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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●対策、しよう!

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第334話 最初から、言ってる




 あれから果たしてどれくらい時間が経っただろうか。


 薄暗いユアの実験室で、ファイはただひたすらに辛く苦しい時間を過ごしていた。


「はい、ファイちゃん様……。次はコレ、です……」


 薄着のユアが、全裸で寝台に寝転ぶファイの口へ向けて試験管を傾ける。


 ファイは知っている。この細長い瓶の中身が、魔獣由来の毒であることを。また、コレを飲めば、腹痛や頭痛、めまい……様々な不調が襲ってくることを。


 それでもファイは口を大きく開け、自ら毒液を迎え入れる。


「(ごくんっ)」

「えへへ♪ えらいですねぇ、ファイちゃん様~……♪」

「そんなこと、な……い……え、ぐ……っ!?」


 ユアの褒め言葉に反応しようとした矢先、さっそく焼けるような喉の痛みがファイを襲う。


 拒絶反応のまま思わずむせて液体を吐き出そうとするファイの口を、小さな手が無理やりふさいだ。


「もうっ! 吐いちゃダメだって、ファイ~。ほら、もう1回のみ込もうね~♪」

「あぐ……(ごくん……)」


 全裸で尻尾を揺らすムアを見ながら頷いたファイ。気合と根性だけで、毒液を飲み干す。


 寝台の上。全裸で大の字になるファイの目はうつろで、口の周りは吐しゃ物とよだれでベトベトだ。不調の真っ最中でもあるため、下着の代わりとして適当に巻かれた布も、血で汚れている。


 まさに満身創痍。それでもファイは、ユアの実験に付き合い続ける。他でもない、ニナのために。


「いま飲んだのが、紫飛竜(アズゲャバ)の毒……。そ、そしてコレが殺戮蛇(ルーシャー)系統の毒です。一噛みされれば、瞬く間に身体が麻痺。呼吸困難と心停止が起きます……。じゃあ、いきます……ね♪」


 今度はきちんと何が起きるのかを説明してから新たな毒をファイの口に流し込もうとしてくるユア。


(ユア、容赦ない……♪)


 相手を屈服させることを本能に宿すガルン人たち。可愛らしい外見ながらも“らしさ”を見せるユアの言動に、ファイの身体が歓喜で震える。


 ただ、それも束の間だ。名前からして物騒な魔獣の毒がファイの口に触れた瞬間、ファイの顎が動かなくなる。


「……あぇ?」


 もはや飲み込むという動作もできない。ただ液体がファイの喉を通り、勝手に意に流れ込んでいく。毒液が触れた部分が、即座に麻痺していっているのだ。


 当然、異物を排除しようとする身体本来の機能さえも、瞬く間に無効化されていく。


 これまで数十、数百種類と飲まされてきた毒では発生しなかった静かな異常が、ファイの身体を襲っていた。


「わふ。今回はファイが静かだ~……つまんない~!」


 毒を飲まされるたび、身体が跳ねたり、痙攣したり、嘔吐したり、幻覚を見たり、幻聴を聞いたり、過呼吸になったり。ありとあらゆる不調に見舞われてきたファイ。


 そうして暴れるファイをムアが腕力で押さえ込んできたわけだが、今回はそれがないために落胆しているらしい。


 だが、きちんと毒はファイを苦しめている。いや、苦しいという感覚さえない。視界は線を結ばず、薄暗いはずの部屋がやけに眩しい。また、ファイ本人は気づいていないが、彼女は完全に呼吸を忘れている。


 心臓も静かに動きを止め、指先・足先1つ動かせない。


 ――静かにファイは死に向かっていた。


 そんな彼女の様子に慌てず焦らず、ユアは細く柔らかい管を口にくわえて、近くに置いていた瓶の中身を吸い出す。


 そした、瓶の中身をある程度吸い出したところで、管の先端をファイの食道に差し込んだユア。嚥下機能が麻痺したファイの体内へ向けて、管の中に入った緑色の液体をゆっくり流し込んだ。


