第115話『私の背中がピカピカ光ってる件。これって魔力上げの成果、それとも次のバグの予兆ですか!?』
いつもお読みいただきありがとうございます!
宿屋でのバグ修正に失敗し、今日もドレス姿のまま過ごすことになってしまったジント様たち。
ドタバタな一日が終わり、みんなが寝静まった深夜。
萌ちゃんは鏡の前で、自分の体に起きた
「ある神秘的な異変」に気がつきます。
そして鏡の奥から現れたのは、前世の、ちいさな頃の
自分。
今まで語られることのなかった萌ちゃんの前世の過酷な記憶と、現在の温かい愛に満ちた世界が交錯する、衝撃の第115話です。どうぞお楽しみください。
(……えっ……!? これ、一体……
なんなの……っ!?)
月明かりだけが静かに差し込む深夜の宿屋の部屋。
壁に掛けられた大きな姿見(鏡)の前で、私(白うさぎ)は自分の姿を凝視
したまま完全に凍りついていた。
昼間は市場での食べ歩きや、まさかのお父様とお母様とのばったり遭遇イベントなど、あまりにもドタバタしていて
自分の姿をゆっくり見る暇さえなかったのだけれど、改めて夜中に一人で鏡の前に立ってみて、私は息を呑んだ。
鏡の中に映る私は、真っ白でふわふわ
なうさぎ。
それはいつも通り。
だけど、何かが決定的に違っていた。
普段の私のうさぎの瞳は、普通の動物と同じ綺麗な瞳だったはずなのに、鏡の中に映る私の瞳は、まるで最高級の宝石を万華鏡のように散りばめたかのように
神秘的な『虹色』にキラキラと輝いているのだ。
(瞳が、虹色……!? なにこれ、めちゃくちゃ綺麗だけど……完全に普通のうさぎじゃなくなってるじゃないのぉぉぉ!)
それだけではなかった。
私がさらに驚愕したのは、鏡に映った
自分の背中側だった。
昼間に市場で『キラキラ』の魔力を
触って吸収したせいなのか、それとも
お父様の放った魔法とお屋敷の魔力が
混ざり合って化学反応を起こした影響なのか。
私の真っ白で丸い背中のあたりが
淡く、けれど確かな光の粒子を放ちながら、美しく輝く『蝶々模様』を描いて
ピカピカと点滅していたのである。
(背中に光る蝶々模様……。綺麗だけど、次は私の体に何かとんでもないバグが発生する予兆なんじゃあないでしょうね……)
私が鏡の前でうさぎの耳をバタバタさせて混乱していると、ふいに、鏡の奥の景色が水面のようにぐにゃりと歪んだ。
月明かりが反射して白く光る鏡の向こう側から、トトト、と小さな、裸足の足音が響いてくる。
そして、暗闇の中からスッと姿を現したのは――ボロボロのちいさな服を着て
体中を小さく震わせながら、泣き出し
そうな目でこちらを見つめる、前世
(過去)の、子どもの頃の私自身の姿だった。
「……いいなぁ。今の、あなた」
鏡の中のちいさな過去の自分が、自分の細い腕をぎゅっと抱きしめて、ひどく
冷たく、悲しそうな目で私を睨みつけてきた。
その瞳から溢れていたのは、これまで
この異世界で過ごしてきたのほほんな
空気とは全く違う、暗く重い感情。
それは、激しい『嫉妬』、そして堪えきれないほどの寂しさだった。
「なんであなたばかり、そんなにみんなに愛されているの?
お兄ちゃんたちやジント様は、どんな
姿になってもあなたを一番に守って
くれて……おまけに
お父さんやお母さんまで、お屋敷から
心配してすぐに追いかけてきてくれる
なんて……」
鏡の向こうのちいさな私は、ポロポロと大粒の涙をこぼしながら、胸をかきむしるように言葉を絞り出した。
「忘れたの……? 本当のお母さんから
毎日まいにち、理由もなく叩かれて
冷たい床にずっと放置されて、誰も助けてくれなかったこと……。
愛されたいって、お母さんって、どんなに大声で泣いても、誰も抱きしめてくれなかったじゃない……っ!
