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第134話:男たちの胃痛が治ったと思ったら、今度はエルフの森の結界がお出迎えです

いつもお読みいただきありがとうございます!

前回の第133話では、地獄のように苦い胃薬に悶絶しながらも、なんとか出発した公爵家の一同。

今回は、ついに男たちの胃痛がスッキリと完治するところから物語が始まります。

ようやくいつもの威厳を取り戻し、いざ新章『エルフの隠れ里』へ!と意気込む大人たちですが、人間を拒む謎の『迷いの森』がさっそく牙を剥くことに……。

何度も同じ場所に戻ってしまう不気味なループ結界を前に、大人たちが頭を抱える中、やっぱりあの可愛い白い毛玉が大活躍しちゃいます!

 あれほど男たちを苦しめていた地獄の胃もたれは、医師の特製胃薬(超苦い)の劇的な効果によって、昼過ぎには

ようやく落ち着きを見せていた。





「……おお。胃の重みが消えている。

信じられないほど腹が軽いぞ……!」





 お父様が自分のお腹を優しくさすりながら、まるで奇跡でも目撃したかのような感動の声をあげた。




ベッドの上で丸くなっていた公爵家当主の威厳が、ようやくその顔に戻ってくる。





「本当に助かりました……。一時はどうなることかと。これでようやく、まともに思考を巡らせることができます」






 アレク兄様も、スマートにメガネのブリッジを押し上げながら深く息を

吐いた。





両膝を内側に絞った限界の直立不動姿勢から解放され、いつもの知的な長男の姿に戻っている。






 ライダ兄様にいたっては

「生き返ったぜー!」と馬車の座席で

伸びをしており、ジント様もホッとしたように表情を緩めていた。






 公爵家の男たちに、ようやく平和な昼下がりが訪れたのだ。






 胃痛から解放された男たちは

これからの新章に向けて気を引き締め

直す。





 目的地は、人間を拒むと言われる

『エルフの隠れ里』。ここからは隠密旅の本番だ。





 お父様がキリッとした表情で、馬車の窓の外へと視線を向けた。






「さて、そろそろ目的地のはずだが……。うん?」





 ふと外を見たお父様の顔が、怪訝そうに歪んだ。






 それに釣られるように、アレク兄様も、ライダ兄様も、ジント様も一斉に窓の外を見る。






 そこにあったのは、見渡す限りの圧倒的な『緑』だった。






 馬車が止まったのは、大人が何人も

手をつながなければ囲めないような巨木が、幾重にも重なり合ってそびえ立つ深い森の手前。







道は完全に途絶えており、木々の隙間からはひんやりとした霧が立ち込め、奥がどうなっているのか全く見通せない。






「……おい、ジント。エルフの隠れ里は、この方角で間違いないのだろうな?」






「ええ、古文書の示す魔力の座標によれば、確かにこの森の奥なのですが……」






 ジント様が困ったように眉をひそめ、馬車のドアを開けて外へと降りた。





一同もそれに続く。






 お肌がツルツルのまま絶好調のお母様に抱っこされ、萌ちゃん(うさぎ姿)も一緒に外の空気を吸った。






「みゅ〜う?」






 長いお耳をぴこぴこと動かしながら、萌ちゃんは不思議そうに大きな森を

見上げる。






 とりあえず森の中へと足を踏み入れた一同だったが、歩き始めてから奇妙な違和感が彼らを襲った。






「なあ……。この奇妙な形をした折れ曲がった巨木、さっきも通らなかったか?」






 ライダ兄様が、幹に大きなコブがある木を指差して首を傾げた。






「いえ、まさか。私は歩数と方角を完全に計算して真っ直ぐ進んでいます。

同じ場所に戻るはずが――」






 アレク兄様が自信満々に答えようと

した、その時だった。






 さらに十数歩進んだ先で、一同は

ピタリと足を止める。






 そこにあったのは、先ほどライダ兄様が指摘した、幹に大きなコブがある巨木だった。






「……本当だ。同じ木だ。しかも、我々が踏み荒らしたはずの足跡が綺麗に消えている」





 お父様が周囲の地面を見つめ、険しい顔になる。






 ただの深い森ではなかった。





進んでも、進んでも、まるで景色が巻き戻されているかのように、何度も何度もさっき通った道をループさせられているのだ。






「ただの迷路ではありませんね。

空間そのものが捻じ曲げられ、侵入者を強制的に同じ場所へ歩かせる術式が組み込まれています。これはおそらく――」





 アレク兄様が周囲の魔力の流れを

分析し、確信を持った声で言った。





「――エルフの強力な『結界』、ですね」




 ジント様が森の空間に向かってそっと手を伸ばす。