 すると、瞬く間にファイの身体機能は回復していき、


「げほっ!? けほっ……」


 ファイが死の淵からどうにか這い上がる。


「ファイちゃん様。ゆっくり深呼吸です、深呼吸……すぅ、はぁ……」

「げほ、けほ……すぅー……はぁー……」


 ユアに背中をさすられながら、深呼吸を繰り返すファイ。彼女の呼吸が整うまで、ユアはただただ心配そうに背中をさすってくれる。


(やっぱりユア、優しい……良い子)


 ユアの姿に目を細めたファイが、大丈夫であると伝えようとした矢先。




 鉄でできた重厚なユアの実験室の扉が、すさまじい音を立てて蹴破られた。




「あぅっ!」「「わふっ!」」


 音に敏感であるファイと、エシュラム家の姉妹。3人して耳をふさぐ中、薄暗い部屋に3つの人影が転がり込んでくる。


 そのうち、扉を蹴破ったと思われる少女――ニナが、真っ先に声を上げた。


「ファイさん! 大丈夫です……か……」


 言いながら、茶色い瞳でファイのことを見てくるニナ。


 そこで彼女が見ただろう光景は、寝台の上で全裸のファイと、彼女に群がる薄着のユアと、全裸のムアの姿だろう。


 一瞬、ニナが頬を紅潮させたことから、何らかの勘違いをしただろうことは想像に易い。


 ただ、その後すぐ。寝台の側に大量に転がっている空の試験管を認めたのだろう。改めてファイの身体――よだれと吐しゃ物にまみれ、ところどころに血や打ち身の痕がある――を見た瞬間、


「……許しませんわ」


 全身から怒気をにじませる。


 そして、扉が破壊された音でひるんでいる双子姉妹へと一足で接近するや否や、


「おすわり、ですわ」

「「きゃいんっ!?」」


 両者を研究室の床へと叩き伏せるのだった。


 そんなニナに続くように声を上げたのは、金色の髪を揺らすミーシャだ。


 獣人族で五感が人間族よりも優れている彼女だ。恐らくファイの行方不明を知り、匂いを頼りにここまでたどり着いたのだと思われた。


「ファイ、ファイ!? どこ!?」


 侍女服姿でせわしなく首を動かし、ファイの姿を探しているミーシャ。


 しかし、すぐに研究室内を満たす強烈な臭いに気が付いたらしい。うっ、と、声を漏らしながら、小ぶりな鼻を手で押さえる。


「なによ、この臭い……。あの陰険(ガルル)、どれだけお風呂入ってないのよ……にゃっ!?」

「ぜぇ、はぁ……ちょっと……待って、ニナちゃん、ミーシャちゃん……。ティオ、ティオ、死んじゃう~……」


 不機嫌そうに黒い尻尾を揺らしていたミーシャの細い腰に背後からしがみついたのは、汗だくのティオだ。彼女がニナやミーシャにファイの行方不明を伝えたことで、今回の救出劇が発生したのだと思われた。


