第104話:光る本に共鳴を高める萌……と思いきや、簡単には事が進まないトラブル発生!?
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回、頑固なドワーフの骨董品屋店長と
【スイーツ対決】をすることになった萌。
前世パティシエの知識をフルに活かし、その場にある
材料で作り上げた特製フレンチトーストで見事に勝利を収めました!
約束通り、ピンク色に光る謎の黒い本を譲り受けることになったのですが……。いよいよ本の封印に触れる第104話、どうぞお楽しみください!
「ばぶぅ!(ありがとう!)」
私がその真っ黒い本に小さなおててで触れた、その瞬間。
黒ずんでいたはずの古い本が、眩い
ピンク色の光を放ち始め、私の胸の奥の魔力と激しく共鳴を起こした。
ピカァァァァッ!!!
「うわぁ…!?」
ライダにい様はあまりの眩しさに、手で目を覆って光を遮ろうとしていた。
「……!?」
アレクにい様は持ち前の天才的な判断力でとっさに魔法陣を展開し、みんなの前に周囲を包み込むような頑丈な防護
バリアを張り巡らせていた。
「萌ちゃん一体何が起ころうとしてるんだろう、光自体には萌ちゃんに害はなさそうだけど…」
ジント様は視界を白く染めるほどの眩しい光の中、それをもろともせずに鋭い目つきで状況を観察しながら、私の体を
しっかりと抱きすくめて見守ってくれていた。
(わわっ、私の魔力がどんどん本に吸い込まれていく……! でも、全然嫌な感じじゃない。むしろ、懐かしいお菓子の
匂さに包まれてるみたいで、すっごく
気持ちいい……!)
ドクン、ドクン、と私の胸の奥で、前世から持ち込んだパティシエの魔力が
ドクドクと波打っている。
――元々は赤ん坊じゃなくて、4歳くらいだった私。だけど、前の戦闘で魔力を使い切ってしまい、こんな風に赤ん坊の姿まで縮んでしまったのだ。
(間違いない……。この本なら、私を
元の姿に戻してくれるはず……!)
パキパキパキ……ッ!
心地よい音を立てて、本の表面を覆っていた真っ黒い煤のような呪いの封印が
光の粒子となってハラハラと剥がれ落ちていく。
光が最高潮に達し、私の魔力との共鳴が完全に高まった――その瞬間だった。
ピキィィィィンッ……!!
「ぶぶっ!?(えっ!?)」
脳内に響き渡ったのは、ガラスがひび割れるような、冷たくて不穏な警告音。
せっかく綺麗に剥がれ落ちかけていた光の粒子が、まるで磁石に引き寄せられるように、再び本の表面へとしがみつき
始めたのだ。
それどころか、本から噴き出したのは
私のピンク色の魔力とは真逆の、ドロドロとした赤黒い鎖の幻影だった。
鎖はジャラジャラと嫌な音を立てて
本を何重にも縛り付けていく。
「な、なんだこれは……!? 封印が
拒絶反応を起こしている……!?」
地面にひざまずいたままのドワーフの店主が、顔を真っ青にしてガタガタと震え出した。
「……マズいね。この魔導書、二重の
封印がかかっている。
最初の『菓子作りの魂』という条件は
萌ちゃんがクリアしたけれど
もう一つの
『強力な負の呪い』が、本が開かれるのを拒んでいるんだ」
アレクにい様が即座に解呪の魔法陣を重ねようとするが、呪いの力が強すぎて
魔法陣がパリンと割れてしまう。
「チッ、ただのボロ本じゃねぇと思ってたが、呪いのアイテムじゃねえか!
萌、危ねぇからその本を離すんだ!」
ライダにい様が愛剣を引き抜き、私を
守るように前に出る。
だけど、私のちっちゃなおてては、まるで強力な接着剤でくっついてしまった
みたいに、本からどうしても離れなくなっていた。
(う、動かない……! それに、私の中のパティシエの魔力が、この赤黒い呪いの鎖にどんどん吸い取られてる……っ!)
――元々、魔力が空っぽだからこそ
赤ん坊の姿に退行している私の身体。
今だって生きているのが不思議なほど
魔力は底をつきかけているのに、これ
以上吸い取られたら、待っているのは――『死』だ。
呼吸が急激に浅くなり、視界がぐにゃりと歪む。
心臓がバクバクと壊れたように脈打ち
指先から血の気が引いていくのが分かった。
(あ、あたまが、ぼーっとする……息が、できない……っ)
「萌ちゃん! 萌ちゃん!!」
ジント様が血相を変えて私を強く抱きしめるが、触れているジント様にまで赤黒い火花が飛び散り、ジント様が
「くっ……!」と苦悶の表情を浮かべる。
「ジント様! 萌ちゃんから離れて……
いや、萌ちゃんの手が本から離れないんだ!」
「おいアレク、何とかしろ! 萌の顔が
真っ白だぞ! 呼吸が止まりかけてる!!」
ライダにい様とアレクにい様の、聞いたこともないような焦燥と絶望の叫び声が、遠くの方で聞こえる。
(ど、どうしよう……本当に、死んじゃう……っ!)
