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第135話:木陰からの視線と、驚愕のエルフ

いつもお読みいただきありがとうございます!

前回の第134話では、萌ちゃんの可愛い「ぽすっ」の一撃で、古代の頑強なループ結界をあっさりと突破して

しまいました。


今回は、結界が開いた一本道の奥で、ついに最初のエルフの住人と遭遇します。


姿を現したのは、物腰が柔らかくてとても優しそうな

エルフの男性・アルヴィス。


「話の通じる相手で良かった」と一同が胸を撫でおろしたのも束の間、物語は新章の核心に迫る大波乱の

展開へ……!


萌ちゃんの隠された過去と、エルフの冷酷な本性が明かされます。

 萌ちゃんがちっちゃなおててで

「ぽすっ」と触れた瞬間、何百年もの間、人間の侵入を拒み続けてきたエルフの古代結界は、信じられないほどあっさりと左右に割れた。






 現れたのは、淡い光が優しく降り

注ぐ、美しい木漏れ日の一本道。





 萌ちゃんとお母様を先頭に、まだ少しだけお腹の名残惜しさを気にする男たちを引き連れて、一同はその神秘的な道へと足を踏み入れた。






 光る苔や、見たこともない色彩の美しい花々が咲き乱れる森の奥へと進んで

いく。






 先ほどまでの不気味なループ空間が嘘のように、今はただ静謐で神聖な空気が満ちていた。






 しかし、その静寂は長くは続かない。






 歩を進めること数分、ふいにジント様とお父様が同時に足を止め、鋭い視線を前方の深い木立へと向けた。





「……誰かいるな。隠密の術は超一流だが……魔力の気配が人間のものではない」






 お父様が低く、地響きのような威厳に満ちた声で呟く。







 朝方の胃痛から完全に復活した

ヴィンテ・ラジ公爵家当主の、本来の

圧倒的な覇気が周囲の木々を震わせた。






 その言葉に呼応するように、アレク

兄様もライダ兄様も、即座にいつでも

動けるよう鋭い身構えを見せる。






 張り詰める緊張感の中、ざざ、と木々が揺れ、巨木の陰から一人の影が静かに姿を現した。






 そこに立っていたのは、長く尖った耳と、澄んだ新緑のような瞳を持つ、息を呑むほど美しい青年だった。






 その背には見事な装飾の弓を背負っており、一見すると侵入者を容赦なく排除しにきたエルフの冷酷な衛兵――に

見えたのだが。





「……おや、これは驚きました。

まさか、我が里の絶対結界が突破されるなんて」






 青年から発せられたのは、驚くほど

穏やかで、心地よく耳に響く優しい声

だった。






 彼は敵意を剥き出しにするどころか

困ったように眉を下げて、ふんわりと

した柔らかい笑みを浮かべている。






その物腰はどこまでも丁寧で、洗練されていた。






 お父様が油断なく一歩前に出た。






「私はヴィンテ・ラジ公爵家の当主

エドワードだ。


我が娘の呪いを解く手がかりを求め

エルフの長(おさ)に面会を求めて

やってきた。


不法侵入となったことは謝罪するが

相応の対価と礼儀は尽くすつもりだ」






「ああ、どうか警戒を解いてください

公爵閣下。


私はこの森の警備を任されているエルフのアルヴィスと申します。人間に無用な敵意はありませんよ」






 アルヴィスと名乗ったエルフの男性は、お父様の放つ圧倒的な威圧感に気圧されることもなく、優雅に丁寧にお辞儀をした。






 その声音には一切の棘がなく、緊迫していたライダ兄様たちも

「話の通じる相手で良かった」と心の中でホッと胸を撫でおろす。





 しかし――アルヴィスが、お母様の

足元にいる白い毛玉へと、その新緑の視線を落とした瞬間だった。






「みゅ〜う?」






 アルヴィスの長く尖ったお耳が珍しいのか、萌ちゃんは白いお耳をピコピコと動かせながら、トコトコと無邪気に近づいていく。




うさぎの姿のまま、愛らしく彼を見上げた。






 アルヴィスは萌ちゃんの前でそっと

膝をつき、目線を合わせた。





 じっと萌ちゃんの丸い瞳の奥を見つめる。






 エルフの持つ類稀なる高い観察眼と

魔力感知が、萌ちゃんの身体に流れる

歪んだ魔力――


そして、その魂の奥底に刻まれた記憶を瞬時に見抜いた。







 その瞬間、アルヴィスの新緑の

瞳から、それまで灯っていた優しさの

光がスッと消え失せた。






「……なるほど。見覚えがあると

思えば、やはりそうでしたか」






 先ほどと全く変わらない、どこまでも穏やかで優しい声。





