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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●対策、しよう!

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第330話 伝わると良い、な




「紹介するぜぃ、ファイ! それからティオ! コレが俺とフーカが考えた、このエナリアの昇降機でぃっ!」


 得意げに言って背後を示すロゥナ。彼女に言われるまま、昇降機へと目を向けたファイ。だが、彼女の口から漏れたのは、


「お~……?」


 疑問交じりの声だ。


 というのも、そこにあったのがただの円柱だったからだ。


 第16~17層を結ぶ、直径約5m、長さ約1.3(キルロメルド)の昇降機。その大きさは確かに、何とも言えない威容だ。それが人の手で建てられたと考えると、もちろんファイも「お~」となる。


 が、前回目にした昇降機――速鼠を使った昇降機――の方が全体的にごつく、“凄そう”だった。


 その点、一見するとただの円柱にしか見えない昇降機には、残念ながら前回を超える感慨はない。


 “見た目の凄さ”が無いことからファイが驚きかねる一方、「わ~~~っ!」と歓声を上げたのはティオだ。


「わ~! わぁぁぁ~~~! みて、お姉ちゃん! でっかい昇降機だよ、昇降機!」


 言うや否や、跳ねるようにして円柱へと駆けていく。どうやらこの昇降機は、ティオの感性をくすぐるのには十分だったらしい。


 紫色の瞳をキラキラと輝かせながら、昇降機の周りをぐるぐる回っているティオ。年相応の無邪気な姿を見せる妹に思わず目つきを柔らかくしながら、ファイもひとまず昇降機へと歩み寄ってみる。


 近づいてみても、やはり無機質な印象は変わらない。扉と思われる(へこ)みと、切れ込み。その側には装置のようなものが地面から生えている。


 ウルンの魔道具量販店で昇降機の仕組みと存在を知っているファイだ。装置の出っ張りを押すと扉が開いて円柱の中に入ることができるのだろうことは想像できた。


(それにしても……)


 およそ昇降機について観察を終えたファイ。次に目を向けるのは、全身で感動と喜びを表している妹のティオだ。その喜びようは、これまででも1、2を争うほどに見える。


 普段から、ファイが一緒にいるだけで喜んでくれるティオ。だが、ここまでではない。


 自分ではなく、ただの昇降機が妹を笑顔にしている。その事実が、ファイの中に何とも言えないモヤモヤを生む。


 その感情が“良くないもの”に思えたファイ。胸元できゅっと拳を握った彼女は、感情が表情に出る前にティオに聞いてみることにした。


「てぃ、ティオ。これ、すごい……の?」


 ファイよりも知識が豊富なティオだ。ファイが知らないこの昇降機の“凄さ”を感じているに違いない。そう判断しての問いかけに、当のティオは、それはもう良い笑顔で即答した。


「――分かんない!」

「っとと……。わ、分からないんだ?」


 思わずズッコケそうになるのを、どうにか堪えたファイ。ならばどうしてティオは喜んでいるのか。疑問符を浮かべながら小首をかしげるファイに、ティオは「でも」と続ける。


「でもティオ、分かるよ! これでティオも、お姉ちゃんのお仕事のお手伝い、できるって!」


 にししっ、と歯を見せて笑ったティオの言葉に、ファイは目を大きく見開くことになる。


 ティオは、昇降機そのものに喜んでいたわけではないらしい。昇降機ができたことで生まれる結果――体力面でできなかった最愛の姉のお手伝いができること――に、喜んでいたらしい。


 つまり、ファイのため。


 それが分かった途端、つい今しがたまでファイの中にあったモヤモヤが吹き飛んでしまう。そうして生まれたファイの心の隙間を満たしたのは、ぽかぽかというには熱すぎる、圧倒的な温もりだ。


「あっ、でもでも、まだ昇降機ってここにしかないんだっけ? あとどれくらい待てば全部の階層に設置できるか、ちょっとフーカさん達に聞いてくる――」

「ティオ!」


 駆けだそうとした妹を、ぎゅっと抱きしめるファイ。


「ちょっ、お姉ちゃん!? 危ないって! いま、お姉ちゃん、ヨワヨワなんだから――」

「(ぎゅ~!)」


 使用不可期間で弱っているからこそ、遠慮なく妹を抱きしめることができるファイ。


 ここ最近、ファイが仕事を終えて部屋に帰ると、いつもティオが「お帰り!」と迎えてくれる。


 彼女の笑顔を見るだけで、誇張抜きに、ファイの1日の疲れは吹き飛んでしまう。


 毎日、毎日。ニナがくれるぽかぽかとは違った温もりを、ファイにくれるティオ。日ごろの彼女への感謝の想いも込めて、ファイはありったけの力で妹を抱きしめる。


「ティオ。いつも、ありがと……! ありがとう、ね……っ!」

「えっ、いま!? どういう流れ!?」


 普段なら照れ隠しも兼ねて「えへへ~♡」と抱き返してくるティオ。しかし、彼女はまだ力加減が苦手らしい。万一にもファイを傷つけてはいけないと思っているようで、ただファイにされるがままになっている。


