第140話:命がけで割り込んだエルフの正体は、萌ちゃんの……?
今回の第140話では、命がけで一同を庇ったそのエルフの女性の口から、ついに二年前のあまりにも残酷な真実が明かされます!
なんと、彼女の正体は萌ちゃんの「本当のお母さん」でした。
元々は可愛いエルフの赤ちゃんとして生まれた萌ちゃん。生まれた時は皆優しかったのに、魔力が使えない
「出来損ない」だと分かった瞬間にエルフたちは態度を一変させ、「ルール」を理由に萌ちゃんを母親から引き離しました。しかも、うさぎの姿に変える呪いをかけて森へ捨てたのです。
すべての真実を知り、これまでにないほど大激怒した公爵家の一同が、エルフの里を文字通り壊滅させる勢いで動き出します!
床に額を激しくこすりつけ
ガタガタと無様に震えながら命乞いを
続ける長老。
お母様はその哀れな姿には目もくれず、ツルピカな魔力の輝きをそっと
収めると、命がけで自分たちの前に割り込んできた優しいエルフの女性の前へと、ゆっくりと膝をついた。
「怪我はありませんか? 勇敢なエルフの方」
お母様が優しく声をかけ、すっと
美しい手を差し伸べる。
へたり込んでいたエルフの女性は
涙で濡れた顔を上げてお母様を見つめ
それからお母様の腕の中にいる白い毛玉――萌ちゃんへと視線を移した。
その瞳から、決壊したように再びぽろぽろと大粒の涙が溢れ出す。
「あ、ああ……萌……私の、私の可愛い萌……っ!」
その口から漏れ出た愛おしげな響きに、ヴィンテ・ラジ公爵家の一同が
ピクリと目を見張った。
「みゅ……?」
お母様の腕の中で、萌ちゃん
(うさぎ姿)が不思議そうに短いお耳をピコピコと動かす。
二歳の時に捨てられた萌ちゃんには
うさぎの姿になってしまった
もあるのか、目の前の女性が誰なのか
すぐには思い出せないようだった。
ただ、その温かい涙の匂いに、どこか
懐かしい記憶を刺激されたのか
お母様の腕からトテトテと放たれて
女性の膝へと小さな前足を乗せた。
「きゅきゅ? (泣かないでみゅ?)」
「萌、萌……! 生きて、生きていてくれたのね……っ!!」
女性はたまらず萌ちゃんを両手で
優しく抱きしめ、胸に顔をうずめて声を上げて泣きじゃくった。
そのただならぬ様子に、お父様が静かに一歩前に踏み出し、低い声で問いかける。
「……そこのエルフ。お前は一体、萌とどういう関係だ」
女性は萌ちゃんを大切そうに抱きすくめたまま、涙を拭って公爵家一同を
見上げた。
「私は……ルミエラ。この子の、この子の本当の母親です」
「なっ……!?」
ライダ兄様が驚愕の声を上げ
アレク兄様も眼鏡の奥の目を丸くした。
ジント様は鋭い視線をルミエラへと
向け、お父様とお母様は沈痛な面持ち
で彼女の言葉を待った。
ルミエラは、震える声で二年前に
隠されたあまりにも残酷な真実を語り始めた。
「萌は……私たちと同じ『エルフ』
として生まれたのです」
ルミエラの告白に、庵の中に再び激しい衝撃が走る。
「生まれた時は、里の皆も本当に
優しかったのです……。
耳の尖った、綺麗なエルフの赤ん坊と
して生まれた萌を、長老も、衛兵たちも、皆が心から祝福してくれました。
萌を抱いて、里の皆が温かい笑顔を向けてくれていたのです」
ルミエラは愛おしそうに萌ちゃんの頭を撫でる。
だが、その声がにわかに激しい怒りと悲しみで震え始めた。
「けれど、この子が成長するにつれて
エルフなら当然持っているはずの
魔力が、一切使えない『出来損ない』
だと分かった瞬間……
里の皆の態度が一変しました。
長老をはじめとする者たちは、萌を
エルフの面汚しだと罵ったのです」
床に頭を擦りつけている長老の肩が
ビクッと跳ね上がる。
「私は必死に命乞いをしました!