意識が闇に落ちかけ、パニックになりかけた私の頭の上で、ずっと静観していたみちゃーれが、突然「ふにゃーっ!!」と鋭く鳴いた。
みちゃーれは私の頭から飛び降りると
短い前足で、私のポケットに入っていた『木苺のマカロンクリームの残り』が
入った小瓶を叩き割ったのだ。
とろ〜りと溢れ出る、甘酸っぱくて濃厚なピンク色のクリーム。
みちゃーれはそれを前足につけると
本の表紙に巻き付く赤黒い鎖に向かって、ペタッと塗りつけた。
「みゃあー!(萌、お菓子の力で呪いを中和するにゃ!)」
(――そっか……!)
薄れゆく意識の奥で、前世の知識が
パッと閃いた。
この赤黒い呪いは、ドロドロとした怨念や「負の感情」の塊だ。
だったら、それを包み込んで溶かすのは、人を幸せにする「極上の甘み」しかない!
「ば、ばぶぅ……ッ!(お菓子は……
みんなを、笑顔にするものなんだからーーーっ!)」
私は消えかける命の灯火を燃やし、最後の気力を振り絞って、みちゃーれが
塗ってくれたマカロンクリームに
「お菓子への愛」を限界まで流し込んだ。
じゅわあああ……ッ!!!
不思議なことに、本に触れたクリームが、まるで強力な酸のように赤黒い鎖をジュージューと溶かし始めたのだ。
路地裏に、お砂糖が焦げるような
だけど最高に甘くて香ばしい香りが爆発的に広がる。
「な、何が起きているんだ……? 呪いの魔力が、お菓子の匂いに負けて消えていく……!?」
ライダにい様が唖然と呟く。
パキィィィン……ガラガラガラッ!
ついに、本を縛り付けていた赤黒い鎖が完全に砕け散った。
それと同時に、私の手も本から離れ
限界をとうに超えていた私はジント様の腕の中で「ふにゃぁ……」と完全に脱力した。
「萌ちゃん! よく頑張ったね、もう
大丈夫だよ。……私の魔力を使い
なさい」
ジント様の優しい声と共に、温かくて
膨大な魔力が私の身体に流れ込んでくる。
底をついていた私の命の器がじわじわと満たされ、体からスッと痛みが引いていった。
気がつくと、私の胸の中には、赤黒い呪いが完全に消え去り、絞りたての
生クリームのように真っ白でふわふわな表紙の、とっても可愛い魔導書が残されていた。
中央には、金色の糸で刺繍された大きなイチゴがキラキラと輝いている。
(はぁ……、本当に死ぬかと思った……。簡単には事が進まないなぁ……)
ジント様に命を救われ、なんとか手に
入れた本をそっとため息混じりにめくった。
その瞬間、私の脳内に、きらきらとした文字が直接流れ込んでくる。
『本書は、かつて世界を癒やしたとされる伝説の【幻のお菓子魔法】の失われた魔導書で
ある。
失われた魔力を極限まで高め、肉体の時間を最適化する【至高の若返り
(元に戻る)スイーツ】のレシピを
ここに記す――』
(あった……!!! これがあれば、私、元の4歳の姿に戻れる……!)
嬉しさのあまり、私の目からポロポロと涙が溢れそうになる。
早くこのお菓子を作って、4歳の姿に
戻りたい!
……そう思ったのも束の間トラブルは
これだけで終わりではなかった。
「お、おい……アレク、ジント様……。
上を見ろよ……」ライダにい様が、引きつった声で上空を指さした。
見上げると、さっきの光と、呪いが溶けたときに出た『規格外の甘い香りの魔力』が路地裏の空高くへと立ち上り
街の結界を突き抜けて、遠くの空に巨大な「ピンク色の雲」を作り出してしまっていた。
アレクにい様が、額に手を当てて絶望的なため息をつく。
「……マズいね。これだけの魔力の奔流だ。この街にいる高レベルの魔導士や、王国の騎士団に……萌ちゃんの存在が
完全にバレてしまったかもしれないよ」
「えぇ……っ!?」と言いたかったけれど、「ばぶぅ!?」としか声が出ない。
せっかく4歳の姿に戻る手がかりを見つけたのに、自由気ままなスローライフを送るつつが、初っ端から大騒動の予感しかしないのだった――。
(第104話 完)
第104話をお読みいただきありがとうございました!
無事に元の「4歳」の姿に戻るためのレシピが見つかったものの、魔力が空っぽの萌ちゃんにとっては本当に
命がけの瞬間でした……!
ジント様の素早い魔力供給がなかったら危なかったですね(お兄ちゃんたちも大パニック)。
しかし、最後に空に浮かび上がってしまった巨大な
「ピンク色の雲」……。
せっかく手がかりを掴んだのに、さっそく大騒動の予感です。
次回、第105話は「この大ピンチからお兄ちゃんたちが どう切り抜けるのか!?」をお届けする予定です。
お楽しみに!【読者のみなさまへのお願い】
「萌ちゃん頑張った……!」「ジント様ナイス判断!」
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