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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●家畜を、育てよう

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第326話 もう怖くない、よ




「ボクだって不眠不休でがんばってるんだぞぉぉぉ~~~! みんなもっとボクを構えよぉぉぉ~~~! 褒めろよぉぉぉ~~~!」


 駄々をこねる子供のように地面を転がって、日ごろの不満を叫ぶノイン。いつしか声には、かすかな涙の色が浮かんでいる。


「はんっ! ついに本性を見せたわね、見栄っ張り幽霊族! みっともないったらないわ、ザマァ見なさい!」


 積年の恨みを今こそ晴らすとばかりに、ノインを()撃するミーシャ。隙を見せた“敵”を容赦なく攻め立てるところは、もはやガルン人の反射的な行動なのだろう。


 一方のファイはといえば、眉がなだらかな丘を描いている。


 最初こそ、嘘をつかれたことと、“寂しい”は克服できないかもしれない事実に落胆していたファイ。


 だが、そもそもの話、ノインの人となりを読み違えたのはファイの方だ。


 自身の勝手な思い込みをノインに重ねておいて、いざノインがみっともない姿を見せれば落胆する。それはあまりにもノインに失礼だし、何より道具らしくないように思えるファイ。


(道具は“落ち込む”をしない。あと、誰かに自分の考えを押し付けたりしない)


 あらゆる人のあらゆる側面を受け止め、そのうえで、主人・使い手となる人物の想いを汲んで行動する。圧倒的な柔軟性を持つこともまた、ファイが目指している優秀な道具の条件だ。


「ふぅ……」


 小さく息を吐いて、まっさらな瞳で改めて「ノイン」の姿を眺めるファイ。そこには相変わらず地面を転がる骸骨の姿があって、


「みんなズルいぞぉ~! いつだってニナに会えて、褒めてもらえるんだろぉ~! ボクもニナと好きな時にお話ししたい! 褒めてもらいたい! 遊びたいぃぃぃ~~~……」


 自身の欲望を口にしている。


 欲や感情にどこまでも素直で、直情的。幽霊族なのに、人間らしい。それがきっと、「ノイン」という人物なのだろう。


 叫び疲れたのか、暴れつかれたのか。声から勢いと声量を失くしていくノイン。たくさんの願望を口にした彼女が最後に求めたのは、


「誰か……誰か1人くらい、ボクを愛してくれてもいいだろぉ~……」


 自分を絶対に認めてくれる絶対的な存在だ。


 どれだけ見栄を張ろうとも、どれだけ年月を重ねようとも、やはり孤独は辛いものらしい。


 孤独を知ってまだ間もないファイだ。きっとノインが感じている孤独と寂しさは、ファイの中にある寂しさとは一線を画するほどに深いものであるに違いない。


 だからこそ最後の最後に漏れたのだろう、「愛してほしい」という言葉。そこにありのまま、等身大の「ノイン」という人物を見た気がしたとき――


(きゅん……?)


 そう表現するのが妥当な、いとおしい痛みがファイの胸を襲う。


(ノインは、ちゃんと人。……で、ノインは今、泣いてる……困ってる……っ!)


 弱っている。震えている。泣いている。ノインが見せる3つの“弱者”としての行動は、ファイが人生をかけて培ってきた強烈な奉仕精神、あるいは母性本能というべきものを刺激するのに十分だった。


