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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●家畜を、育てよう

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第325話 ちぐはぐだ、ね?




 ファイ達とミーシャが合流して、はや1時間ほど。彼女たちは今、入り口付近に居たモゥブル達をひとまず厩舎まで運んでいる最中だ。


 モゥブルは非常に従順で、ファイ達が縄を引っ張らずとものんびりついてきてくれる。放牧場は現在、大部分が焼けてしまっている。つまみ食いする草もないため、モゥブル達が足を止める理由もないらしかった。


 そんな中、


「シャー! フシャー!」


 牙をむき出しにするミーシャが、ファイの背中で威嚇している。その対象はノイン、なのだろう。そうファイが推測するしかないのは、ノインの姿がファイにはほとんど見えないからだ。


 ノインの声が聞こえるたびにわずかに見える黄緑色の燐光。恐らくアレがノインの本体、あるいは一部なのだろう。


 しかし、放牧場は明るく、相当に意識しなければ燐光は見えない。ましてノインが何もしていなければ、この場にノインが居るのかどうかさえ分からないほどだ。


 一方のミーシャは、どういうわけかノインが放つ燐光を目で追うことができているらしい。常にファイを盾にするように立ち回り、虚空に向かって目つき鋭く唸っていた。


「ミーシャ。ノインが見える、の?」


 今もファイの侍女服の裾を握りしめているミーシャの方を振り返り、小首をかしげるファイ。対するミーシャはといえば、相変わらず虚空を睨みつけながら応える。


「ええ! モヤモヤの正体がノインだって分かった今なら、何も怖くな――にゃっ!」

「あははっ! どうだ、不意打ちだぁ~」

「アタシじゃ反撃されないからって調子に乗って……っ! この、この!」


 何度も虚空に向かって拳を打ち出すミーシャ。


 過去にもさんざん、ノインからのいたずらを受けていたと言っていたミーシャ。ノインへの怒りと恨みは相当なものらしく、視線も拳も殺意マシマシだ。


 ただ、相手は実体を持たない存在だ。ミーシャの攻撃は当然のように空を切り、視線についても柳に風とばかりに受け流されてしまっている。


「身体能力主体の獣人族と、幽霊族。相性の悪さはミーシャだって知ってるだろぉ~? ほれ、お耳ふぅ~……」

「ふにゃんっ!? ……~~~~~~っ!」


 ミーシャの敏感な耳に吐息、というよりは人為的に生み出した風を吹きかけたらしいノイン。思わず悲鳴を漏らしたミーシャは、怒りと悔しさが入り混じった声を漏らしながらファイにしがみついてくる。


