだから、作業に取り掛かりた
くて……相手できなくてごめんって言って、萌のところから離れちまったんだ……」
ライダ兄様も、すべては萌を喜ばせるためのサプライズに
頭がいっぱいだったのだ。
「ふむふむ、ライダは萌のためにサプライズを考えていたんだな。そのサプライズ、私もとっても楽しみにしているぞ」
お父様はライダ兄様の髪の毛もわしゃわしゃと撫で回した。ライダ兄様は少しだけ救われたような、満足そうな顔を
見せる。
「――ということは、残るは
愛しい、お母様」
お父様が視線を向けると、
お母様は未だに肩をがたがたと震わせていた。
「私……私はね、あなた……。お披露目会で萌ちゃんに世界で一番可愛いドレスを着せてあげたくて、寝る間も惜しんで設計をしていたのわ。
ちょうど仕立て屋の人が来て
大切な話をしている間に、
萌ちゃんが来たの。それで
『今は遊べないの。危ないことはしないようにね』
って言って……萌ちゃんは、そのまま部屋に戻っていったわ……」
お父様の手元には、先ほど
お母様がひっくり返したインクで真っ黒に染まってしまった
ドレスの設計図があった。
しかし、今のお母様はそんな
最高傑作が台無しになったことなど、微塵も気にする様子はなかった。
「……で、最後に私の所へ来た、ということか。私も忙しかったから、『本とか部屋で遊んできなさい』と言ってしまった……」
これで、全員が萌に会っていたこと。 そして全員が忙しさのあまり、萌の気持ちを完全に疎かにしてしまっていたことが分かった。
そこへ、アレク兄様がハッとしたように、理由が分かったという顔で手を挙げた。
「も、もしかして萌ちゃんは……俺たちが忙しそうにしてたから、手伝いたかったのかもしれない……」
アレク兄様がそう言葉を言った瞬間、会議室の中はしずまり
返った。 全員の時が止まったかのように、あまりにも切ない真実が脳裏をよぎる。
「あぁ……なんてことだ……!
悪いやつのチェックリストを
作るより、萌ちゃんの気持ちをそっちのけにして、僕は……っ! 僕は萌ちゃんの気持ちを投げ捨てて、自分のことを優先してしまったんだ……っ!」
アレク兄様は激しく自分を責め、ついに耐えきれずに膝から崩れ落ちた。
「……俺、萌のサプライズのことで頭がいっぱいで、全然萌の気持ちに気づいてあげられなかったんだ……っ。こんな兄なんて、完全に失格だよな……」
ライダ兄様は言葉を詰まらせながら、萌のあの寂しそうな
小さな背中を思い出し、胸を締め付けられるように痛めていた。
「私は萌のドレスを徹夜で考えていたけれど……そんなの、どうでもいいわっ! 萌ちゃんの気持ちに気付いてあげられなかったことが、何よりも悔しいわ……っ!」
お母様は、真っ黒になったドレスの設計図の紙を感情のままにくしゃりと握りつぶし、大粒の涙をポロポロと流して泣き崩れた。
「萌ちゃん、僕は父上失格だよ……! 何が絵本を読んで、
部屋で遊びなさい、だ。もっと萌を相手していれば、こんなことには慢らなかったのに……っ!」
《お父様は拳を机にゴン!と強くぶつけた。 自分たちがしでかしてしまった取り返しのつかない大失態を、これ以上ない
ほど悔やんでいた。
を
家族全員の脳内には、みんなの役に立とうと健気に小さな
手を差し伸べたものの、全員に拒絶されて傷つき、涙を流しながらトボトボと家を出ていってしまった萌の幻影
(※凄まじい勘違い)が完璧に出来上がっていた。
(萌ちゃんは棚の中で爆睡中
です)
「大変だ、話し合っている場合ではない! 萌ちゃんが傷心のあまり、遠くへ行ってしまう前に見つけ出すんだ!」
お父様が涙を拭い、凄まじい覇気とともに立ち上がる。
「アレク! 泣いている暇があるなら魔力探知を最大出力で
展開しろ! ライダは私と兵を
率いて屋敷の隅々、ネズミの穴一つにいたるまで探索を開始するんだ! 萌ちゃんの小さなガラスのハートを、これ以上傷つけさせてなるものか――!!」
「「「おおおおお――っ!!」」」
こうして、過保護と罪悪感で
頭の沸騰したヴィンテ・ラジ公爵家による、前代未聞の
『我が家の天使・大捜索作戦』の火蓋が切って落とされたのだった。
――一方その頃。 当の萌はというと、廊下の隅にある薄暗い木製棚の底で、大好きな相棒であるみちゃーれのふかふかな毛並みをぎゅっと抱きしめた
まま、「すぴー……」と幸せそうな寝息を立てて熟睡しているのであった。
(第21話へつづく)
第20話をお読みいただきありがとうございました!全員が萌ちゃんのために全力を尽くした結果、全員で萌ちゃんを放置して絶望するという、なんとも愛おしい公爵家の勘違い爆走回でした。机をゴンするお父様やドレスをくしゃくしゃにするお母様、みんな萌ちゃんが好きすぎて最高です。一方、当の本人は棚の中でみちゃーれとすやすや……この温度差がたまりませんね。次回第21話、ついに最大出力の魔力探知で見つけ出される(?)萌ちゃん。一体どんな怒濤の溺愛が待っているのでしょうか!「家族の勘違いパニックが面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、ぜひいいね、感想、ブックマークやポイント評価で応援していただけると執筆の励みになります!次回もお楽しみに!