「ちょっ、急に何よ、ティオ! 離れなさいってば!」

「むぅりぃ~。友達なんだし、ちょっとくらいティオの杖になってくれても良いじゃん~」

「は、はぁっ!? 別にアンタと、と、友達になんてなった覚えなんて無いんだけどっ!?」


 仲良さげに言い合う2人の童女の声とは対照的に、重く張り詰めた声で話すのはニナだ。


「さて、ユアさん、ムアさん。なにか弁解はございますか?」


 普段の人懐っこい言動は鳴りを潜め、エナリアに住むあらゆる生物を取りまとめる長としての表情を見せる。


 そんなニナの質問に対して、尻尾をぺたんとしながら答えたのはムアだ。


「わぅ~。ニナ~、ユアは悪くないから、叱るならムアだけにして~」


 自分が悪いのだとニナに主張し、罰を受けるのは自分だけで良いと声を上げる。


 だが、ニナはユアがファイで実験をしようとしていた過去を知っているし、足元には大量の試験管が転がっている。何よりここは、ユアの実験室だ。


 ユアとムア。どちらが主犯かなど、すぐに分かってしまうことだろう。


 手足をばたつかせるムアから視線を外したニナは、本命とばかりにユアに目を向ける。


「して、ユアさんは? 何か言い残すことはありますでしょうか?」

「くぅん……。ユアは……ユアはただ、ファイちゃん様のためを思って……し、しつけは嫌ですぅ~!」


 手足をばたつかせて脱出を試みているユアだが、それを許すニナではない。


「2人とも謝罪の言葉は無し、ですか……。残念ですわ。では――」

「待って、ニナ」


 やんちゃな双子姉妹を誅しようとしているらしいニナに待ったをかけたのは、ファイだった。


「なんでしょうか、ファイさん」


 ユアとムアを床に押さえ込んだ姿勢のまま、ニナがキロリとファイを見上げてくる。


 ここしばらく、お風呂に入っていないファイだ。汚い自分を見られまいと無意識に掛け布団で身体を隠しながら、主人に金色の瞳を向けた。


「えっと……。ユアの言ってることは本当、だよ? ユアは、私を強くするために頑張ってくれた」

「……はい?」


 パチパチと目を瞬かせているニナに、ファイは改めてユアの実験内容を伝える。


 思い出すのは、多種多様な毒を飲まされる前のユアとのやり取りだ。


『ユアはファイちゃん様、というよりはウルン人の魔素による身体能力の向上は、基礎の体力・筋力を乗算するものだと考えています。なので、ファイちゃん様が弱っているうちに弱毒化した毒への抵抗力をわずかでも身体が作ってさえくれれば! 白髪としての魔素の加護によって……』

『毒に対する抵抗力が“すごい”になる?』


 ファイの答えに、研究者として興奮状態のユアが「わふっ!」と肯定の鳴き声を返す。


『普段のファイちゃん様は、それこそ魔素の加護で、ほとんどの毒を無効化しています。そんな状態で基礎抵抗力を付けようとしても、きっと意味がありません。なのでその加護が切れている今のうちに、ファイちゃん様にはユアの知る限りの魔獣の毒への耐性を獲得してもらいます!』


 そんなわけで、ファイは睡眠も食事も可能な限り省き、限られた時間を目いっぱいに使って毒への抵抗力を身に付けようとしていたのだった。


 実際問題、こんなことでファイの毒への抵抗力が向上するのかは不明だ。ユアの仮説が合っているのかどうかも分からない。


『ただ、だからこその実験です!』


 右目が桃色。左目が水色という神秘的な瞳を輝かせて、実験への熱意を口にしたユア。


 ルゥの毒をはじめ、白髪のファイをもってしても無効化できない魔物の毒は決して少なくない。


 しかも蛇のように接触する形で毒を注入してくるならともかく、ルゥや紫飛竜(むらさきひりゅう)のように霧として毒を散布する場合はファイでもそう簡単には防げない。


 身体能力が高く、身体をぶつけ合って戦うことを好む獣人族たちだ。ルゥのようにからめ手を使う相手を毛嫌いする傾向があるためだろう。


『『そんなクソみたいな攻撃でファイ(ちゃん様)が死ぬのは、面白くないもん♪』』


 双子仲良く声をそろえて、ファイの身を案じてくれてくれたからこそ、今回の実験がある。


「つまり、この状況も、実験も、全てファイさんのため。だからユアさんも、わたくしの『実験禁止』の言いつけにそむけた、と……?」

「そう。最初から、そう言ってる、よ?」


 ファイの口からたどたどしく語られた実験内容と敬意を受けて、静かにユアとムアの拘束を解いたニナ。


 そのままゆっくり後退して膝をついた彼女は「すぅぅぅ~……」と大きく息を吸い込む。


 彼女が何をするつもりなのか。察したファイとミーシャ、エシュラム家の姉妹がそれぞれ耳をふさぎ、ティオが「え、なに!? みんな急にどうしたの!?」と右往左往する中。


 床をかち割らん勢いで頭と手をついたニナは、


「早とちりしてしまい、申し訳ございませんでしたわぁぁぁ~~~!」


 エナリアを震わせんばかりの大きな声と共に、渾身の土下座を繰り出したのだった。




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