 ノインがいたずらを仕掛けてミーシャが反応し、泣き寝入りをする。かれこれ1時間、似たようなやり取りの繰り返しだ。


 最初は驚くミーシャを可愛いらしく思うだけだったファイ。ただ、こうまで一方的な展開を繰り返されると、さすがに不憫さが勝る。


「の、ノイン。ミーシャをいじめるはダメ、だよ? だからいたずらは、もう……」


 止めてあげて欲しい。自身の願いこそ口にしなかったファイだが、年長者であるらしいノインはきちんとファイの言葉の意図を汲み取ってくれたらしい。そのうえで、


「それは無理な相談かな~、ファイ」


 きっぱりと、いたずらを止めるつもりはないと語る。


 普段のファイなら「そっか」で済ませるところだが、今回に限ってはミーシャが居る。


 今も耳をしおれさせてファイの手をぎゅっと握っている背後の少女に目を向けたファイは、虚空に向かって問いかけた。


「な、なんで? 怖がらせる、は、きっと良くない。ノインはすごくて、良い幽霊族……でしょ? なのに、どうしていたずらする、の?」


 道具としての在り方に通ずる強さを持っているノイン。無知なファイをして尊敬できる人が、どうして他人を困らせるのか。


 ここでノインを“いたずらが好きな悪者”と断ずるのは簡単だろう。しかし、ファイは主人を、ひいては他人を理解することに終始する人生を送ってきた。


 自分自身を、相手の色に染める。それがファイ・タキーシャ・アグネストの人生だ。


 自然、こういう場面でファイの口から漏れるのは「そういう人なんだ」という諦めと決めつけの言葉ではない。「あなたをもっと教えて欲しい」という、歩み寄りの言葉だった。


 そんなファイからの問いかけに、ノインは声だけで答える。


「だってそれがボクだからさぁ~」

「いたずらする、が、ノイン……?」


 ミーシャと、彼女の背後にモゥブル10頭。全員がついてきていることを確認しながら問い返したファイに、ノインが「そうだぞ~」と肯定の声を返してくる。


「ボクたち幽霊族ってエナの塊で、身体がないだろぉ~? だからか分からないけど、とっても不安定な存在なんだ~」


 ノイン曰く、肉体がない幽霊族は、心の在り方が自身の存在に大きく影響するという。


 誰かと仲良くなればなるほど、その誰かを“呪い”という形で苦しめることになる幽霊族だ。その人生は基本的に孤独な歩みとなる。


 そうなると当然、病んでしまう者も少なくないという。


「モヤモヤ~ってなって。いつかは自分が存在している意味さえも見失ってさぁ~。最後には悪感情の塊……それこそウルンの幽霊みたいになっちゃう」


 自身の存在価値を見出せず、孤独への恐怖に(さいな)まれるまま世界に悪意を向け、ファイが言うところの“悪い幽霊”になってしまう。


「だからボク達は、自分を見失わないために好きな事をしないといけなくて――」

「う、嘘よ……!」


 自身のいたずらの意味について滔々(とうとう)と語っていたノインを遮ったのは、ミーシャの鋭い声だった。


「ミーシャ? どうかした、の?」

「ファイ! そいつ、嘘……いいえ、隠し事をしてるわ! 信じちゃダメ!」


 言いながら、ファイの背中にぎゅっとしがみつく。


 生い立ちからか、ミーシャは他者の嘘や隠し事に敏感だ。過去にはユアのファイに対する嫉妬を見抜いたり、盗賊の怪しい雰囲気を看破したりもしている。


 それがガルン人特有の能力によるものなのか、単なる直感なのか。ハッキリとしたことはは分からないが、ミーシャの直感は決して馬鹿にならない。


「確かに自我を保つためって理由もあるんだと思うわ……! でも、きっとそれだけじゃない。それに……」


 ミーシャが言ったころ、ようやく厩舎の前までたどり着いたファイ達。ノインが髪を使って操っているという骸骨が出迎えてくれる。


 そんな中、ファイの侍女服から手を離したミーシャ。彼女の目は無力感が由来だろう涙で腫れており、拳には悔しさがにじんでいる。


 それでもなお自身の足の力だけで立ってみせたミーシャは、骸骨に向かって吠える。


「そもそも、おかしいじゃない! 独りでも大丈夫なんでしょ? 寂しくないんでしょ? だったらどうしてファイやアタシに、アンタのことを教えるのよ!?」


 ミーシャが言った瞬間、ファイの耳元では「ぎくっ」という声が。そして、骸骨の方もあからさまに身体を硬直させている。


 言われてみれば、確かにそうだ。


