第142話:絶望する里を置き去りにして、本当のお母さんを我が家へお迎えします!
今回の第142話では、お母様の圧倒的なツルピカ魔法で精霊の力を永久に失い、絶望に震える長老たちを置き去りにして、公爵家は本当のお母さんであるルミエラさんを我が家へとお迎えすることを決めます。
その頃、必死に頭をフル回転させていた萌ちゃんは、自分がエルフだったことは思い出せたものの、お母さんのことはなかなか思い出せず……。
けれど、その胸の温もりを本能で感じながら、ルミエラさんの腕の中で安心しきって寝落ちしてしまいます。
感動の結末のまま馬車へ向かおうとする公爵家一同でしたが、ここで鞄から全知の魔導書が飛び出してきて激しく発光! 空中に浮かび上がった光の文字が、萌ちゃんを元のエルフの姿に戻す方法がこの里に隠されているという大事な事実を突きつけてきて……!?
「ああ, あああ……! 精霊様……私たちの、私たちの精霊様が……っ!!」
エルフの里のあちこちから、血を吐くような絶望の叫びが響き渡っていた。
お母様の放った眩いツルピカ魔法の
光が収まった瞬間、この里に満ちていた清浄な魔力は完全に消失していた。
長老をはじめ、そこにいたすべての
エルフたちが、自身の身体から
「精霊の力」が根こそぎ消え去った
ことに気づき、顔面を蒼白にして地面に這いつくばっている。
「そ、そんな……嘘だ、魔法が、精霊の術が使えん……! 高貴なるエルフで
あるこの私が、ただの人間と同じになったというのか……っ!?」
長老はガタガタと無様に震え、自分のしわくちゃの両手を何度も見つめては
涙を流した。
精霊に愛されていると自惚れ、魔力を持たない者を「出来損ない」と見下していた傲慢な連中が、今や自分たちが
蔑んでいた「ただの無力な存在」へ
と落とされたのだ。
これ以上の因果応報はない。
お母様は、涙を流して錯乱する長老をゴミを見るかのような冷たい目で見下ろした。
「自業自得ですわね。
ルール、ルールと耳にタコができるほど喚いておられましたけれど……
精霊様方も、赤ん坊を呪って捨てるような醜悪なルールはお嫌いだったよう
ですわ。
……さようなら。精霊の加護を失った
里がこの先どうなるか、その身をもって学びなさいな」
お母様の冷徹な言葉に、長老は反論の言葉すら失い、ただただ地面に額を擦りつけて咽び泣くことしかできなかった。
「ふん、命拾いしたな。
お袋の魔法がなけりゃ、てめぇの首は
今頃すっ飛んでたところだ」
ライダ兄様が大剣を背中に背負い
直し、鼻で笑う。
お父様も、ジント様も、もはやこの哀れな元・エルフたちには視線すら向けようとしなかった。
「ルミエラさん。こんな偽善の里に
もうあなたの居場所はありませんわ。
……私たちの我が地へと、一緒に
いらっしゃいませんか?
