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『第119話:【番外編】国一番の医師団、扉の向こうのカオスに咽び泣く』

いつも応援ありがとうございます!

前話のラスト、萌ちゃんの色のない瞳を診るために

ついに部屋へと到着した国一番の医師団と高位魔術師長。

今回の第119話は、そんな彼らの視点から描かれる

【番外編】をお届けします!

正直、道中は「貴族は大袈裟(おおげさ)だなぁ」

なんてちょっとだるそうに思っていたお医者様たちですが……

扉を開けた瞬間に、国家転覆レベルのカオス空間と遭遇することになります。初対面となるうさぎ姿の萌ちゃんと、お医者様たちの気になるリアクションは……!?

いつもと少し違う角度からのドタバタ劇を、ぜひお楽しみください!

(はぁ……。これだから高貴な貴族様

というのは困るどうせいつもの『大袈裟(おおげさ)』な騒ぎだろうに)



我がエヴァーガルド公爵家お抱えの医師団、そして魔術師ギルドの頂点に立つ高位魔術師長である私(エルハルト)は

廊下を小走りになりながら、内心で深いため息をついていた。



数分前、公爵閣下から「至急、国一番の医者と魔術師を集めろ! 萌の瞳から色彩が消えた!」という、まさに天変地異が起きたかのような緊急招集がかかった

のだ。




だが、向かう道中、私と筆頭医師は

「またか」と、ちょっとだるい気持ちでアイコンタクトを交わしていた。



生まれたばかりの公爵令嬢である

『萌お嬢様』。




私たちはまだそのお姿を拝見したこと

すらお見かけしたこともない。




貴族という生き物は、少し熱が出ただけで国が滅びるかのように騒ぎ立て

ちょっとかすり傷を負っただけで

「もうおしまいだ!」と大騒ぎするのが常だ。



今回も、どうせその幼いお嬢様が

「ちょっと目がかすむ」と言った程度で、親バカな閣下が狼狽(ろうばい)

しているだけだろう――。そう高を括

(くく)りながら、私たちは一応

プロとしての真面目な顔を作って萌

お嬢様の部屋の前へと到着した。




執事の声が響き、扉が恭しく開け放たれる。




「失礼いたします。公爵閣下、お呼びに預かりました、国一番の医師団と、高位魔術師長を連れてまいりました!」




その声を合図に、私たちは室内へと踏み込んだ。




どうせ大したことはないだろうが

大袈裟な貴族様たちを適当になだめて

早く自分の研究室に戻ろう。




……そんな不敬なことを考えていた

私たちの足が、同時にピタリと止まった。




「うわ、うっそだろ……! 全然手応えがねえ……! クソ、俺の魔法じゃページが1ミリも動かねえよっ!」




「……ダメだな。力ずくでも、魔法

でも、文字通りビクともしない」




部屋に入った瞬間、私たちの目に飛び込んできたのは、およそ国家の最高権力者たる公爵家の寝室とは思えない、あまりにもシュールでカオスな光景だった。




ベッドの上には、この国の宝であり

次期公爵であるアレク大公子殿下

ライダ大公子殿下、そして若き天才魔術師として名高いジント様が揃っていた。




全員が、呪いが解けて見事な大人の

イケメン姿に戻っている。




そこまでは素晴らしい。





万々歳だ。





だが、問題はその頭上だった。





アレク殿下の頭には真っ白で長いウサギ耳が。




ライダ殿下の頭には愛らしいフサフサの犬耳が。





ジント様の頭には精悍で孤高なる狼の

耳が。




それが、大人の完璧な美貌を持つ彼らの頭から、当然の権利のようにピンと生えていた。





しかも、そのケモ耳イケメン3人が

ベッドの真ん中に鎮座する一冊の、妙にファンシーな『ピンク色の本』を囲み

揃ってガクリと膝をついて撃沈しているのだ。




ライダ殿下の犬耳にいたっては、絶望のあまり『しょしょぼん』とこれ以上ないほど垂れ下がっている。




(な、なんだこれは……。大袈裟どころか、国家転覆レベルの怪事件ではないか……!?)





私を筆頭に、後ろに続く医師団の動きが完全に石化(フリーズ)した。





あまりのカオスに脳の処理が追いつか

ない。



さっきまで「だるいな」なんて思っていた自分を全力で殴り飛ばしたい。




国最高峰の頭脳たちが、一斉に思考停止に陥った瞬間だった。





「おお、エルハルト! よく来てくれた!」





そんな私たちのフリーズっぷりに気づく様子もなく、お父様――公爵閣下が涙目で駆け寄ってきた。




「すぐに萌を診てやってくれ! レシピ本が鉄板のようになって開かないのだ!