「ノイン……!」


 気づけばファイは、地面を転がる骸骨(ノイン)を抱きしめている。そして、いつもミーシャやティオにそうしているように、


「大丈夫。ノインは、すごい。頑張ってる」


 ゆっくりと、優しい声で言いながら頭蓋骨を撫でてあげる。


 自身の心や感情を常に否定し続けているファイだ。まさか今の自分がノインに“共感”していることなど、気づきもしない。


 認めて欲しい。見て欲しい。褒めて欲しい。


 ――愛されたい。


 ノインの言葉はすべて、“弱いファイ”が秘かに願っているものだった。


 だからかもしれない。今ノインが何を求めているのか。理性ではなく感覚的な部分で、ファイは理解できてしまう。


「ぐすっ……。ボク、すごい?」

「そう。ノインはすごい。ひとりで、寂しくて……。でも、ニナのために、頑張ってる。えらい」


 ファイが発する言葉はそのまま、ファイが秘かに求めてやまない言葉だったりする。


「頑張ってるノインは、すごい。えらい。格好良い、し……さいこー。あとは、えっと……『顔が天才』とか、『存在が救い』? あっ、『しゅごい』と『しゅき』もある」


 最後の方はティオがよく使ってくれるウルンの誉め言葉も使って、ノインを身体ごと包み込むファイ。すると次第に、耳元で聞こえていたノインの嗚咽が消えていく。


「よし、よし……。ノインは、良い子。良い幽霊族、だね」

「うぅ~。ファイがめっちゃ褒めてくれるぅ~……。もっとボクをよしよししてぇ~、甘やかしてぇ~」

「ん、任せて」


 求められれば応えるファイだ。言われるがままノインの頭に手を伸ばそうとした彼女の手を、ふいに、背後から掴む人物がいた。


「ちょ、ちょっと、ファイ! ソイツ調子乗ってるわよ!? アンタも疲れただろうし、そろそろいいでしょっ!」


 なぜか顔と声に焦りの色を浮かべているミーシャが、ノインからファイを引きはがそうとしてくる。


 しかし、事実としてファイは疲れていないし、ノインはファイの侍女服を掴んで離さない。


「ミーシャ。私は道具。疲れない。だから大丈夫」

「にゃっ!? そ、そうじゃなくて、アタシも……ぅにゃ……」

「ミーシャ……も?」


 口ごもってしまったミーシャが何を言いたかったのか。懸命に思考を巡らせたファイは、


「み、ミーシャのことも、よしよし、する……?」


 ミーシャも“よしよし”してほしいのではないか、と。ミーシャをモフモフしたいという自身の秘かな願望も込めて聞いてみる。


 瞬間、首から耳の先にかけて一気に顔を紅潮させたミーシャ。


「~~~~~~っ! そ、そんなわけないじゃない、バカファイ! 勘違いしないでよねっ!」


 顔を真っ赤にしてファイを罵倒したと思うと、くるりと転身。ファイが引き留める間もなくモゥブル達のもとへと歩き去ってしまった。


 とはいえ、ファイもミーシャとそれなりに言葉を交わしてきている。懲りずに同じことを続けてすれ違うほど、ファイは愚かではない。


(今の、たぶん反対言葉。ミーシャ、きっと撫でて欲しい)


 別にミーシャをなでなでモフモフしたいわけではないし、自分に都合よく解釈したわけでもない。


 誰にともなく言い訳をしたファイは、あとでミーシャも撫でることに決める。


「ファイ~。ボクまだ傷心中だぞぉ~?」

「えっ? あっ、うん……。えっと……ノインは良い子、良いよしよし

「ぐへへ~♡ んぎもぢぃぃぃ~~~!」


 気持ちよさそうな声を漏らすノインに


 素直に甘えてくるノインに、ファイもまた全力で応え続けた結果。


「あぅ~、ナナ(ママ)~♡」


 ノインは完全に幼児退行していたのだった。




 そのまま、果たしてどれくらいの時間が経っただろうか。


「……う、ん?」


 いつの間にか気を失っていたらしいファイ。身を起こしてみると、胸元から「にゃ」とささやかな悲鳴が聞こえてくる。


 見てみれば、半覚醒状態で目元をこするミーシャの姿があった。


 どうやらファイのお腹を枕にして、眠っていたらしい。


「むにゃ……ファイ~?」

「あ、うん。おはよう、ミーシャ」


 四肢をついて耳の先から尻尾の先まで“伸び”を始めるミーシャ。


 久しぶりに見る彼女の可愛い寝起き姿に胸をポカポカさせるファイだが、すぐに意識を切り替える。


(私たち。なんでここで寝てた……?)