「(ぎゅぅぅぅ~~~!)」

「ティオがアレコレしても全然デレてくれないのにぃ~……! お姉ちゃんがキュンするところ、ぜんっぜんわかんないんですけどぉ~!」


 道具であるどうこうの前に、あまり口が上手ではないファイだ。自身の想いをつぶさに伝えることには抵抗があるし、苦手意識もある。


 だからこそ、目いっぱいの想いを込めてティオを抱きしめる。言葉だけでは伝わらない感謝の想いが、少しでもティオに伝わるように――。




 ひとしきりティオへの感謝を伝えたのち、彼女を解放したファイ。使用不可期間で身体能力が落ちているはずなのに、抱擁を解いたティオは目を回していた。


「ティオ。大丈夫?」

「うん~。ちょっとお姉ちゃん成分を過剰摂取しちゃっただけ~……あっ」

「おっとぉ」


 フラフラと千鳥足で歩いていたティオが足をもつれさせて転びそうになる。そんな彼女を優しく抱き留めたのは、ちょうどこちらに歩いてきていたフーカだった。


 肩にかからないくらいの黒髪に、長い前髪に隠れた赤い瞳。120㎝あるかないかの小さな身体。だが、実は羽族としては高身長の部類に入るというのだからファイも驚きだ。


「だ、大丈夫ですかぁ、ティオさん?」

「あ、ありがとうございます、フーカさん」


 優しい笑みと共にティオの体を支え、体勢を整えるのを手伝っていたフーカ。ティオが両の足できちんと立ったことを確認すると、続いて、ファイのことを見上げてきた。


「お、お久しぶりですぅ、ファイさん! 昇降機、見に来てくれたんですねぇ」


 背中にある2対4枚の透明な翅から虹色の燐光を漏らしながら、にへらっと笑うフーカ。


「ん、久しぶり、フーカ。遊びに来た、よ?」

「あっ、お仕事じゃないんですねぇ。……と、ということは、“お勉強期間”ですかぁ?」


 使用不可期間では基本的に座学をしているファイだ。それに付き合ってくれることが多いため、フーカはファイの不調を“お勉強期間”という隠語で呼ぶ。


 ただ、そのあたりの羞恥心や感性については、まだファイの中で育まれていない。


「そう。生理」

「あっ、い、言っちゃうんですねぇ……」


 知識はつけてきているが、世間との“ズレ”にはまだまだ課題がある。「?」と首を傾けるファイの前で、彼女の先生は前途多難だと言うように苦笑していた。


 と、そうしてファイとフーカが挨拶をしている間に、小さな影が割り込んでくる。


「フーカさん、フーカさん! この昇降機、ウルンにあるのと(おんな)じですか!?」


 復活したらしいティオが、興奮した様子でフーカに詰め寄る。それに対してフーカは「そうですねぇ」とほほ笑んだ後、背後――ロゥナの方へと目を向けた。


「ろ、ロゥナさん~。ファイさん達に、しょ、昇降機の使い方を教えてあげてください~」


 これまでティオが居るために話していたウルン語からガルン語に切り替えて、手持ち無沙汰にこちらを見ていたロゥナへと呼び掛ける。


「おう。挨拶は済んだのか?」

「は、はい~。てぃ、ティオさんが、昇降機の使い方を知りたいと」

「そうかい! そんじゃあ早速、行ってみるか! 準備は良いか、ファイ、ティオ?」

「うん」「は~い!」


 姉妹それぞれの返事を受けて、ロゥナが最初に案内してくれたのは扉の側にある装置だ。


 床から生えているように見える、1本の細い棒。その先端は平たくなっていて、ガルン語で「↑」「開ける」「閉じる」「呼び出し」と書かれた計4つの出っ張りがある。


 それ以外に特筆すべき点と言えば、平面の上部に緑色に着色された夜光石が埋め込まれていることくらいだった。


「使い方を教えるっつっても、操作は簡単だ。まず、この夜光石が光ってるかどうかを見る。光ってればこの階に人が乗るカゴがあって、光ってなかったら上の階にカゴがある、ってな具合だ」

「なるほど。で、今は光ってる、から……」

「おう、この階にカゴがあるな。んで、光ってたらこの上矢印を押す。もし光ってなかったらこの『呼び出し』を押してくれ」


 ロゥナの説明に、ファイは無言のまま頷く。そして、理解した内容をティオにも伝えようとしたのだが、


「じゃあロゥナさん! ティオが押してみてもいい!?」


 どうやらティオも、大まかな内容は理解できているらしい。元気いっぱい挙手をして、昇降機の操作を申し出た。


「おう、いいぜぃ、ティオ。押してみな」

「やたっ! じゃあ、いっきま~す! ぽちっ、と」


 傷一つないきれいな手で出っ張りを押したティオ。すると、すぐそばにあった昇降機の扉が音も立てずにスッと開いた。


「おー……」


 およそウルンにあった昇降機と同じような動きをする昇降機に、ファイも声を漏らす。


 だが、なぜだろうか。やはりファイの中には前回の昇降機のような“すごい!”を感じない。


 いったい、どうしてなのか。


 その理由をファイが知ったのは、この少し後。昇降機の使い方を知った彼女がお試しで上層へ向かい、そして、再び第16層に戻ってきて――


「おぇぇぇ……」


 ――“とあること”を失念していたことにより嘔吐。


 出すものを出して頭がスッキリした後のことだった。




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