第128話:今度は俺たちの番だ! 公爵家、愛を込めた不器用な再挑戦!
いつも温かい応援をありがとうございます!
前回は、不思議な本が求めていた本当の正解が
前世のお母さんがまだ無視する前の
「優しかった頃に作ってくれた、少し不器用で温かい手作りタルトの味」だったという切ない事実に萌ちゃんが気づく回でした。
今回は、萌ちゃんのちょっぴり切ない過去を知った公爵家のみんなが、「今度は俺たちの番だ!」と大奮起! あえて完璧すぎない『不器用な愛の味』の再現に挑みます。
しかし、普段は何でも完璧にこなす優秀な大人たちにとって、「あえて綺麗に作らない」「あえてダマを残す」というのはかつてない超難問で……!?
何回も生地をダメにしながらも、愛する萌ちゃんのために泥泥になって大苦戦する家族のドタバタ劇を、どうぞ最後までお楽しみください!
「なるほどな……。完璧な味じゃなく
その『少し不器用な優しさ』こそが本の本質だったってわけか」
ジント様の言葉を聞いたライダ兄様が、ふっとやんちゃな笑みを浮かべて
私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「なんだよ萌、そんなことで悩んでたのか! だったら話は簡単だ。
今度は俺たちの番だな!」
「そうですわね。萌ちゃん、これからは私があなたの新しいお母様ですもの。
その優しかった思い出の味、私たちが今ここで、世界で一番幸せな思い出に塗り替えて差し上げますわ」
お母様が上品に、けれど確かな母の慈愛を込めて私をぎゅっと抱きしめて
くれた。
その温かさに、前世の寂しかった記憶がすうっと溶けていく気がした。
こうして、公爵家の『あえて不器用なタルト作り』という、前代未聞の再挑戦が始まった。
だが――これが想像を絶する大苦戦の始まりだったのだ。
「あーっ、クソ! また綺麗に混ざりすぎちまった!」
キッチンにライダ兄様の悔しそうな声が響く。
萌ちゃんのためにと気合いを入れすぎた結果、ライダ兄様の力強い混ぜ技に
よって、生地は少しのムラもなく完璧に滑らかにまとまってしまっていた。
あまりの出来の良さに、ライダ兄様は
自分の頭を抱えて唸る。
「これでは駄目だね、ライダ。萌のお母様の味は、もっと形が不揃いで、素朴な温かさがあったはずだよ」
アレク兄様が穏やかに指摘するが
当のアレク兄様が伸ばした生地も、定規で測ったかのように美しく均一な厚みの完璧な円形になっていた。
「あ、あらあら……私も、つい勝手が
違って、いつも通り綺麗に焼き上げてしまいましたわ」
お母様がお上品に頬に手を当てる。
その目の前には、一流のオーブン魔術で一点の焦げ目もなく美しく焼き上がった、王室御用達レベルの完璧なタルト台が並んでいた。
そう、普段は何でも完璧にこなす優秀な彼らにとって、「あえて下手に作る」「あえてムラを作る」というのは
かつてない超難問だったのだ。
「うにゃああ! また失敗にゃ! これじゃただの生焼けのドロドロにゃ!」
みちゃーれが泡立て器を振り回しながらにゃあにゃあ叫ぶ。
みちゃーれがダマを作ろうと勢いよく
かつ不規則にかき混ぜたクリームは、
ただの分離した油分の塊になってしまい、一回目の失敗。
顔にも付いてしまい
顔はカスタードまみれだった。
今度は料理長が
「職人のプライドを捨て、あえてカスタードにダマを残す……っ!」と血の滲むような覚悟でお鍋に向かったが、火加減の微調整がプロすぎて、どうしても
勝手に滑らかな極上クリームが出来上がってしまう。
焦るあまりに火力を強めれば、今度は鍋の底から生地ごと真っ黒に焦げ付かせてしまい、二回目、三回目の失敗。
「くっ、混ぜるのを途中で止める
タイミングが、これほど難しいとは……!」
お父様までもが小麦粉まみれの額に汗を浮かべ、真剣な目でボウルを睨みつけていた。
少しでも力を抜けば形が崩れ、力を入れれば完璧になってしまう。その絶妙な
「不器用さ」のコントロールに、公爵家の天才たちは完全に翻弄されていた。