すると、何もないはずの空間に、波紋のような緑色の光の壁がゆらりと浮かび

上がった。





「なるほど、これが人間を拒む迷いの森の正体か。


普通に入ろうとすれば、魔術的な誘導によって、いつの間にか元の場所へ戻されるか、森の外へと弾き出されてしまう仕組みのようだ。


胃痛が治ったと思ったら、今度はこれか……」






 お父様がやれやれと肩をすくめる。





 最高峰の魔術師であるジント様や

知識豊富なアレク兄様をもってしても

歴史あるエルフの結界を傷つけずに解除するのは容易ではない。





力任せに壊せば隠密旅ではなくなり

エルフたちとの全面戦争になってしまうからだ。






「どうします? ジント様。このループ結界の術式を解析して道を割り出すとなると、少々時間がかかりそうですが……」







「そうだね、少なくとも三日は――」





 大人たちがそんな難しい顔で話し

合っていた、その時だった。




 お母様の腕の中から、つるりと白い毛玉が抜け出した。





「みゅっ!」





 萌ちゃんである。





 萌ちゃんは地面に着地すると、短い後ろ足でトコトコと迷いなく歩き出した。





同じ道をループさせているはずの空間を、まるで何も気にしていないかの

ような、真っ直ぐな足取りだ。






そして、何度も目の前に立ち塞がって

いた「あのコブのある巨木」の前まで

来ると――。






「みゅ〜?」





 萌ちゃんは何の警戒心もなく、ちっちゃなおててを結界の魔力が一番濃い空間へとぽすっと触れさせた。






 その瞬間。





 バチィィン!と弾かれるかと

思いきや。






 眩いばかりの澄んだ緑色の光が

萌ちゃんを中心に優しく広がり

まるで大昔からの知人を迎え入れるかのように、何度も一同を惑わせていた結界の術式がふわりと左右に割れたのだ。






 何度もループしていたはずの景色がガラリと変わり、結界の奥には、さっき

まで見えなかった、美しい光に満ちた一本の木漏れ日の道がまっすぐに伸びていた。






「「「「……え?」」」」





 お父様、アレク兄様、ライダ兄様

ジント様の声が綺麗にハモった。






 三日はかかると言われた古代のループ結界が、うさぎの可愛い「ぽすっ」の

一撃で完全に無力化されている。






 結界をあっさりと通してしまった当の本うさぎは、振り返って大人たちを

見上げ、お耳をぱたぱたさせた。






「みゅー! きゅきゅっ?

(みんなこっちだよ? どうして立ち止まってるの?)」






 どうやら、昨夜タルトを食べて魔力のストッパーが外れた萌ちゃんの純粋な魔力が、エルフの森の防衛機構に

「無害な大自然の一部(あるいはそれ

以上の尊い存在)」として認識され

迷いの術式を自動的に解除してしまったらしい。






何度も同じ道を歩かされてうんざりしていた男たちの横で、お母様だけが

「あらあら」と嬉しそうに微笑んだ。






「さすが萌ちゃんですわ。皆様、男たちの出る幕はありませんでしたわね?

さあ、行きましょう」





「みゅ〜う!」





 元気よく先頭を歩く萌ちゃんと

それを追うお母様。





 残された男たちは、お腹をさすっていた手をそっと下ろし、互いに顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。





「……どうやら我が娘は、我々の想像を遥かに超えていくらしい」





 お父様のその言葉に、息子たちと魔術師は深く深く頷くのだった。


(第134話 終わり)

第134話をお読みいただき、ありがとうございました!


お医者さんの薬のおかげで無事に胃痛が治り、いつもの格好いい姿に戻ったお父様や兄様たち。


しかし、ホッとしたのも束の間、エルフの森の洗礼

(空間ループ結界)によって再び足止めを食らってしまいました。


「さっきもこのコブのある巨木を通ったような……?」

というライダ兄様の既視感通り、完全にハメられていた大人たちでしたが、萌ちゃんの「ぽすっ」という可愛い一撃で古代の高度な結界があっさりと開門!


三日かかると言っていたジント様やアレク兄様たちの立場がありません(笑)。


お耳をぱたぱたさせながら「みんなこっちだよ?」と

案内してくれる萌ちゃん、ストッパーが外れてますます頼もしく(?)なってきましたね!


結界の奥に現れた木漏れ日の道の先には、一体どんな出会いが待っているのでしょうか?


次回も気になる!と思ってくださったら、ぜひブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で萌ちゃんを応援していただけると嬉しいです!

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