萌ちゃんの本当のお母様として、あなたを大歓迎いたしますわ」
お母様が優しく微笑みかけると
萌ちゃんを抱きしめていたルミエラさんは、驚いたように目を見張った。
「え……? わ、私のような、里を
裏切った者を、公爵家へ……?」
「何を言う。
萌を二年間も守れなかった俺たちから
すれば、命がけで割り込んできた
あんたは恩人だ。
誰も文句なんか言わせねぇよ」
ライダ兄様がガシガシと頭を掻きながら笑うと、アレク兄様も眼鏡を押し上げて優しく頷いた。
「ええ。これからは我が家で、萌ちゃんにたくさんの愛情を注いでやってください」
「あ、ありがとう、ございます……っ! ありがとうございます……!」
ルミエラさんは再びポロポロと大粒の涙を流し、何度も何度も公爵家の一同に頭を下げた。
大人たちがそんな感動的なやりとりを繰り広げている、その腕の中で。
「きゅ、きゅー……みゅー……」
萌ちゃんは、ちゃっちゃい真っ白な
頭をフル回転させすぎて、すっかり知恵の限界を迎えていた。
前話からずっと、必死に昔のことを
思い出そうと頑張っていた萌ちゃん。
頑張った甲斐あって、自分の耳が昔は
ツンと長かったことや、自分が
「エルフ」という特別な存在だったことについては、なんとか思い出すことができた。
けれど、目の前で自分をぎゅっと
抱きしめて泣いている、ルミエラさんのことまでは、どうしてもなかなか思い出せなかったのだ。
二歳の頃に無理やり引き離された記憶は、幼いうさぎの脳内には少しばかり
遠すぎた。
けれど――。
(でも……なんだか、とってもあった
かいみゅ。萌、このあったかい匂い
ぜったいに知ってる気がするみゅ……)
記憶は曖昧でも、魂が、身体が、本当のお母さんの温もりをちゃんと覚えていた。
ルミエラさんの胸の鼓動を聞いているうちに、萌ちゃんの小さな心臓も
トクトクと優しく波打ち、頭を使い果たした心地よい疲労感が一気に押し寄せてくる。
「むにゃ……きゅぅ……」
萌ちゃんは短い前足をルミエラさんの服にちょこんと添えたまま、安心し
きったように、すやすやと可愛い寝息を立てて眠り始めてしまった。
一件落着、とばかりにお父様が
「よし、帰るぞ」と馬車へ歩き出そうとした、その時だった。
ピカッ!!!
アレク兄様の鞄の中から、突如として周囲を昼間のように照らす凄まじい純白の光が放たれた。
「おっと……!? なんだ、萌の本の
魔導書が勝手に……?」
アレク兄様が慌てて鞄を開けると
そこから飛び出してきた魔導書が空中を浮遊し、ページを激しくパタパタとめくりながら、まるで怒っているかのように激しく明滅している。
そして、開かれたページから黄金の光の文字がビシッと空中に浮かび
上がった。
『待て公爵家! 大事なことを忘れているぞ! 萌ちゃんを元のエルフの姿に戻す方法が、この里の長老の隠し部屋
あるいは禁書庫に眠っている!』
「あ……」
公爵家の一同が、一斉にぽかんと口を開けた。
長老の傲慢さにブチギレて里を壊滅させることばかりに頭がいっぱいで
肝心の「萌ちゃんを元に戻す方法」を
完全に失念していたのだ。
魔導書は『早く気づけ!』と言わんばかりに、さらに激しくペカペカと明滅を繰り返している。
「あらあら、うっかりしていましたわね」
お母様が可愛らしく首をかしげる。
「よしライダ、ジント。長老の庵を
ひっくり返してその本を見つけ出せ。
アレクは禁書庫の結界を破れ」
お父様の即座の命令により、公爵家の男たちが「よっしゃ!」と再び目を
ぎらつかせて動き出す。
精霊の力を失って絶望する里のエルフたちを尻目に、公爵家は本当のお母さんルミエラさんを保護しつつ
萌ちゃんを元のエルフに戻すための手がかりを確保するべく、里の徹底的な
「大捜索」へと乗り出すのだった。
(第142話 終わり)
長老たちのざまぁ展開と、ルミエラさんの胸の中で安心して眠る萌ちゃんの尊さに胸がいっぱいになっていたら、まさかの魔導書の「光の文字」による猛抗議に大爆笑してしまいました!
公爵家のみんな、怒りと感動で一番大事な「萌ちゃんをエルフの姿に戻す方法」をすっかり忘れて帰ろうとしていましたね(笑)。
喋らない代わりにペカペカと激しく点滅して
『ちょっと待て!』と主張する魔導書が最高にいい仕事をしています。
おかげで長老の部屋や禁書庫から元の姿に戻す手がかりを探すことになり
次回は里のさらなる大捜索が始まりそうです!
萌ちゃんが可愛いツンツン耳のエルフの姿に戻れる
日が、今から待ち遠しくて仕方がありません!




