第152話:ようこそ、僕たちの聖域へ! 歓迎の光に包まれて、私たちは世界樹の真実へと歩み出す
誰もが突破不可能だと頭を抱えていた
世界最強の『絶対結界』。
それを前に、満を持して「僕の庭みゅ!」と肉球タッチをキメた精霊王みちゃーれでしたが……まさかの
セキュリティエラーで弾き飛ばされるハプニングが
発生!?
魔力が不安定でうさぎの姿になっているエルフの萌ちゃんとじんと様が近づいた瞬間、結界は「同胞」を歓迎
するように優しく開かれます。
もふもふ姿のドタバタと、世界樹の森編の本格的な幕開けをどうぞお楽しみください!
「男たちの奮闘は、ここでも空回り
みゅ? 精霊王である高貴な僕がここにいることを、みんなすっかり忘れているんじゃないみゅ?」
短い両足をぽんと小さな腰に当て
丸いお腹をぽっこりと前に突き出しながら、これ以上ないほどの『ドヤ顔』を
キメているみちゃーれ。
あまりにも自信満々なその態度に
腕を組んでエメラルドグリーンの光る壁を見上げていたお父様とお兄様たちが
一斉に視線を足元へと落とした。
「おい、みちゃーれ。お前、何か方法を知っているのか?」
ライダ兄様が肩に担いだ木刀を
トントンと叩きながら、半信半疑と
いった様子で眉をひそめる。
「方法も何も、ここは僕の庭みたいな
ものみゅ! 人間にとっては絶対の拒絶
でも、僕にとってはただの
『いってきます』のドアノブみゅ!」
みちゃーれはフンスと鼻を鳴らすと
短い後ろ足でトコトコと結界のすぐ目の前まで歩いていった。
「危ないみゅ、みちゃーれ! 触ったら
弾き飛ばされちゃうよ!?」
私がうさぎの姿のまま、長い耳を
パタパタと揺らして声を上げると
隣にいるじんと様が私の小さなうさぎ体をそっと両手で優しく包み込み、自分の胸元へと引き寄せた。
いつでもみちゃーれを救出できるようにと、鋭い視線を結界へと向けながらも
私を労わるじんと様の白手袋はとても
温かい。
じんと様の香りに包まれて、私の小さな心臓がトクンと跳ね上がる。
魔力が不安定でこの姿のままだから
じんと様にこうして抱っこしてもらえるのだけは、ちょっぴり嬉しかったり
する。
けれど、私たちの心配をよそに
みちゃーれは全く臆することな
エメラルドグリーンの光る壁に向かって小さな右前足を伸ばした。
そして、ぷにぷにとしたピンク色の肉球を、神話の結界へと、ぽちっ、と
優しくタッチした。
「――『開けごまみゅ』」
パリィィィィン!!!
「みゅべふぉぉぉぉぉっ!?」
その瞬間、世界最強の絶対結界から
目にも留まらぬ速さでエメラルド
グリーンの電撃が
走り、みちゃーれは凄まじい勢いで
真後ろへと弾き飛ばされた。
綺麗な放物線を描いて宙を舞った
みちゃーれは、そのまま地面をごろごろごろとマリモのように転がり、ライダ
兄様のブーツのつま先にコツンと当たってようやく止まった。
「……みゅ、みゅふぅ……」
目を回して、頭の上で下級精霊が
くるくる回っているような顔をしているみちゃーれ。
「「「弾かれてるじゃないか。」」」
お父様、アレク兄様、ライダ兄様の声が綺麗にハモった。
「な、何でみゅ!? 僕、精霊王
みゅよ!? ドアノブどころか、完全に
チェーンロックかかってたみゅ!
不審者扱いされたみゅ!」
ガバッと起き上がったみちゃーれが
涙目で自分の肉球をフーフーしながら
大騒ぎする。
「ふむ。どうやら、お前の
『魔力のパスワード』が古すぎたか
あるいは長年おやつばかり食べていた
せいで、結界の認証システムにお前の
魔力パターンが『ただの動く毛玉』と
して認識された可能性があるね」
アレク兄様が眼鏡の奥の目を光らせ
至極冷静に(あるいはちょっと楽しそうに)分析した。
「毛玉って言うなみゅ! 僕は高貴な……!」
「みちゃーれ、大丈夫? 痛くなかったみゅ?」
じんと様の腕からぴょんと飛び降りた私は、トコトコとみちゃーれの元へ駆け寄り、心配そうに鼻をひくひくさせた。
私がみちゃーれの煤を払うように前足で優しく触れた、その瞬間だった。
キィィィン……という拒絶の音が
ふっと止んだ。
うさぎの姿の私が一歩結界に近づいただけで、結界の表面が波紋のように
優しく揺らぎ始めたのだ。
みちゃーれ単体では激しく拒絶したはずの壁が、私の中に眠るエルフの魔力
(と、私を心配してぴったり後ろに寄り添っているじんと様の高潔な守護魔力)に反応して、まるで嬉しそうにソワソワと輝きを増していく。
「……なるほど。みちゃーれ単体では
ロックが解除されなかったが、世界樹に連なるエルフである萌の魔力と
それに寄り添うじんと君の魔力が
合わさることで、結界が
『正式な同胞とその客人』として
承認した、ということか」
お父様が納得したように頷く。
パァァァァァッ……!
