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第127話:デパ地下の味じゃなくて……? 記憶の奥の、小さなお誕生日

いつも温かい応援をありがとうございます!

前回は、フルメンバーで椅子を並べて特製タルトを賑やかに味わう幸せな時間から一転、手元にある不思議な本から「これではない」と冷酷に否定されてしまう衝撃の引きでした。


今回は、本に否定されてショックを受ける萌ちゃんを、公爵家のみんなが全力で慰め、寄り添ってくれます。

やんちゃなライダ兄様やみちゃーれの猛反発、お上品なお母様の優しい抱擁。

そしてジント様と共に本を見つめる中で、萌ちゃんは前世のある「切なくも愛おしい記憶」を思い出します。

お母さんがまだ優しかった頃の、あの特別な味。物語の核心へと迫る感動の伏線回収回を、どうぞ最後までお楽しみください!


『――否。これではない。求めているものは、これではない』





 不思議な本のページに冷酷に刻まれたその文字を見つめたまま、キッチンは

凍りついたような静寂に包まれていた。





 あんなにみんなで試行錯誤して、前世のあのカスタードタルトの味を完璧に

再現できたはずなのに。





(嘘……でしょ? せっかくみんなが私のために、粉まみれになって作ってくれたのに……ダメだったの……?)





 あまりのショックに、私のお耳は

へにゃりと力なく垂れ下がり、視界が

涙でじんわりと滲んでいく。





「おい、ふざけんなよ! この嫌がらせ本が!」





 静寂を破ったのは、ライダ兄様

だった。




やんちゃな瞳に怒りを宿し、机をバンと叩いて身を乗り出す。





「萌があんなに喜んで、俺たちだってひっくり返るほど美味かったんだぞ! 何が『これではない』だ! 贅沢言ってんじゃねえ!」






「そうだにゃ! 萌ちゃんが泣くほど美味しかったのに嘘にゃーー! この意地悪本、みちゃーれがバリバリに引っ掻いてやるにゃ!」






 みちゃーれも毛を逆立てて、本に向かってにゃあにゃあと大抗議の声をあげる。





「まぁまぁ、ライダもみちゃーれも落ち着きなさいな。


でも、本当に不思議ですわね……。


これほど優しくて格式高いお味が正解ではないなんて。この本は、私たちの可愛い萌ちゃんをいじめる意地悪さんなのかしら?」





 お母様が上品に困り顔を浮かべながらも、そっと私を安心させるように、その白く温かい手で私の背中を優しく包み込んでくれた。





「落ち込まなくていいよ、萌。僕たちは何度でも君に付き合うからね。また新しい材料を試してみよう」





 アレク兄様も、どこまでも穏やかな微笑みを浮かべて私の頭を優しく撫でてくれる。みんなが私のために、本に対して怒り、優しく寄り添ってくれている。





その温かさに、胸の奥がキュッと締め付けられた。





「……いや、待ってくれ。みんな、少し冷静になろう」






 私を抱きしめたまま、ジント様が

真剣な面持ちで本の文字をじっと見つめていた。






金色の瞳を細め、何かを思案するように呟く。





「萌。さっき僕たちの精神を繋いで共有してくれた記憶のタルトは……君が仕事帰りに自分へのご褒美に買ったというちょっと洋酒の香りがする、洗練された大人のタルトだったね?」






 私はジント様の胸元で、コクンと小さくお耳を揺らした。





そう、前世のOL時代、疲れ果てた私を癒やしてくれた、あの有名デパ地下の高級なタルトの記憶だ。





「でも、おかしいなと思ってね。萌、この本の性質をもう一度思い出してほしいんだ」





 ジント様の言葉に、私はハッとした。





(え……? 本の性質……?)





 思考を必死に過去へと巡らせる。






この世界でうさぎの姿になって、この

不思議な本と出会ったばかりの頃

ジント様たちがこの本の解読を進める

中で、確かに言っていたはずだ。





『この魔導書に刻まれているのは、萌の前世の、子供の頃に関することだ』

――って。






(あ……!! そうだった……!!)






 頭の中に、雷が落ちたような衝撃が

走った。





 私の真っ白なお耳が、ピきンと音を立てるようにして直立する。






(もしかして、大人の私じゃなくて、子どもの頃に関する本なんだ……!

たしかに言ってた、前世の子どもの頃に関することだって!)





 私が本当に求めていた

『カスタードタルトの味』。




それは、大人になってからお金を払って買った、あの綺麗で完璧なデパ地下の味じゃなかった。






 本が求めている本当の正解。

それは、私の記憶のずっと奥底にある

まだ小さかった頃の……お母さんの

思い出。






 脳裏に、前世の古い記憶が、せつない光と共に鮮明に蘇ってきた。





 後にお母さんは、なぜか私のことを完全に無視するようになってしまった

けれど。





私を拒絶し、まるで存在しないかのように冷たい目を向けるようになってしまったけれど。






 でも、もっとずっと昔。




まだお母さんが私のことをちゃんと見てくれていて、すごく優しかった頃。






 私のお誕生日に、お母さんが

「おめでとう」って笑いながら、不器用な手つきで一生懸命に焼いてくれた

手作りのいちごタルト。






 カスタードクリームは少しダマが

あって、生地も不揃いだった。





けれど、確かにお母さんの温もりがあって、私が世界で一番愛されていると感じられた、あの子供時代の味。





「ぷう……っ、ぷうぅ……!」





 私はジント様の胸元から顔を出し

机の上の本を真っ直ぐに見つめた。






(私、間違えてた……! 本が求めているのは、あのデパ地下の高価な味

じゃない。


お母さんが無視するようになる前の……まだ私に優しかった頃に作ってくれた

あの子供時代の思い出の味なんだ……!)






 悲しい記憶の奥に隠されていた

一番きれいで、一番恋しかった温かい時間。





本が求めていたのは、その味の奥にある『優しかった頃の記憶』そのものだったのだ。






「萌、何かに気づいたんだね?」




 ジント様が私の目を見て、すべてを

察したように優しく微笑んだ。





お父様やお母様、お兄様たちも、私の表情の変化を見て、再び力強く頷いてくれる。






 本当の正解は見えた。前世で失われてしまったお母さんの温もりを、今度は

この世界の大好きなみんなの手で

再現する、公爵家の新たなる挑戦が始まろうとしていた。

(つづく)


第127話をお読みいただきありがとうございました!

本に否定されてショックを受ける萌ちゃんでしたが

ライダ兄様やみちゃーれが本気で怒ってくれたり、

お母様やアレク兄様が優しく包み込んでくれたりと

今の家族の深い愛に胸が熱くなりました。


そして明かされる、切なすぎる前世の記憶……。


この本が求めているのは、大人のOL時代の味ではなく

萌ちゃんの前世のお母さんが

「まだ無視する前の、優しかった頃」にお誕生日に

作ってくれた、あの温かい手作りタルトの味だったの

ですね。


お母さんが変わってしまったからこそ、萌ちゃんに

とってその優しかった頃の味が、ずっと心の奥で一番恋しかったものだったのだと思うと、涙が止まりません。



「前世のお母さんとの思い出が切なすぎて目頭が

熱くなった」

「今世の家族みんなで、萌ちゃんのその思い出を幸せに上書きしてあげてほしい!」と思ってくださったら

ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で

萌ちゃんたちのこれからの挑戦を応援していただけると嬉しいです!

次回の第128話では、その「優しかった頃の少し不器用な手作りの味」を再現するために、公爵家のみんなが新たなタルト作りに挑みます。どうぞお楽しみに!


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