 それなのに、発せられた言葉はひどく冷徹で、ゾッとするほどの拒絶を

孕んでいた。





アルヴィスはふんわりとした微笑みを

顔に貼り付けたまま、萌ちゃんを見下ろして淡々と言い放つ。






「そのものは、かつてこのエルフの里で生まれました。


ですが……あまりにも魔力の出来損ないであったため、我が里の血を汚さぬ

よう、私たちがこの手で外へと追い出したのです」






 ピキリ、と周囲の空間そのものが凍りついた。






 アルヴィスは何の罪悪感も持たず

ただ当然のルールを口にするかのように言葉を続ける。






「我が里は、世界の調和を保つ高貴な

エルフの土地。


そのような出来損ないを、再び招き

入れる余裕はありません。


人間の公爵たちよ、その獣を連れて

今すぐお帰りください。


これ以上進むというなら、我らも相応の対応をせねばなりません」






「てめぇ……! 今なんて言った……!?」






 ライダ兄様が激昂し、激しい金属音を立てて腰の剣の柄を握りしめた。





その全身から、怒りのオーラが爆発するように立ち上る。






 お父様の目にも、先ほどまでの交渉人のそれとは比べ物にならないほどの

昏い怒りの烈火が宿った。





ヴィンテ・ラジ公爵家の大切な愛娘を

侮辱されただけでなく、こんなにも小さな子供に、かつてそんな残酷な仕打ちを強いたエルフという種族への、底知れない怒りだ。







「私たちの前で、我が妹を侮辱した意味を理解していますか? エルフの衛兵よ」






 アレク兄様のメガネの奥の瞳は

まるで絶対零度の氷のように冷たく細まり、その周囲の空気が重圧で歪み

始める。





ジント様にいたっては、言葉すら

発しない。





しかし、彼の周囲の空間は、今にも暴走しそうな魔力の高まりによってビリビリとひび割れんばかりに震えていた。






 物腰柔らかな優しい男の口から飛び

出した、冷徹な事実と過去の告白。






 自分たちの大切な萌ちゃんを

『出来損ない』と呼び、過去に捨てた

という容赦のない言葉は、ヴィンテ・

ラジ公爵家の男たちの逆鱗を完全に踏みちぎった。






今この場で、エルフの森ごとすべてを

消し去ってもおかしくないほどの殺気が渦巻く。






 そんな一触即発の、恐ろしい大人たちの空気を余所に、言われた当の本うさぎはというと。





「みゅ? きゅきゅっ?

(できそこない? おいしいお菓子のみゅ?)」






 短い首を小さく傾げて、相変わらずのんきにお耳をぱたぱたさせていた。





自分の過去の記憶も、今言われている

悪口の意味も、ピュアな萌ちゃんには

これっぽっちも分かっていないのだ。






 だが、その無邪気さが、余計に大人

たちの胸を締め付け、怒りを何倍にも

膨らませる。





 男たちが武器に手をかけ、魔法を展開しようとしたその時。





 それまで沈黙を守っていたお母様が

ゆっくりと前に出た。





 いつも浮かべているはずの上品な微笑みは、その顔から完全に消え去っている。





 朝からツルツルピカピカだったお母様の美肌が、今は怒りの魔力によって

まるで世界を平伏させるかのような

神聖で恐ろしい輝きを放ち始めていた。





 お母様は静かに、しかし絶対的な重みを持って、アルヴィスに向けて一歩前へと踏み出すのだった。


(第135話 終わり)

第135話をお読みいただき、ありがとうございました!

一見すると優しくて紳士的なアルヴィスさんでしたが

萌ちゃんを見た瞬間にエルフとしての冷徹な顔を覗かせましたね。


しかも、萌ちゃんが実はこの里の出身で

「魔力の出来損ない」として過去にエルフたちに追い出されていたという衝撃の事実まで発覚してしまいました……!


大切な萌ちゃんを侮辱され、過去の非道を知ったヴィンテ・ラジ公爵家の男たちは完全にブチギレ状態。


ジント様の魔力も暴走寸前です。


そんな中、当の本うさぎが

「できそこない? 美味しいお菓子みゅ?」とのんきに

首を傾げているのが、切なくも最高に可愛くて癒やされます。


そしてラスト、ついに静かに一歩を踏み出したお母様……!


お肌ツルツルで絶好調のお母様が、萌ちゃんを傷つけたエルフにどんな恐ろしいお仕置き(?)を下すのか

怒れる公爵家の反撃から目が離せません!


この先の展開が気になる!お母様やっておしまい!と

思ってくださったら、ぜひブックマークや評価

(☆☆☆☆☆)でヴィンテ・ラジ公爵家への応援をよろしくお願いします!

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