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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●対策、しよう!

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第331話 もっと知りたい、かも




 ファイが、今回ロゥナ達が作った昇降機にときめかなかった理由。


 それはどうやら「ウルンの昇降機と同じだったから」に他ならないらしい。


 前回、ロゥナ達が作った試作型の昇降機は、ウルンの「機械」と、ガルンの「魔獣」。その2つを組み合わせた物だった。


 本来であれば手を組むことのないウルン人とガルン人。その両者が、ちぐはぐながら一緒になった昇降機に、ファイは感覚の部分で“このエナリアらしい”と思っていたようなのだ。


 だから今回もきっと、ウルンとガルンの技術が融合した、このエナリアらしい昇降機が見られる。秘かに期待して来てみれば、そこにあったのは“普通の昇降機”だった。


(だから私、スッキリできなかった。ううん、むしろ……)


 がっかりしてしまった。口元を手拭いで拭きながら、ファイは静かに自省する。


(道具は、期待しない。使う人の“そのまま”を受け入れて、合わせないとダメ。なのに、私……)


 なまじウルンで昇降機に関する知識をつけてしまっていたがために、ロゥナとフーカの発明をすごいと思えない。そのことが、ファイはなんだか申し訳なかった。


 そうして1人、うずくまるファイの側で、ふんわりさわやかな匂いが香り立つ。


「お姉ちゃん、大丈夫……?」


 言いながら心配そうにファイの背中をさすりはじめたのは、ティオだ。


 そもそもファイがこうして落ち込んでいるのは、数分前。昇降機の操作方法と使用感を確かめるために、上層と下層を行き来したことにある。


 現在、ファイは不調の真っ最中だ。


 身体能力・強度は、黒髪のフーカに勝るとも劣らない貧弱さになっている。そんな状態で、上の階層から下の階層へと短時間で移動すればどうなるのか。


 普段は白髪として“エナ中毒”とは無縁の生活をしているファイは、短時間での階層移動の注意点をすっかりてっきり忘れてしまっていた。


 下降中の昇降機の中で気持ち悪さを覚えたときには、もう遅い。


 それでも、ロゥナとティオ、密室状態だった昇降機の中で嘔吐しなかったのは姉として、道具としてのファイの意地だろう。


 扉が開くや否や、申し訳なさそうに待ち構えていたフーカの手から袋を受け取り、こうして嘔吐してしまったのだった。


「す、すみません、ファイさん……。ふ、フーカが事前に言っておけば良かったですぅ~……」


 ティオに続いてトテトテ駆けてきたフーカ。袋を持ってファイを待ち構えていたように、フーカだけは今のファイがエナ中毒になる可能性に思い至っていたらしい。


 ただ、だからと言ってファイを止めなかったフーカを攻めるのもお門違いというものだろう。


 操作方法の確認も兼ねて昇降機に乗り込んだファイ達。ただ、カゴは決して大きくなく、4人も乗り込めばぎゅうぎゅうになってしまう。


 そのため、操作方法の指南役であるロゥナと、ファイ、ティオがカゴに乗り込んだ。万一にも翅が痛むことが無いよう、フーカは外で待機していたのだ。


 そして、安全の観点から扉が閉まった状態でしか動かしてはいけない昇降機だ。


 乗り心地の確認も兼ねて昇降機でファイ達が上へ向かったなど、扉の向こう側にいるフーカが知るはずもなかっただろう。


 自身の不調を把握していながらエナ中毒に思い至らなかった自分が悪い。少なくとも、ファイの中ではそうなっている。


 幸いなのは、出すものを出したおかげかファイの頭がスッキリしていることだろう。おかげで、道具としての顔と考え方をすぐに取り戻すことができる。


「ううん。フーカは悪くない、よ? そもそも、私は道具。心配する、は、必要ない」


 何事もなかったかのように立ち上がりながら、吐しゃ物の入った袋をそっと背後に隠す。


 “ただのファイ”は、決して前向きな性格をしているわけではない。しかも今は、不調も相まって精神的にも不安定な状態だ。失敗は嫌というほど引きずるし、つい悪い方悪い方に考えてしまう。