 そっとミーシャとの距離を縮め、いつでも彼女を守れる状態を作るファイ。尻尾を「?」の形にしてこちらを見てくるミーシャに構わず周囲を見回してみれば、どうやら放牧場のようだ。


(えっと……。草を焼こうとして、でも、建物があるから守らないと、で……)


 辛うじて残っている記憶を引っ張り出したファイは、自分がひとまず建物の所在を確かめていたことを思い出す。


 ただ、奇妙なことに、ファイの視界にあるのはすっかり燃えてしまった草木たち。そして、建物群のすぐそばで燃え残った草を美味しそうに食べているモゥブル達の姿だ。


 恐らく野焼きをしたことは間違いないだろう。そして、背後の建物やモゥブル達が無事であることから、何らかの方法で安全を確保したことも間違いない。


 だが、いつ、どのようにして草を焼いたのか。どれだけ記憶を探してみても、答えは見つからない。


(ものが燃えると、呼吸が苦しくなる……。だから倒れた?)


 詳しい仕組みは知らないが、大規模にものを燃やすと空気が薄くなることをファイは知っている。


 閉じた空間で野焼きをしたために酸欠状態となって気を失った。そう考えることもできるが、放牧場は天井も高く、広い。空気は十分以上にあるだろうため、気を失うほど空気が薄くなったとは考えにくい。


 それにファイは、自身の身体の丈夫さだけには自信がある。空気が薄くなってから倒れるまでには時間があるだろうし、その間に放牧場から退避することもできたはずなのだ。


「……ミーシャ。ミーシャが草を燃やした、の?」

「んにゃ? そんなわけないじゃない。建物もあの子たちも無事だし……。ファイが火の魔法でやったんじゃないの?」

「ううん」


 どうやらミーシャも、何が起きているのか理解していない様子だ。


 ファイの知らないところで何かがあって、結果、ファイが望んだ結果だけが残っている。あまりにも奇妙な現象に、


「……変な、の」


 ファイの口からそんな声が漏れる。と、ミーシャが「ファイ!」と叫んでファイに飛びついてきたのはその時だった。


「み、ミーシャ? どうしたの?」

「あれ! あそこ……!」


 ファイの背中に顔をうずめるミーシャが指さす先にあったのは、ちょうど1人分くらいの白の山だ。そのすぐそばの地面には文字が書いてあって、


「『ありがとう』。『ごめんね』……?」


 それぞれの意味を表すガルン語が書かれてある。


「きっと幽霊族よ! あいつらがアタシ達に何かしたに決まってるわ!」

「幽霊族……。……うん?」


 ふと左の小指が熱くなった気がしたファイ。見てみれば、ファイの小指の根元には黄緑色の指輪がはめられている。


 だが、よく見てみれば指輪ではない。細い髪の束だ。十重二十重に巻き付いた黄緑色の髪の毛が、指輪のように見えていただけだったらしい。


 驚くべきは、その指輪が恐らく1本の髪の毛からできているところだろう。ほどけば5mは軽く超えるのではないだろうか。


(黄緑色の、長い髪の毛……)


 それを意識した瞬間、ファイの身体が震える――ことは無い。


 目覚めたら小指に知らない人物の髪の毛が絡みついている。


 本来は恐怖するべきだろう事象なのだろうが、ファイの中には恐怖も疑念も浮かばない。むしろ親近感のような、ぽかぽかとした温もりがファイの胸に宿る。


(この髪の毛……知ってる、けど。覚えてない。で、幽霊族は記憶もいじれる……。もしかして?)


 状況証拠から、自身の身に何が起きたのかをぼんやりと察したファイ。髪の毛でできた指輪を掲げ、天井の夜光石に透かしてみせる。


 すると、なんとなく、指輪の向こうに甘えん坊な誰かさんがいるような気がして――


「また会えると良い、ね」


 ――そう言って、かすかに目を細めるファイだった。




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