第130話(番外編)『積み重なった失敗のゆくへ』
いつもお読みいただきありがとうございます!
第129話で無事に「不器用な愛のタルト」が完成し、萌の心の鍵が開かれました。
しかし、その感動の舞台裏
(キッチンの隅のトレイの上)では、もう一つの熱いドラマが繰り広げられていたのです。
今回は番外編として、役目を終えて(?)山積みにされた『失敗作のタルトたち』が、自分たちの行く末について大真面目に話し合う、奇妙な会議の様子をお届けします!
そこは、公爵家のきらびやかな
キッチンの片隅。
うずたかく積み上げられたトレイの
上は、現在、未だかつてない緊迫感に包まれていた。
集まったのは、総勢数十枚に及ぶ
『失敗作』のタルトやクリームたちで
ある。
「静粛に! 静粛に願いたい!」
声を張り上げたのは、第一陣として
生み出された『完璧すぎるタルト生地
(アレク兄様作)』だ。
定規で測ったかのように美しい円形
一点のムラもない黄金色の焼き上がり。
どう見ても王室御用達の芸術品なのだが、彼は深くため息をついた。
「我々は敗北した。人間の天才たちが
『下手くそに作れ』という謎の命令に
挑んだ結果、完璧に綺麗にできすぎてしまった。
そのせいで、我々は一瞬にしてこの
『失敗作の山』へ島流しにされたのだ。……これから我々はどうなってしまうのだろうか」
完璧すぎたがゆえに捨てられた
エリートタルトの言葉に、トレイの上がざわめく。
すると、隣のボウルからドロドロとしたナニカが首をもたげた。
みちゃーれが作った『分離した生焼け
カスタードクリーム』である。
「ふん、贅沢な悩みにゃ。
僕たちなんて、わざとダマを作ろうと
した獣人のデタラメな遠心力のせいで
水分と油分が完全に喧嘩して泥泥
(どろどろ)の地獄絵図にゃ。
もうクリームとしての形すら保ててないにゃ……」
「いや、お前らはまだマシだろう。俺の姿を見てみろ」
ゴトッ、と重苦しい音を立てて発言したのは、料理長が火加減をミスして生み出した第三陣『真っ黒焦げの炭素の塊』だった。
もはやタルトの面影はなく、ただの黒い炭である。
「職人のプライドを捨てきれない料理長が、焦るあまりにオーブンの火力を最大にした結果がこれだ。
おい、そこのライダが混ぜすぎた
『カチカチの鉄板生地』。お前からも何か言ってやれ」
「……(カチカチカチッ)」
フォークも通らないほど高密度に練り上げられた鉄板生地は、言葉の代わりに硬質な音を響かせた。
完璧すぎて不合格になったエリート、混ぜすぎて鉄板になった生地、分離したドロドロクリーム、そしてただの炭。
キッチンの一角で、失敗作たちは自分たちのあまりに数奇な運命について
大真面目に話し合っていた。
「やはり、我々はゴミ箱行きなのだろうか……」
「最高級の小麦粉とバターの生まれなのに、切なすぎるにゃ……」
絶望がトレイを支配しかけた、その時だった。
「もったいないでしゅ……きゅ。これ
じぇんぶ、おにいしゃまたちが、もえのためにつくってくれたのに……捨てるの、いやでしゅ。みゅ……」
トレイの下から、なんとも愛くるしい、ちっちゃなうさぎの声が聞こえてきた。
長いお耳をしょんぼりと垂らし
ちっちゃなおててでお腹をさすりながら、山積みの失敗作を見上げて心を痛めているうさぎの女の子――萌ちゃんだ。
元社畜OLという前世を持つ彼女の
『食べ物を粗末にしてはいけない精神』
が、うさぎの身体を通じてきゅーきゅーと鳴いている。
その瞬間、失敗作たちの間に激震が
走った。
「な、なんだあの可愛い生き物は……!」
「僕たちのことを、捨てないでって言ってくれてるにゃ……!」
「おお……心が洗われるようだ。
俺はただの炭だが、あの天使のためなら何だってできる気がしてきたぞ!」
萌ちゃんの健気な一言で、失敗作たちの意見は一瞬で一つにまとまった。
会議の結論は決まった。
――我々は、あの天使を悲しませない
ために、全力で人間に食べられよう!