(でも、道具は反省……“学習”はするけど、“落ち込む”はないもん、ね)


 失敗を引きずるなど、それこそ人間らしい行動になってしまう。自分が弱い人間であることをすぐに否定できるくらいには、ファイも立ち直っていた。


「ファイさん……。そ、そうですね! さすがファイさん! 強い、すごい、えらいですぅ~!」

「あぅ……ふ、フーカ? 褒めるも必要ない、よ? その、ぽかぽかしちゃう、から……っ」


 赤くなった顔をごまかすことに必死なファイは、フーカがそっとファイの手から汚れ物の入った袋を奪い取ったことに気づかない。


 本人に恥をかかせず、気遣いにも気づかせず、ただ陰でそっと支える。侍女として長い人生を歩んできたフーカの職業病がよく表れた動きだといえるだろう。


 そうしてファイの手から秘かに袋が消え去る中、少し気まずそうにロゥナが歩いてくる。


「その、ファイ……。悪かったな。俺がお前さんの不調に気を配れてたら良かった……」


 勢いよく頭を下げて、配慮なく昇降機を上下させたことを詫びてくる。が、ファイからすれば、ロゥナにも非がないというのはもはや当然だ。


 まだほんの少し朱の残る顔で道具としての能面を作ったファイ。


「ううん。私は大丈夫、だから。それよりも、ロゥナ。このエナリアの昇降機、は、どうやって動いてる?」


 首を左右に振りながら、ファイは話題の転換を図る。


 自分も含めてこれ以上だれも、この話題を引きずらないようにという意図もある。だが、それ以上に、今回の昇降機についてもっと知りたいからだ。


 せっかくフーカ達が時間をかけて開発してくれたのだ。できるなら目には見えないこの昇降機の歴史を知り、道具として。フーカとロゥナの熱意、ひいては彼女たちの人となりをもっと深く知りたかった。


「お、おうよ! じゃあ、まずは仕組みからだな!」


 この手の話は大の得意らしいロゥナ。鼻の下を照れくさそうにかきながらも、早速ファイ達に昇降機の裏側を教えてくれる。


 それによると、やはり昇降機の大枠自体はウルンの物と同じらしい。滑車と重りを上手く使って、人が乗るカゴを上下させる。


 その動力として『エナ回路』という、ウルンの技術も使っているらしい。


 詳細はファイもあまり理解できなかったが、色の違う色結晶を特定の金属で結んだ時、両者の間に一定方向の動力が生まれるらしい。それを回転の力に変えて、昇降機を動かしているそうだ。


「ほ、本来であれば、入手のしやすさと手入れのしやすさの均衡が取れた、緑と青色の色結晶を使うんですぅ。で、ですけど、ここはエナリア。色結晶は取り放題、選び放題なのでぇ……」

「ニナ様に頼んで贅沢に、黒色結晶と赤色結晶を遣わせてもらってるってぇわけだ!」


 色結晶の中でも最も希少で、高純度のエナを内包する黒色結晶。こぶし大の結晶だけで、小国の1年のエナを賄うことができると言われている。


 貴重かつ莫大な動力を生むその黒色結晶と赤色結晶を使うことで、1㎞を超える距離を巻き取るだけの長期的な動力を確保しているらしい。


 フーカの計算によれば、およそ100年、毎日使っても余裕で動き続けるだろうとのことだった。


「ただ、問題も無かったわけじゃぁねぇ。な、フーカ?」

「は、はいぃ。ま、まず物資がありませんでしたぁ……」


 カゴを引っ張り上げるには丈夫な素材でできた長い糸が必要になる。ウルンでは鉄糸線(てっしせん)と呼ばれる金属の糸を使うそうだが、このエナリアには鉄糸線を作ることができる物資も技術もない。