四回目、五回目、六回目……。
何回も、何十回も、生地をダメにする音がキッチンに重なっていく。
ボウルの底でカチカチと空回りする
フォークの音。
焦げた匂いや、膨らみすぎた失敗作の山が、見る見るうちに机の脇に積み上がっていった。
「だああ! もう一回だ! 次はもっと力を抜いて、わざと不揃いにしてやる!」
ライダ兄様が、自分の顔が小麦粉でさらに真っ白になるのも構わずに新しいボウルを引っ掴む。みちゃーれも
「にゃあ! 萌ちゃんのために絶対に諦めないにゃ!」と、お耳をピンと立てて
泡立て器を握り直す。
お母様もお上品に袖を何度も捲り直して、慣れない手つきでお鍋の前に立ち続けていた。
お父様も無言のまま、凄まじい集中力で生地の配合を少しずつズラすという
普段なら絶対にやらない奇妙な試行錯誤を繰り返している。
一発で国を揺るがすような魔法やお菓子を成功させる天才たちが、私の前世の『不器用なお母さんの味』を再現するためだけに、泥泥の粉まみれになって本気で苦戦している。
「みんな、萌のために必死なんだ。
もちろん、俺もね」
ジント様が私の真っ白なお耳を優しく毛並みに沿って撫でながら、温かい声で囁いてくれた。
ジント様自身も、萌ちゃんが一番安心できる火加減を模索するために、魔力を極限まで繊細にコントロールしてオーブンを見つめている。
(みんな……私のために、あんなに何度も何度も失敗しながら……ボロボロになりながら……)
誰も「もうやめよう」なんて弱音を
吐かない。
むしろ失敗を重ねるたびに
萌ちゃんに最高の手作りを届けたいという熱い想いがキッチン中に満ちていく。
その光景を見ているだけで、私の
小さなお腹のあたりが、満腹のタルト
とはまた違う、はち切れんばかりの温かさでいっぱいになっていく。
前世の寂しかった記憶が、目の前の愛おしいドタバタ劇によって、どんどん幸せな色に塗り替えられていくのが分かった。
そして、何回重ねたか分からない失敗の果てに。
「……できた。萌、見てごらん」
ジント様に促されて机の上を見ると
そこには一枚の、少し歪なタルトが焼き上がっていた。
端っこの形は少し不揃いで、上に乗ったクリームには、小さな小さなカスタードのダマが、ぽつぽつと優しく残っている。
完璧な美しさではない。
一流の職人が見たら首を傾げるかもしれない。けれど、そこからは間違いなく
公爵家のみんなが泥泥になって詰め込んだ、世界で一番温かい『愛の隠し味』の匂いが優しく漂っていた。
「さあ、萌。俺たちの、とびきり不器用な愛の味だ。もう一度、食べてみてくれるかい?」
ジント様が愛おしそうに目を細め
フォークでその歪なタルトを小さく切り分けた。
お父様もお母様もお兄様たちも、全員が粉まみれの顔のまま、固唾を呑んで私を見つめている。
今度こそ、不思議な本に私たちの想いは届くのだろうか。私はドキドキとお耳を震わせながら、みんなが命がけで作り上げた手作りタルトを見つめ、そっとお口を開いた。
(つづく)
第128話をお読みいただきありがとうございました!
「あえて下手に、あえてダマを作る」ということの
まさかの難しさに大苦戦する公爵家一同!
普段は何でも完璧にこなすお父様やお兄様、お母様たちが、萌ちゃんのために何回も何回も生地やクリームを
ダメにしながら、泥泥・粉まみれになって頑張る姿が愛おしすぎて、胸がジーンと熱くなってしまいました。
優秀だからこそ「下手に作る」のが難しいという展開、凄く説得力があって素敵ですよね!
「何回も失敗しながら頑張るみんなの姿に泣けた!」
「今世の家族の手作りタルト、今度こそ本に認めてほしい!」と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で萌ちゃんたちの挑戦を応援していただけると嬉しいです!
次回の第129話では、ついにこの「世界一不器用で愛おしいタルト」を萌ちゃんが試食します。果たして、不思議な本はどんな反応を示すのでしょうか……!?
どうぞお楽しみに!