なのに、どうして今のあなただけ
そんなに温かいお家で、みんなに優しくされて、いっぱーい愛されてるのよぉ……!」
それは、私の胸の奥深くにずっと鍵を
かけて閉じ込めていた、前世の過酷な
記憶だった。
今、目の前にある温かい家族の愛を
かつての私は何一つ知らなかった。
傷だらけで泣いていた過去の自分の
あまりにも重く、悲しい叫び。
(あ……あ、あ……っ……)
大人としての理性が、必死に頭を働かせようとする。
大人の言葉で何かを言い返そうとした。
「辛かったよね、でもあなたが生き抜いてくれたから今の私がいるんだよ」
と、感謝を伝えようとした。
だけど――ちいさな過去の自分が抱える圧倒的な孤独の暗闇と、向けられた生々しい嫉妬の重さに、私の心は完全に
キャパシティをオーバーしてしまった。
前世で受けていた理不尽な扱い、
冷たい部屋の空気、助けを求めても誰も来なかった絶望。
それらのトラウマが一気に脳裏に
フラッシュバックして、うさぎのちいさな体がガタガタと激しく震え出す。
(――ごめんなさい、私、ごめんなさい……っ!!)
これ以上、鏡の中の自分を見つめ続けることに耐えきれなくなった。
大人の心を持ってしても、その悲しみを受け止めるには、今の私のうさぎの体はあまりにも脆すぎた。
私は鏡の向こうの自分から、恐怖と
ショックのあまり思わず全力で逃げ出してしまった。
うさぎの短い足をこれ以上ないほど
バタバタと狂ったように動かし、鏡に
背を向けて猛ダッシュ(うさぎ跳び)でその場から逃走する。
ドタバタバタッと部屋の隅へ、まるで
何かに追われるようにベッドの下の暗闇へと滑り込み、ブルブルと長い耳を震わせてうずくまった。
ぎゅっと目を閉じても、鏡の中のちいさな私の涙と、背中に浮かび上がった
不気味に光る蝶々模様が脳裏に焼き付いて離れない。
静まり返った深夜の宿屋の部屋に
私の荒い鼻息だけが
虚しく響き続ける。
「みゃ~う(萌、夜中に一人でドタバタしてどうしたみゃお……夜更かしは美容の敵みゃおよ……)」
ベッドの足元で丸くなっていた猫の
みちゃーれが、私の異常な気配に気づいたのか、トコトコとベッドの下まで這い寄ってきて、私の震える体にそっと
身体をすり寄せてくれた。
みちゃーれの温もりに触れて、私は
ようやく少しだけ呼吸を取り戻す。
過去の自分からの痛切な叫びと、背中に芽生えたさらなる謎の異変。
自分の心と体に起きた予想外のダブル
パニックを抱えたまま、私は恐怖で目をパチクリさせることしかできず、この
まま最悪な気分で朝を迎えること――
いや、迎えざるを得ないのである。
――そして、運命の【日替わり変身
ループ・3日目の朝】が、容赦なく
やってくるのだった。
(第115話 終わり)
第115話をお読みいただきありがとうございました!
深夜の鏡の前で、萌ちゃんは神秘的な「虹色の瞳」と
「背中の光る蝶々模様」の異変に気づきます。
そして現れたのは、前世の、子どもの頃の傷だらけの
自分でした。
お母さんから酷い扱いを受け、愛されなくて寂しくて
泣いていた過去の自分が、現在の温かい愛に満ちた世界に嫉妬して涙を流すシーンでした。
現在の萌ちゃんは大人の心で受け止めようとしたものの、過去の自分がぶつけてきたトラウマと寂しさの重さに耐えかねて、思わずうさぎ姿で全力で鏡から逃げ出してしまうという緊プレ感のあるラストでした。
ただの感動話で終わらせず、萌ちゃんが
「思わず逃げ出してしまう」というリアルな葛藤を入れることで、次回への引きがこれ以上ないほど強くなりました!
萌ちゃんの心がどう救われていくのか、今後の展開に
ご期待ください。
「過去の自分の言葉が切なすぎる……」
「ここから萌ちゃんはどう向き合うの!?」
「3日目の朝はどうなっちゃうの!?」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや評価の【☆☆☆☆☆】で
応援していただけると、萌ちゃんが過去の自分と向き合う大きなエネルギーになります!
次回、運命の【日替わり変身ループ3日目の朝】へ
突入!お楽しみに!