お兄ちゃんたちの魔法も通用せん!」





「は、はあ……。レシピ本、でございますか……?」





私は引きつった笑みを浮かべながら

必死にプロのポーカーフェイスを維持しようと胃を痛めた。




公爵閣下、大変申し上げにくいの

ですが、レシピ本が開かないこと

よりも、目の前の国家最高峰のイケメンたちが頭からケモ耳を生やしてベッドで灰になっていることの方が、医療の現場としては大事件だと思うのですが。




しかし、公爵閣下の視線の先、ベッドの真ん中を見て、私は思わず息を呑んだ。





そこにいたのは、信じられないほど愛らしい、もふもふとした純白の小さな子

ウサギだった。




そのウサギが、ちょこんとベッドの上に座り、にじ色だったはずの瞳を

「無色透明の硝子」のように変えて

私たちをじっと見つめていたのだ。




(――あ、あれが萌お嬢様……!? 人間ではなく、ウサギの姿をしておられるのか……!?)




その瞳を見た瞬間、私の魔術師としての本能が警鐘を鳴らした。





大袈裟などでは決してない。





あれは、今世の強大な魔力の氾濫。





そして彼女の心に暗い影を落とす、魂の奥底にある【解けぬ心の傷】が共鳴して引き起こしている、極めて深刻な拒絶反応だ。





小さな体で、一体どれほどの痛みを抱えておられるのか。




胸が締め付けられるような切なさを覚えた、その時だった。





私たちが深刻な表情で見つめていることに気づいたのか、子ウサギ姿の萌お嬢様が、ベッドの上でちんまりと立ち上がった。





そして、トコトコと短い足でベッドの端まで歩いてくると、なんと初対面の私に向かって、小さな白い前足を

『きゅきゅっ、きゅきゅっ』と交互に

動かし、おねだりするように私のローブの袖をカリカリと引っ掻いてきたのだ。





さらに、長いお耳をぱたぱたと左右に

揺らし、無色の瞳を潤ませて、首を少し傾げて私をじーっと見つめてくる。




(ぶっ……!?!?)




私の隣にいた筆頭医師が、あまりの破壊力に胸を押さえてガタガタと震えだした。





な、何だこのお労しや、いや、圧倒的な愛らしさは……! さっきまで

「会ったこともない赤ん坊の病気なんて、貴族は大袈裟だな」だなんて思っていた不敬な自分を、今すぐこの場で極刑に処してほしい。





初対面の、それも人間の言葉を話せないウサギの姿をした萌お嬢様は

「白髪のおじいちゃん、走ってきてくれてありがとう。私は大丈夫だから心配しないで?」と、見ず知らずの私を

気遣ってくれているのだ!




「ぐはっ……! 萌ちゃんの

『おねだりカリカリ・お医者様

バージョン』……! くそ、羨ましすぎるぞエルハルト……っ!」





ライダ殿下が犬耳をピンと直立させ

血の涙を流さんばかりの形相で私を睨みつけている。




ジント様も狼耳を激しくピクピクと動かし、アレク殿下に至ってはウサギ耳を

震わせながら「ずるい……。俺の時よりあざとい……」と床を叩いていた。





(静粛にされよ、大公子殿下たち!

私は今、プロとして、必死に鼻血が出そうになるのを耐えているのです……っ!)





私は精神力で理性を保ち、震える手で

萌お嬢様をそっと診察した。





お嬢様の小さな体に触れた瞬間、彼女の背中にある蝶の紋章と、ベッドの上の

『ピンクの本』が、私の魔力に反応して微かに共鳴した。





「……公爵閣下。萌お嬢様の瞳の異変

そしてお兄様方のその……大変愛らしいお耳のバグ。これは間違いなく、お嬢様の魂の深淵にある傷が引き起こしている異変でございます」




私は居住まいを正し、真剣な面持ちで

告げた。





「解けぬ心の傷。そして、その解決の

鍵を握るあのレシピ本。


あれは魔力を吸い込むのではなく

支払うべき【対価】を待っている状態。


力ずくでは絶対に開きませぬ。


開くことができるのは、他でもない――」




私は、私の袖を健気に握りしめている

無色の瞳をした小さな天使を見つめた。




「萌お嬢様、ご自身の『ある行動』だけでございます」




だるそうにやってきたお医者様たちの

初対面からのフリーズと一瞬の陥落

(かんらく)。



しかし、プロの眼光が、頑固なピンクの本をこじ開けるための、本当の最初の

一歩を見つけ出そうとしていた。

第119話をお読みいただきありがとうございました!

だるそうにやってきたはずの魔術師長エルハルト様ですが、萌ちゃんの「おねだりカリカリ・お医者様バージョン」の破壊力の前に、一瞬で「自分を極刑に処して

ほしい」と心の中で土下座するほどオチてしまいました(笑)。

萌ちゃん、初対面のおじいちゃんドクター相手にも

あざと可愛さが大爆発しています!

ですが、そこはさすが国一番のプロ。

お兄ちゃんたちのケモ耳姿に胃を痛めつつも、あの鉄板化したピンクの本を開くには「萌ちゃん自身の、ある行動」が必要だという超重要な手がかりを見つけてくれました!

一体、萌ちゃんがどんな行動をすれば、あの頑固な本が開くのでしょうか……?

「お医者様、一瞬でチョロくなってて笑った!」

「萌ちゃんのカリカリは誰にでも有効すぎる!」

と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】や

【評価(★★★★★)】で応援していただけると、

もふもふ執筆の大きな励みになります!次回の第120話も番外編となります。どうぞお楽しみに!

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