『第98話 マカロナージュと幻の焼き加減』
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前回、お兄ちゃんたちの規格外な材料調達を経て
ジント様の完璧なサポートにより極上のメレンゲが完成した萌のマカロン作り。
第98話では、いいところをジント様に持っていかれてしまったお兄ちゃんたちの、静かなる(?)逆襲から
スタートします!
悔しさのあまりジント様にメラメラと無言の視線を送るライダにい様とアレクにい様。そして、その視線に背筋を凍らせつつも、次なる難所『マカロナージュ
(混ぜ合わせ)』へと進むジント様と萌ちゃんですが……?
お兄ちゃんたちのリベンジの行方と、ついに訪れる
「幻の焼き加減」の瞬間をお楽しみください!
「どうかな、萌ちゃん。君の理想通りにできただろうか?」
ジント様が泡立て器を持ち上げると
そこにはピンと美しいツノが立っていた。
まさにレシピ通りの完璧なメレンゲ。
私が身を乗り出して
「あうー! ばぶばぶーっ!
(ジント様、すごーーい! 完璧!)」
と満面の笑みで拍手を送ると、ジント様は嬉しそうに目を細めた。
――だが、その光景を、とてつもなく
苦々しい表情で見つめる二人の男がいた。
「くっ、ジントの野郎、また美味しいところを綺麗に持っていきやがって……!」
「やはり手先の器用さだけは、あの男に一日の長があるということか……」
ライダにい様とアレクにい様は、子供のように不満げに口をとんがらせていた。
萌ちゃんに良いところを見せようと
片や自慢の怪力を限界まで絞り出し
片や天才的な頭脳で分子構造まで計算してメレンゲ作りに挑んだのだ。
それなのに、最終的にジント様にあっさりと完璧な形に仕上げられてしまったのが、よほど悔しかったらしい。
二人はジント様の背中に向けて
じーーーっと、目の奥をメラメラと執念の炎で燃やしながら凄まじい視線を送り始めた。
(次は……次の工程こそは、絶対に萌
ちゃんに『にい様すごーーい!』って言わせてみせる……!!)
という、執念のオーラがキッチンに渦巻いている。
「……っ!?」
その瞬間、大陸最強の魔法戦士でもあるジント様が、ピクッと肩を震わせて動きを止めた。
誰もいないはずの背後から、命を刈り取るかのような凄まじい殺気
(のようなもの)を感じて、背筋がゾワッと凍りついたのだ。
ジント様は恐る恐る後ろを振り返ったが、そこにはただ、口をとんがらせて
そっぽを向いているお兄ちゃんたちの
姿があるだけだった。
「……?? 気のせい、だろうか。一瞬、魔王軍の奇襲でも受けたかのような悪寒が走ったのだが……」
ジント様は不思議そうに首を傾げてパタパタと首を振ると、気を取り直して話を戻すように私へと微笑みかけた。
「よしっ、メレンゲも出来上がったけれど、次は何をするのかな? 萌ちゃん」
ジント様が優しく首を傾げて次にやる
ことを尋ねてくる。私はポシェット型の『マジカルカバン』から取り出した秘密のレシピノートを開き、大理石の作業台の上に並んだ材料を指差した。
ここからが、マカロン作りにおいて最も緊張する、そして最もセンスが問われる運命の作業――『マカロナージュ』だ。
ジント様が作ってくれた極上のメレンゲに、ライダにい様が台車いっぱい運んできた『星屑の白砂糖』と、アーモンドの粉を加えていく。
(メレンゲの泡を、あえて適度につぶして生地の固さを調節するんだ。
混ぜ足りないとボソボソになっちゃうし、混ぜすぎると生地がデロデロになって膨らまなくなっちゃう、超繊細な作業なんだよね)
赤ちゃんの手ではヘラを動かせない。
私が木製のヘラを持ち、ボウルの縁に
沿って「ぐる、ぐる、さっくり」と動かすジェスチャーをしてみせると
お兄ちゃんたちの目の色が変わった。
「おう、混ぜるんだな! 今度こそ俺の
完璧な力加減を見せてやるぜ!」
「お菓子作りは精密な魔力循環と同じ。今度こそ僕の緻密な計算で萌ちゃんを驚かせてみせるよ!」
目の奥をメラメラ燃やしたお兄ちゃん
たちの、リベンジマッチが始まった。
だが――やる気と結果が結びつかないのが、我が家のお兄ちゃんたちである。
最初に木べらを握ったライダにい様は
「優しく、すくい上げるように……
だな! せい、せい、せいやあああーーーッ!!」と、丸太のような腕をブンブンと振るった。
本人は「力加減・極小」のつもりらしいが、一回一回のパワーが強すぎて
ボウルの底から生地がダイナミックに
ひっくり返される。これでは泡が絶滅してしまう!