私の魔力をすべて分け与えてもいいから、里に置いてくれと涙を流して縋り
付いたのです!
……ですが、彼らは冷酷でした。
『エルフの掟に従うのがルールだ』
とそう冷たく言い放ち、泣き叫ぶ私から二歳の萌を無理やり引き離しました。
そして……エルフの姿のまま森に捨てることにして拒魔の森へと捨て去ったのです……!」
ルミエラの悔し涙が、萌ちゃんの白い毛並みにポタポタと落ちていく。
魔力のない幼いエルフを、危ない森
に捨てて凶悪な魔獣がいる森へ捨てる。
それは「ルール」という免罪符の
もとに、確実な死を強いたのと同義だった。
「みゅ〜? 萌、むかしは、お耳が
ツンって長かったみゅ?」
ルミエラの涙に触れて、萌ちゃんの
脳裏に、うっすらと
「白くて綺麗なエルフの女の子」だった頃の自分の記憶が蘇り、ぽつりとおねだりするように呟いた。
本当の真実を知った瞬間、公爵家の男たちの全身から、先ほどとは比べ物にならないほどの、暗黒の神をも殺しかない凄まじい殺気が爆発した。
「……貴様ら、よくも我が最愛の娘に
そんなおぞましい仕打ちをしてくれたな」
お父様の目が、もはや生物のそれではない完全な冷徹さへと染まる。
「ルールだと……? 出来損ないだと……? 自分たちと同じエルフの子供を森に捨てるのが、てめぇらの高貴なルールかよッ!!」
ライダ兄様が逆上し、大剣の切っ先を地面に突き立てると、その衝撃だけで
エルフの里全体が激しく揺れ動いた。
「なるほど。都合が悪くなれば呪いを
かけて赤ん坊を捨てる。
……エルフの傲慢さには反吐が
出ますね。
その汚いルールごと、この里を焼き尽くして差し上げましょう」
アレク兄様の周囲に、今や国一つを
焦土に変えるほどの超高熱の青い炎が
展開される。
「二度と、その汚い口で我が君を侮辱させん。一族諸共、魂ごと消滅させてやる」
ジント様の影が、里全体を飲み込もうとするかのように巨大な闇となって広がり始めた。
公爵家の大ブチギレ無双の第二波が
今度こそエルフの里を地図から消し去ろうとしたその時。
お母様がすっと立ち上がり、土下座して失禁寸面になっている長老を見下ろした。
その顔には、先ほどまでの微笑みは
一切なく、ただただ、底知れない絶対的な拒絶の冷たさだけが宿っていた。
「……ルミエラさん、よく話してくれ
ましたわ。
安心なさい、我がヴィンテ・ラジ公爵家が、あなたと萌ちゃんを傷つけたすべての者に、相応の『お裁き』を与えて差し上げますわ」
お母様から放たれるツルピカ魔力が
今度は長老だけでなく、里のすべての
傲慢なエルフたちを絶望のどん底へと
叩き落とすべく、眩いばかりの終焉の光を放ち始めるのだった。
(第140話 終わり)
生まれた時は皆で優しく祝福しておいて
魔力が使えないと分かった瞬間に「ルールだから」とうさぎの姿に変えて魔の森に捨てるなんて、長老も里
のエルフたちも本当に許せません!
本当のお母さんであるルミエラさんの涙の告白に
公爵家の大人たちのキレっぷりが過去最高にヤバいことになっています。
次回、この偽善の里のエルフたちにどんな地獄のような「分からせ」が待っているのか、今からスカッとする
展開が楽しみすぎます!




