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第155話:『世界樹の主ルーミーエラ様の慈愛と、解かれ始めるうさぎの封印』

いつもお読みいただきありがとうございます!

前話では、じんと様の腕の中で眠りに落ちた萌が

真っ白な空間で『幻のエルフの幼女』の姿に戻り、孤独に震えるという切ない展開でした。


そしてラストに現れたのは、精霊樹の記憶を持つ最高位の存在・ルーミーエラ様――!


第155話では、なぜ萌が「うさぎの姿」になってしまったのか、その隠された本当の理由と、元の姿に戻るための「大切な条件」が明かされます。


物語が大きく動き出す重要回、ぜひ最後までお楽しみください!

「うふふ。本当に、健気で愛おしい子」





 ルーミーエラ様の鈴を転がすような

美しい声が、黄金色の空間に優しく響き渡る。






 私の銀髪を撫でる彼女の手のひらは

まるで春の陽だまりのようにあたたかく、触れられているだけで全身の魔力が心地よく波打つのが分かった。






 さっきまでの、世界に一人きり取り

残されてしまったかのようなあのどす

黒い不安が、嘘みたいに綺麗に霧散していく。






「ルーミーエラ様……。私、どうして

ここへ……?」






 私が幼児化エルフの小さな手で自分の胸元をぎゅっと握りしめながら見上げると、彼女はどこまでも深い慈愛を湛えた瞳を細め、そっと私の頬に触れた。





「ここは世界樹の最深部――精霊たちのすべての記憶が還る場所。現在のあなたは、世界樹の純粋な魔力を浴びたこと

で、魂だけが一時的にこの『本来の姿』として引き上げられているのです」






「本来の姿……。じゃあ、現実の私は……」






「ええ。あなたの肉体は、今も現実世界で、あなたを誰よりも大切に想う婚約者の腕に抱かれていますよ。


安心なさい。


あの優しき青年は、あなたが目覚めるのを一瞬たりとも離れずに待っています」






 ルーミーエラ様の言葉に、私の胸は

トクン、とあたたかい高鳴りを上げた。





 じんと様。私の大好きな、私の大切な旦那様(予定)。





現実世界の彼を思い浮かべるだけで

ただ純粋な愛おしさで胸がいっぱいに

なる。






「けれど、萌。


あなたは不思議に思っているの

でしょう?