 エナリアの機密保持の観点から考えれば、ニナをはじめとした従業員にノインの存在は知られるべきではないはずだ。


 だというのにノインはこうしてファイ達と関わりを持ち、あまつさえ、自身の役割や能力について教えてくれている。


「そういえば、ノイン。最初に会った時、わたし達を驚かせて気晴らしをしてるって言ってたよう、な?」


 あれはファイがノインにお礼を言う直前だっただろうか。話があると言ったファイに、何やらノインが言い訳じみたことを言っていた。


 おとがいに手を当てて記憶を探るファイの言葉に、ミーシャが「ほら見ろ」とばかりに便乗する。


「やっぱりそうなんじゃない! 人をからかって高みの見物をしてる奴なんて、大抵ろくでもない奴なんだから!」

「そ、そんなことないぞぉ~? ボクは清く正しく格好良い、良い幽霊なんだ~! そうだろぉ、ファイ?」

「あ、えっと……うん」


 一度ノインをほめそやしたファイだ。自身の発言を撤回することは無い。


「けど、ノインがミーシャをびっくりさせるのは、正気? でいるためじゃない。“楽しい”だから?」

「そ、そんなわけないだろぉ~。ボクはあくまでも、自分を保つために仕方なく驚かせているだけで――」

「ファイ、嘘よ」


 耳ざとく、ノインの言葉が嘘であると断定するミーシャ。そうでなくとも、ファイ自身、何やら慌てた口調で言い訳を並べ立てているノインには妙なモヤモヤを感じる。


 最初こそ、ノインへの感謝と尊敬で目が曇っていたファイ。だが、改めて冷静に考えてみたとき、ノインの言動に見え隠れする“ちぐはぐさ”が際立ち始める。


 特にファイが確認せざるを得ないのは、ノインを尊敬している根幹の部分。つまり、孤独に対する恐怖を克服し、たった一人、ニナへの想いだけで業務を続けてきたという部分だ。


 もちろん、ノインがこれまでファイを支え続けてきたことに違いは無いだろう。


 表で死んでしまった探索者たちの亡骸を人目のないところまで移動させ、ピュレに食べさせていること。エナリア各所の設備をニナの指示に従って稼働させていること。


 そして、必要に応じて記憶を処理していること。


 どれもノインがしてきた業務で、彼女にしかできないことだ。


 同僚としてファイはきちんとノインを尊敬しているし、これからもその憧れは変わらないだろう。


 しかし、だ。


「ねぇ、ノイン。ノインは独りでも大丈夫なんだよ、ね? 寂しい、じゃ、ないんだよ、ね?」


 努力すれば、ファイの宿敵である「感情」を――少なくとも“恐怖”という感情を――殺すことできる。ノインが見せてくれたそんな希望が嘘なのか、本当なのか。


 先ほどから気まずそうに顔を逸らしている骸骨に目を向け、尋ねるファイ。と、観念したように肩を落として見せた骸骨姿のノイン。トボトボとファイの目の前まで歩いてくると、


「……先に謝らせてくれよ、ファイ。ごめん」


 なぜかファイに向かって頭を下げてくる。その後すぐ顔を上げた彼女は、カシャンと。乾いた音を立てながら仰向けに地面に倒れ伏した。


 骸骨(ノイン)の突然の行動に理解が追い付かず、ファイとミーシャが目を点にする中、大きく口を開けた骸骨は――




「寂しくないわけないだろぉぉぉ~~~!」




 ――ファイに見栄を張っていた事実を、嘘偽りなく告白した。


 さらにそのまま、陸に打ち上げられた魚のように地面を転がり始めるノイン。


「どれだけ頑張っても誰も見てくれないしぃ~! 何ならボクが居ること、誰も覚えてないしぃ~! むなしくないわけないし、寂しくないわけないだろぉ~!」


 恥も外聞も投げ捨てた姿で本音を叫ぶ。


 ニナが生まれる前からこのエナリアに仕えているというノイン。生前もあることを思うと、少なくともこのエナリアで働いている誰よりも“大人”だ。


 だというのに、


「ボクだって不眠不休でがんばってるんだぞぉぉぉ~~~! みんなもっとボクを構えよぉぉぉ~~~! 褒めろよぉぉぉ~~~!」


 手足をばたつかせながら、誰にともなく欲望を駄々洩れにさせているノイン。


 自分たちよりもはるかに年長者であるはずの彼女が見せる、幼稚で、あまりにもみっともない姿には、ファイもミーシャも。


「「(ジトー……)」」


 仲良く冷ややかな目を向けることしかできなかった。




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