 他にも、各種小さな部品が必要になる。


「フーカとしては、ひとまず素材を取り寄せてもらうつもりだったんですけどぉ……」

「そこは俺たちの出番ってわけでぃ!」


 小さな身体を目いっぱいに使って、ふんぞり返るロゥナ。


「ロゥナさん達の出番って……どゆこと?」

「あっ。それ分かる、かも? 多分ロゥナ、魔獣を使った……?」


 ティオの疑問にファイが推測をもって答えてみると、ロゥナが「その通りでぃ!」とファイのことを指さしてくる。


 おかげでファイは驚いて身体をビクッと硬直させることになったのだが、語りに夢中のロゥナは構わず話を続けた。


「聞けば、必要なのは人が数人乗ったカゴを持ちあげられる糸があればいいらしいじゃぁねぇか。だったら、パッキどもを使えばいいってな!」

「パッキ、ですか……?」


 魔獣の名前には詳しくないらしいティオ。おとがいに指をあててあざとく首をかしげる彼女に、ファイがウルン語で該当する単語を教えてあげる。


「貝の仲間だ、よ、ティオ。でも……」


 貝と糸。あまりピンとこない組み合わせに、ファイの方も考え込んでしまう。そうして仲良く首をかしげるファイ達を温かなまなざしで見つめながら、口を開いたのはフーカだ。


「か、貝さんの中には、水の流れに流されないよう、い、糸で身体を岩に固定する子がいるんですぅ」

「「あっ、なるほど」」


 フーカ先生による解説に、ファイとティオが仲良く声をそろえる。


 表の住民と協力しながら、主に“瀑布の階層”で該当する貝たちを捕獲。糸を作る器官を取り出し、残った部分は食料として再利用。


 そうして作り上げたものが、先日ファイが見かけた鉄線――のようなもの――の正体だったらしい。


「確かに。とっても丈夫そうだった」

「おう! 耐荷重で言えば、300ガラン……ウルンだと750(キルログルム)くらいは余裕だぜぃ!」


 あとは、ファイ達の色結晶の採掘作業で出た岩くずから製鉄。各種小さな部品を作成したらしい。


 これで理論と物資がそろったわけだが、昇降機を運用するにはもう1つ。とても重要なことがあるとロゥナは言う。


「安全性だ」


 真剣な顔つきで言って、腕を組むロゥナ。


 人が乗って利用する以上、最低限の安全確保が必須。昇降機で言えば、例えば開閉する扉に指を挟んだり、糸が切れて箱が落下したり。他にも、無数に危険が考えられる。


 ウルンではそうした安全装置もエナ回路を使って充実させているらしいのだが、さすがのフーカも専門的な知識過ぎて知らないという。


 そのため、ここもガルンの文化――つまり、魔獣を使った安全確保が行なわれているらしい。


「幸い、このエナリアに居る奴に子供はいねぇ。危険な使い方で起きる事故の対処については、後回しにした。ってなもんで、まずは昇降機が落下するっつう最悪の事態に備えることにしたわけだが……」


 言いながら、外部の操作盤――床から生えた棒の方――でいろいろと操作したロゥナ。すると、昇降機の扉が開く。


 本来であれば人が乗るカゴが現れるはずなのだが、昇降機の内部、がらんどうの筒がぽっかりと口を開けている。カゴは、先ほどのロゥナの操作で少し上に移動したようだ。


「ファイ、ティオ。見てみな。コレが俺たち流の安全装置でぃ」


 ロゥナに手招きされて、2人して白髪を揺らしながら昇降機に歩み寄り、昇降機の下の部分を覗き込むファイ。


 と、そこにいた巨大な魔獣を見た瞬間、これまで昇降機にしっくり来ていなかったファイの口から、今度こそ。


「お~~~……っ!」


 感嘆の声が漏れたのだった。




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