「ばぶぶーっ!?(それじゃあお餅つきになっちゃうーーっ! ストップ
ストップ!)」
私が慌てて止めたときには、生地が少しダレ始めてしまっていた。
次に交代したアレクにい様は、眼鏡を
キラーンと光らせて「サッ……、クルッ……、サッ……」と完璧な手つきで混ぜ始めた。
生地がリボン状に流れ落ちる理想の状態に近づき、私が目を輝かせると
アレクにい様は調子に乗ってしまった。
「ふはは、これぞ精密マカロナージュ術式! さらに完璧を目指して、あと百二十回ほど均一に――」
「ばぶばぶーーーっ!?(ダメダメ!
それ以上混ぜたらデロデロになっちゃうーーーっ!)」
私がズボンの裾を引っ張って止めたが
時すでに遅し。
結局、二人のお兄ちゃんたちの極端な
リベンジのせいで、生地は絶妙に硬い部分と柔らかい部分が混ざった不安定な
状態になってしまった。
「うう、どうしよう……」と私が困り果てていると、またしてもあの救世主が動いた。
「大丈夫だよ、萌ちゃん。二人が作ってくれたベースは素晴らしい。あとは私が仕上げよう」
ジント様がそっと木べらを引き継ぎ
まるで魔法のように生地を均一に馴染ませていく。
数回、優しく的確に混ぜ合わせると
生地が艶やかに、まるで滑らかな絹の
リボンのようにとろ〜りと流れ落ちた。
「あうーっ!(ジント様、やっぱり神様ーー!)」
私が大喜びでジント様に抱きつく
お兄ちゃんたちは「ぐぬぬ……!」
「またしてもジントに……!」と、さらに口をとんがらせて目の奥の炎を激しく燃え上がらせるのだった。
ここからはスピード勝負だ。
完成した生地が絞り袋に詰められ、鉄板の上にぷっくり、ぷっくりと驚くほど
均一な大きさに絞り出されていく。
数十分後、生地の表面が乾燥したのを
確認し、ライダにい様がオーブンの重い鉄の扉を開け、ジント様が天板を滑り込ませる。
アレクにい様がオーブンの魔導回路に
魔力を流し込み、温度を精密にコント
ロールし始めた。
じっと、みんなでオーブンの小さなガラス窓を覗き込む。
(膨らめ……綺麗に膨らめ……!)
焼き始めて数分。
ピンク色の丸い生地の底から、じわじわと泡が押し出されるようにして、独特の「ギザギザとしたふち(ピエ)」が
ぷっくりと膨らみ始めた。
(あ……! ピエができたーーーっ!!)
それと同時に、キッチンの隙間から
これまでこの世界の人々が誰も嗅いだことのない、もの凄く甘くて香ばしい極上の香りがふわぁぁぁ……と漂い出し
大台所全体を一瞬にして包み込んでいったのだった。
(第98話 完)
第98話をお読みいただき、ありがとうございました!
メレンゲ作りでいいところを持っていかれ、ジント様の背中にメラメラと凄まじい視線のレーザーを送るお兄ちゃんたち! 大陸最強のジント様が思わず「ゾワッ」と
背筋を凍らせるシーンは、お兄ちゃんたちの執念
(と萌ちゃんへの愛)が勝っていて最高にクスッとしてしまいましたね。
その後のマカロナージュでも、リベンジに燃えるあまり空回りしてやらかしてしまうお兄ちゃんたちと、やっぱり完璧にリカバリーしてしまうジント様の構図が
ますますお兄ちゃんたちの炎に油を注ぐ結果となってしまいました(笑)。
ですが、そんな賑やかなチームワークのおかげで
オーブンの中には最高に可愛いマカロンの「ピエ」が
完成!焼き上がる極上の甘い香りが、ついに調理場を飛び出し始めます。
次回第99話は、いよいよ記念すべき「完成・実食回」!焼き上がったマカロンを前にしたみんなの反応は?
そして、この香りに釣られてホテルの外まで大騒ぎに……!?
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