『萌を悲しませるな! 全員、胃袋の限界を超えて完食するぞ!!』
トレイの下で、お父様の地鳴りのような号令が響き渡った。
「さあ、我々の出番だ! 行け、エリートたちよ!」
「おう! ライダが僕たちを3枚一気に
口に詰め込んできただにゃ!」
そこからは、まさに怒涛のフードバトル(第二の戦場)だった。
「完璧すぎて失敗」だったはずの美しきエリートタルトたちは、公爵家一同の
手によって、凄まじい神速のスピードで次々と口へ運ばれていく。
彼らの肉体の一部になれるなら、お菓子としてこれ以上の本望はない!
だが、問題は後半の『本当にダメな
失敗作ゾーン』である。
「ゲフッ……おい、料理長、お前の
作ったこの炭、本当にただの炭だぞ!
喉に詰まる!」
「ライダ様の混ぜすぎた生地も、顎が
砕けるほどの硬さです……っ!」
「にゃあ! みちゃーれのドロドロクリームも、誰か一気飲みするにゃ!」
凄まじい押し付け合いが始まった。
普段はクールなジント様が、すうっと気配を消して魔法でタルトを消去しようとする。
「ジント様! 魔法での隠蔽は却下です! ほら、このドロドロをどうぞ!」
「くっ……アレク、私を殺す気か……!
だが、萌の悲しむ顔を見るよりはマシか……!」
青ざめた顔で泥泥クリームを飲み干すジント様。
そんな大人たちの限界バトルを
見かねて、萌ちゃんが
「もえも、おてつだいしゅる……
みゅっ」と、短いおててを伸ばして炭の
タルトを健気に齧ろうとした。
『『『『萌にそんな恐ろしいものを食べさせられるかーーーっ!!!』』』』
全員の叫びがハモり、公爵家とジント様、そしてみちゃーれが限界突破
(リミットブレイク)を発動。
凄まじい阿修羅のごとき動きで、残った黒焦げや鉄板生地を自らの胃袋へと力技で収めていく。
「我々の勝ちだ……みんな、よくやった……」
数分後。トレイの上は完全に空っぽになり、失敗作たちは誰一人捨てられることなく、彼らの胃袋の中で大往生を遂げた。
ふと見下ろすと、キッチンにはお腹を丸々とパンパンに膨らませ、床に転がって白目を剥いている公爵家の天才たちとジント様が転がっている。
「みんニャ、おなかいっぱーい? かっこいいでしゅ! きゅきゅっ!」
何も知らないちっちゃなうさぎの天使が、パチパチと無邪気におててを叩いて笑っている。
トレイの上に残された小麦粉のチリを見つめながら、我々失敗作一同の
スピリットは、最高の満足感とともに
成仏していくのだった。
第130話(番外編)をお読みいただき、ありがとうございました!
今回はまさかの「失敗作タルトたちによる大真面目な生存戦略会議」をお届けしました(笑)。
完璧すぎてハズレ扱いされるエリートタルトから、ただの炭まで、みんな萌ちゃんの「もったいないでしゅ
(きゅ)」に心を奪われて大団円(?)を迎えました。
公爵家の皆さんの胃袋は今頃、鉄板と炭と泥泥クリームで大変なことになっていそうです……!
「失敗作たちの会議、面白かった!」
「萌ちゃんのために体を張る公爵家最高!」と
思ってくださった方は、ぜひページ下部の
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次回、第131話からは本編に戻ります。
光り輝いた『不思議な本』に浮かび上がった、次なる旅の目的地とは……!?
どうぞお楽しみに!
10月5日月曜日歯おやすみ致します
10月6日火曜日から再開致します
よろしくお願いします




