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白内障と緑内障の手術  作者: 夏目 碧央


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一文字違いの名前のせいで

 退院の日の朝が来た。こんなに左目が真っ赤で、ちゃんと今日退院できるのか、と少し不安ではある。今日の診察は8時半だと言われた。今回の入院は毎日8時半だったな。隣のおばあさんも8時半だと言われていた。

 やっぱり朝ごはんは8時15分に届いた。急いでかっこんだ。こういう時はスプーンだ。時々スプーンが出ても、ゆっくり食べた方がいいのと、大きなステンレスのスプーンは歯に当たると変に感じる事があるので、できるだけお箸で食べていたのだが、この最後の食事はその大きなスプーンでそぼろ系のおかずとご飯をガンガン口に放り込んだ。そうしたら7分くらいで食べ終わった。

 時間がなければ諦めたが、間に合いそうなので歯磨きをした。部屋の洗面台のところで歯を磨いていたら、看護師さんがおばあさんを呼びに来た。うそ、もう8時半?

「診察に行きましょう。まだ食事の途中だけど、キリの良い所で行きましょう。」

と言っている。私が急いで歯磨きを終わらせ、自分のベッドに戻るともう8時29分だった。おばあさんは既に促されて出ていたが、マスクをして部屋を出た私は、途中で追い抜いた。まあ、抜いても抜かなくてもいいのだが。

 診察室の外の椅子には多くの人が座っていたが、まだ名前を聞いて采配する人(多分学生さん)も来ていなかった。座って待っていると、私の手術をしてくれた女性の先生が颯爽と現れた。髪をなびかせ、白衣を翻して診察室へと入る先生は格好良かった。そして、一番に私の名前を、先生自ら呼んでくれた。なんか嬉しい。

 昨日は担当の先生だったので、術後、この手術をしてくれた教授に診てもらうのは初めてだった。

「痛みはありますか?」

と聞かれた。ないと答えつつ、ギュッと目をつぶると少し痛むなどと話した。そして、

「右の時よりも赤いですよね。」

と言ったら、

「今回、派手に出血してますね。でも、徐々に引いて行きますから大丈夫ですよ。」

と言われ、とても安心した。この先生、あんなにカッコいい登場の仕方をしたにも関わらず、顔をくしゃっとして笑ってくれる。本当に良い先生だ。

 眼圧は、左が11、右が22と言われた。うわ、だんだん上がっている。先生曰く、ステロイドの目薬をすると眼圧が上がってしまうのだそう。

「右は回数を減らしましたよね?」

と言われた。ステロイドというのがどの目薬の事か分からなかったが、手術後に点している目薬の事だろうと察した。そうか、右目は本来もっと早くに一日3回になっているはずが、ずっと6回だったから、それで特に眼圧が上がっているのだろう。そして、今後緑内障の目薬は、右目はグラナテック、左目はなしという事になった。私はちょっと不安になり、

「グラナテックだけで大丈夫でしょうか。」

と聞いてみた。先生は考えてくれた。私が、

「ミケルナは開けてないのが1本残ってるんですけど。」

と言ったら、ミケルナは手術の後にすると炎症を悪化させてしまうのだと言われた。それはダメだ。もう一つアイラミドを使っているので、それも右目に点すようにと言われた。一番辞めたい、ドロッとしていて目ヤニが出ているみたいに見えて気持ち悪いやつだ。でも、仕方がない。

 診察が終わり、部屋で看護師さんを待っていてくださいと言われて診察室を出た。廊下を歩いていると、

「夏目さん。」

と、呼び出しを行っている学生さんが私を呼んだ。まあ、私の本名は夏目ではなく、もっとよくある名前である。今回入院した時、別の患者さんで私と似ている名前の人がいるから、「フルネームで確認」と書いてある札をカーテンに下げられたのだ。私が仮に「なつめ あお」だとすると、別の部屋に「なつめ あか」という男性が入院していた。さっきも診察室に呼ばれているのを聞いた。だから、既に「なつめ あか」さんは診察室の中にいるのを知っていたので、今呼ばれた夏目は私だと思ったのだ。だから返事をして戻った。

「夏目ですけど。」

と言うと、学生さんはじっと手にしている紙を見ている。なので、

「夏目碧央ですけど、違いますか?」

と聞いたら、

「違いますね。」

と言われたので、部屋に戻ってきた。この学生さんは目の大きい男子。医学生なのだからとても頭はいいのだろうが、人の顔を覚えるのは苦手と思われる。毎日呼び出しをしているが、名前を聞いた患者かどうかを全然把握できていない。多分神経衰弱も苦手だろう。

 部屋に戻って退院の準備をしようと、ロッカーの中をゴソゴソやっていると、看護師さんが急ぎ目に入ってきて、

「夏目さん!」

とベッドのところへやってきた。私がロッカーのところから、

「はい。」

と返事をすると、

「○○先生の診察があるので、急ぎ診察室に戻ってください。」

と言われた。ん?その先生の名前には憶えがない。いや、ずっと前に緑内障の専門家だとか言って、手術をするかどうかを検討してもらった先生がそんな名前だったような。とにかくすぐに診察室へ戻った。

 またさっきの男子学生がいる。私が名前を言うと、さっき診てもらった先生の名前を言うから、その先生にはもう診てもらって、もう一人の先生の診察があると呼ばれたと言ったら、ああ、○○先生…と、私の担当の先生の名前を言った。確かにその担当の先生も診察室にいる。声が聞こえる。私は別の先生の名前を聞いた気がするけれど、気のせいかと思ってとにかく待っていた。

 いつも担当の先生が先で、その後手術をしてくれた教授に診てもらうという順番だったのに、逆はあるのだろうか。そんな風に思いながらも待っていた。が、後から来た人がどんどん呼ばれていく。私と同室の人で、9時15分と言われていた人がやってきた。なんかおかしい。そして、その9時15分の人が呼ばれた時、やっぱりおかしいと思った。呼び出しの学生さんに言った。

「あの、すぐに戻ってと言われて来たのに、しばらく呼ばれないんですけど。」

それと、○○先生の診察と言われたような気がするんですけど、と付け加えたら、

「○○先生はもう下に行ってしまったので、今日の診察はなしですね。」

と言われた。

「あ、今日退院なんですけど。」

と言うと、学生さんはえっ、と驚いた様子。

「○○先生は、担当の先生でもないし、手術をしてくださった先生でもないんですけど……。」

と言うと、学生さんは確認しますと言って引っ込んだ。

 少しして、学生さんが出てきた。

「こちらの手違いでした。」

やっぱり。学生さんはこちらをじっと見る。何というか……謝罪とかないんかい。まあ、最初にすみません、こちらの手違いでした、くらいは言ったかもしれない。だが普通、最後にちゃんと申し訳ありませんでした、とか、すみませんでしたとか、気持ちを込めて謝るでしょ。急いで来させてずっと待たせたのだから。自分は悪くないと思ってそういう態度にならないのだろうけれど、組織に属したら組織として謝る事をしないとね。大人としてアドバイスしたいけど、しなかった。ただ笑って戻ってきてしまった。

 やっぱり、あの「なつめ あか」さんと間違えられたのだろうね。急いでいたからフルネームの確認がおろそかになったのだろう。取り違え怖いね。病院ではしょっちゅう生年月日とフルネームを言わされるけど、取り違えを防ぐには必要だね。


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