なぜ現実の自分が、幻のエルフではなく『白いコウサギ』の姿になってしまったのか」






「っ……はい。世界樹の魔力を浴びれば、てっきり元の姿に戻れるんだと

思っていました。


でも、現実の私はモフモフの

ままで……。


どうして、うさぎになっちゃったんですか?」






 少しだけ俯く私の頭を、ルーミーエラ様はもう一度、包み込むように優しく

撫てくれた。






「それはね、世界樹があなたを『守る』ためにかけた、優しき呪縛――いいえ

強固な封印なのです。


元いた世界からこの地へ渡ったあなたの魂は、あまりにも強大で純粋なエルフの魔力を宿してしまった。


けれど……あなたの心は、前の世界でのあまりにも深い傷によって、固く閉ざされてしまっていた。


だから、魔力がうまく安定しなかったのです」






「私の……前の世界の、傷……」





 ルーミーエラ様の言葉に、私の胸の奥がズキリと痛んだ。





 脳裏に蘇るのは、社畜としての過酷な労働だけではない。もっと根本にある

幼い頃の記憶。前の世界の母親――

ママから受けた、酷い扱いの数々。






 言葉の暴力、冷たい視線、私という存在を否定し続けたあの家。私はずっと

誰にも愛されない恐怖から心を閉ざし

傷つくことから逃げるために感情に蓋をして生きてきたのだ。






「そんな風に傷つき、心を閉ざした脆い状態のままで、幼児の小さな体に膨大な魔力を巡らせてしまえば、器が耐えきれずに壊れてしまう。


だから世界樹の意思は、あなたの魔力を安全に抑え込み、その心と体をゆっくりと癒やすための仮の器として、あの

愛らしい『うさぎ』の姿を選んだの

です。


そしてね、萌。あなたが現実の世界で

元の姿に戻るためには、とても大切な

条件があるのですよ」






「条件……ですか?」





「ええ。あなたが前の世界でママから

酷い扱いを受けてきたこと、その悲しくて苦しかった過去の自分を、あなた自身がしっかりと『認め』なければなり

ません。


辛い過去から目を背けるのではなく

あれも自分の一部なのだと向き合い

今のあなたを愛してくれる人たちと共に『もう、私は大丈夫だ』と心から思えるようになること。


それができなければ、封印は完全に

解けず、元の姿に戻ることはできないのです」





「過去の自分を、認める……。向き合う……」






 ルーミーエラ様の突きつけた真実に

私は小さく息を呑んだ。





 うさぎの姿から戻れなかったのは

ただの魔力の問題だけじゃなかった。





私の心が、まだ過去の暗闇に怯えていたからだ。





「けれど、萌。あなたはもう、あの頃のように一人ではありません。


あなたの魂を救い、これからの歩みを支えてくれる素晴らしいものが

あなたの手の中にあるでしょう?」





 ルーミーエラ様がそっと指差した先。いつの間にか、私の小さな手には一冊の美しい『本』が握られていた。






 それは、世界樹の記憶が書き込まれているという、神秘的な本だった。






「あっ……この本……!」





「ええ。あなたがこの世界へ来てから

大好きな人たちと紡いできた大切な記憶が、すべてそこに書き込まれているの

です。見てごらんなさい」





 ルーミーエラ様に促されてページを

めくると、そこには温かい光の乗った光景が鮮やかに浮かび上がってきた。






 じんと様、アレク兄様、ライダ兄様

お父様にお母様。みんなの弾けるような笑顔。




そしてページの中央には、みんなで一緒にキッチンに立ち、大騒ぎしながら

甘くて美味しい『タルト』を作ったあの幸せな一幕が、愛おしい記憶として克明に刻まれていた。






「みんなと……タルトを作った、思い出……」






「そう。前の世界で閉ざされてしまったあなたの心は、この世界で出会った

大切な人たちとの温かい思い出に

よって、少しずつ解きほぐされてい

ます。


この本と共に、これからも新しく幸せな記憶がどんどん刻まれていくわ。


だからね、萌。


その刻まれていく記憶を力にして、少しずつでいいから、過去の自分と向き合っていきなさい」







 本に溢れるみんなの笑顔を見ていたら、自然と胸の奥があたたかさで満たされていくのが分かった。






 前の世界のママは私を認めなかった。





私を酷く扱った。だけど、今の私には

私を全力で愛して、甘やかして、守ってくれる家族がいる。






愛を誓ってくれたじんと様がいる。






 だったら、私はもう大丈夫だ。





過去の悲しい私も、全部ひっくるめて

私なんだって、ちゃんと認めてあげられる。






「はい……! 私、本と一緒に、みんなとの思い出と一緒に、自分の過去からも

逃げずにちゃんと向き合っていきます。


だって、今の私にはみんながいるから……もう、絶対に大丈夫です!」





 私がぎゅっと本を抱きしめて力強く宣言すると、ルーミーエラ様は本当に嬉しそうに、慈愛に満ちた笑みを深めた。






「うふふ、本当に良い返事ですね、萌。


その強い決意があれば、封印が完全に

解ける日もそう遠くはありませんよ」





 ルーミーエラ様が私の小さな両手を

その美しい手でそっと包み込んだ。






その瞬間、二人の手の隙間から、チカチカと眩い銀色の光が溢れ出す。





過去を認め、向き合う覚悟を決めたことで、私の内なる魔力が、今までにない

ほど穏やかに、かつ力強く脈打ち始めるのが分かった。






「今、こうして精神の世界でエルフの姿に戻れていることこそが、封印が解かれ始めている何よりの証拠(あかし)。


現実に戻れば、あなたはまだしばらく

あの愛らしい毛玉の姿でしょう。


けれど、自分と向き合い始めたあなたへ、世界樹の祝福をここに授けます。


次に目覚めるとき、あなたの『声』は、きっと大切な人に届くはずです」






「え……っ?」





 驚く私を包み込むように、純白の世界が今度は眩い黄金の光へと変化していく。






 急激な睡魔が襲ってきて、私は再び、心地よい温かさの中へと意識を沈めていった。






(じんと様……みんな……今、戻ります……!)





 次にゆっくりとまぶたを開いたとき。





 視界に飛び込んできたのは、見慣れたあたたかい大好きな人の綺麗な

顔だった。






「――っ、萌! 萌、気がついたのか!?」






 じんと様の悲痛な、けれど歓喜に震える声が響く。私の体はやっぱり白くて

モフモフしたうさぎの姿のままで

じんと様の大きな手にぎゅっと抱きしめられていた。






彼の綺麗な瞳には、今にもこぼれ落ちそうな涙がたまっている。






「……ん……っ、じん……と……さま……」






 その瞬間、じんと様が息を呑むのが

分かった。





私の小さな口からこぼれ落ちたのは

いつもの「みゅ」という鳴き声ではない。はっきりとした、人間の少女としての私の声だった。






「萌……今、私の名前を……? 喋れた、

のか……?」






 じんと様は驚愕に目を見開き、それから愛おしさが爆発したように、私のモフモフな体をさらに優しくきつく抱きしめた。






「じんと様、ただいまです……。私

お話しできるようになりました……みゅ」







 最後につい、いつもの語尾がぽろりと漏れてしまったけれど、じんと様は

愛おしそうに何度も私の頭を撫てくれた。






 ママに傷つけられた過去の暗闇は

本と共に刻まれていく幸せな記憶があるから、もう怖くない。


これからはちゃんと向き合って、乗り越えてみせる。


 世界樹の主の優しさに背中を押され、大好きなじんと様の胸の中で、私の

『自由気ままな旅』は、最高に幸せな一歩を踏み出して大きく動き出そうとしていた。

(第155話 終わり)

第155話をお読みいただき、ありがとうございました!

つ、ついに……!


萌ちゃんがうさぎさんの姿のまま、現実世界でじんと様の名前を呼ぶことができました……!(感涙)


今までずっと「みゅ〜」という鳴き声とジェスチャー、あるいは筆談(?)で頑張ってきた萌ちゃんが

初めて本物の声で「ただいまです」と言えた瞬間は、書いていて私も胸が熱くなってしまいました。最後につい語尾の「みゅ」が出ちゃうところも、萌ちゃんらしくてお気に入りです(笑)。


ルーミーエラ様から明かされた、うさぎの姿の真実。


前世のママから受けた酷い扱い、心を閉ざしていた過去……。それを今の温かい家族やじんと様との

「タルト作りの思い出」を力にして、本と共に刻まれる記憶と一緒に向き合っていくと決めた萌ちゃん。


少しずつ、でも確実に、幸せに向かって歩みを進める萌ちゃんを、これからも一緒に見守っていただけたら嬉しいです!


「じんと様やお兄ちゃんたちの驚く反応が気になる!」「喋れるようになった萌ちゃん可愛すぎる!」と思ってくださったら、ぜひ評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)や感想

ブックマークで応援していただけると、執筆の励みになります!

次回、じんと様過保護モード大爆発&お兄ちゃんたち大騒ぎ(?)の第156話もお楽しみに!


11月3日火曜日はおやすみ致します

11月4日水曜から投稿開始いたします

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