次の瞬間、視界のすべてが圧倒的な光
で満たされた。
エメラルドグリーンの壁は私たちの目の前で左右へとサラサラと割れ、まるで
王宮の敷かれたレッドカーペットのように、森の奥へと続く美しい光の道を作り出した。
さっきまでみちゃーれを容赦なく弾き飛ばした結界が、嘘のように優しく私たちを迎え入れてくれたのだ。
「みゅふん! 見たってみゅ! 結局
僕と萌の共同作業で結界が開いたみゅ! 僕の功績みゅ!」
ちゃっかり私の背中に飛び乗って
一瞬でドヤ顔を復活させたみちゃーれが短い尻尾をパタパタと振る。
私のうさぎの背中をクッション代わりにしないでほしいみゅ!
「さあ、みんな。ようこそ、僕たちの
聖域へみゅ!」
みちゃーれの現金な声に導かれるようにして、私たちは光の道へと一歩を踏み出した。
結界をくぐり抜けた瞬間、まるで世界そのものがガラリと切り替わったかのような衝撃が全身を駆け巡る。
「……っ、萌、大丈夫ですか!?」
じんと様が瞬時に身を屈め、私の
小さなうさぎ体を両手ですくい上げる
ようにして、自分の胸元へとしっかりと抱き寄せた。
ドクドクと力強く打つじんと様の鼓動が、私の長い耳を通してダイレクトに伝わってくる。
結界を抜けた瞬間に、世界樹の濃密な魔力が一気に流れ込んできたせいか
私の体の中の魔力もカチリとはまるように少しだけ安定していくのを感じた。
じんと様は私に魔力酔いがないか
本当に心配そうに覗き込んでくれて
いる。
「だ、大丈夫です、じんと様……。
ただ、すごく綺麗で……」
じんと様の腕の中で長い耳をぴこぴこと動かしながら顔を上げると、そこには人間界では決して見ることのできない
幻想的な世界が広がっていた。
大樹の根元からは純白の光を放つ花々が咲き誇り、遥か上空を見上げれば
世界樹の葉がそよ風に揺れるたびに
シャラン、シャランと心地よい鈴のような音が響いてくる。
森の奥からは、私たちを歓迎するかの
ように、小さな羽を持った下級精霊たちが姿を現し、うさぎ姿の私の周りを
嬉しそうにくるくると飛び回り始めた。
あまりの心地よさに、思わず鼻をひくひくさせてしまう。
やはり、エルフである私にとって
この森はどこか懐かしい匂いがする。
「これは、本当にただの森ではありませんね。まるでおおとぎ話の国に迷い込んでしまったかのようです」
じんと様が私を片腕でしっかりと大切に抱きかかえたまま、もう片方の手で周囲への警戒を崩さず、息をのむように周囲を見渡した。
「ええ。ですが、ここからが本番
ですわ。
世界樹が私たちを招き入れたということは、それだけの理由があるはずですから」
ルミエラお母様が日傘をそっと閉じ
真剣な眼差しで森の深淵を見つめる。
うさぎの私の背中で偉そうにしている
みちゃーれを乗せたまま、私たちは
歓迎の光に包まれながら、世界樹の真実へと向かって静かに歩みを進め始めた。
この美しい聖域の奥で、一体何が私たちを待っているのだろうか――。
(第152話 終わり)
第152話をお読みいただき、ありがとうございました!
エルフである萌ちゃんの魔力に世界樹の結界が優しく
反応して開くという展開になり、ストーリーの深みと
納得感が一気に増しましたね。
世界樹の魔力を吸い込んで、萌ちゃんの不安定な魔力が少しだけカチリと安定する描写も入れることができ
新章での萌ちゃんの変化がさらに楽しみになりました。
みちゃーれは相変わらず弾き飛ばされて
「不審者扱いされたみゅ!」と騒いでいますが
萌ちゃんの背中に乗って一瞬でドヤ顔を復活させるあたり、やっぱり大物(?)です(笑)。
じんと様も、うさぎ姿のエルフである萌ちゃんを本当に大切に抱っこしていて、過保護な甘やかしっぷりが最高に尊いです……!
次回、第153話では、世界樹の森をさらに進む萌ちゃんたちの前に、ついに森の異変の核心、そして萌ちゃんの
元の姿(エルフ姿)に戻るヒントが……!?
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