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魔王との業務提携

「申し訳ないが、再度説明してくれるかの?」

「しょうがないわねっ!ユーリっ、説明してあげてっ!」

説明を促され、ユーリは一歩前に出る。

煙で燻された古い建築物は天井が高く、室内は広い。木造で組みあがった建物は、確かに古いが経過した時間は年季という重みのある雰囲気を漂わせ、とても美しく思う。

その室内には、3人の男女がいる。いや、正確には2人の女性と、『1人の男性』

メイド姿のユーリは、目の前にいる初老の男性に先程の説明をもう一度、口にした。

「我々の村はご存じの通り、ここから半日歩いた場所にあるレニオン村です。」

建物同様に年季の入った木の丸いテーブルの上に、一枚の魔法書類と、図面だろうか?温泉場を中心とした周辺の事業計画図が書かれた図面と、書類の束が置かれている。

「こちらに書かれている内容を元に、魔王様とレニオン村とで業務提携をさせて頂きたいのです」

「・・・・・・」

後ろでメイドの主人である少女が得意げに鼻を鳴らしている。

今まで色々な人間がここを訪れて来た。

ちょっと前、勇者が剣を向けて討伐する等と叫んでいたし、はるか昔ではあるが、この国の領主が兵を差し向けて来た事もあった。

基本的に、敵対対象として認識されているのである。

以前、勇者に問われたことがある。

人間を襲った事はないのかと。

あの様に問われて、一瞬どう返答すべきか躊躇した。

確かに襲ってはいない。今のこの時代は、だが。

人と対立していた時代はある。互いに憎しみあい、血を流していた事も。

しかし今では少なからず好意を持って接してくれる人々もいる。その者等は、近くにある温泉に入りに来ている様だ。

だが。

「流石に一緒に仕事をしないかと言われたのは初めてだ」

蓄えた白く長い口髭を指でなぞり、優しく微笑む。

これまで後ろに控えていた少女が、もう待てないとばかりに口を出して来た。

「私の名前はアリッサ!レニオン村の村長の孫娘よっ!貴方の国の温泉を、観光地として利用させてほしいのっ!」

「・・・別にこの辺りは私の国というわけではない。かといって人間の国の領主に税を納めているわけもないがな」

この国の税に対するルールとも照らし合わせても、税を納める必要もないのだが、思う所はあるらしい。

元々彼等は、この場所で生きて来た種族。後から来た人族が勝手に設けた『国』の常識を押し付けても衝突しか生まれない。

「そんな事どうでもいいわっ。私達は貴方の温泉を借りたいの、代わりに私達は飲食及び宿泊施設の建設、温泉場迄の馬車の提供をやらせて貰うわっ!この場所で落とされたお金に関しては、そちらが3割こちらが7割。簡単な飲食店舗はの設営は両社でやりましょう」

「我々に温泉場の管理をやれと?」

「それと野生動物からの警備と排除もあわせてお願いしたいわねっ!」

後は・・・

「まぁ、細かい話は経営しながら調整していけばいいのよ」

「・・・本気で言っておるのか?」

ふっふっふっ!

5歳児らしからぬ不敵な笑みを浮かべ、手にした扇を優雅に開く。18番である。

「私は冗談は言わないわ!私には寄り道している時間はないのよっ!」

5歳児なのに、余裕のない人生だ。。

「申し訳ないが、突然紙切れ一枚持って来られて業務提携しないかと問われてもすぐには答えは出せん」

テーブルの上に置かれた書類をつき返し、真っすぐにこちらを見つめる。

「当然よねっ!経営にはお金が付きまとうものよっ。慎重過ぎる事に悪い事はないわっ!」

アリッサはめげない。

腕を組んで得意げに鼻を鳴らす。

なんだかとても楽しそうである。

答えをだせないという返答は、少なくとも計画自体を拒否しているわけではない様だ。

正直、断られたとしてもこの計画は進めるつもりではいた。

彼が『ここは我々の国ではない』と言った通り、我々のルールを押し付けるならば、この国はレニオン村やリンゴク街の他、数多くの都市を管理するドーザ帝国の一部だ。

仮に国の許可は必要でも、彼の許可は必ずしも必要とは言えない。

ここに温泉施設が作られれば人の往来は確実に増える。人が増えれば、当然もめ事も増える。

場合によっては、周辺の人々に迷惑を掛けてしまうかもしれない。

それならばいっそ、こちら側に取り込んてしまえばそんなもめ事も格段に減る。

地元の人々と揉めたくはないし、仲良くやって行きたい。

もし協力して貰えるなら、それに越したことはないのだ。

「すぐに返事を欲しいとは思わないわ。よく考えて返事を頂戴。一か月後、これ位の時刻に再度訪問させて頂くわっ!」

出されたお茶を飲み干し、二人はゆっくりと立ち上がる。

トントンと、靴を履いて外に出た。頬に冷たい風が触れる。

「気持ちのいい風ね」

眼下には、整備された広大な畑と森。いくつかの民家が目に映る。

綺麗な村だ。

絵画の様な美しさに、自然と二人の顔が綻ぶ。

と同時に、ある疑問が頭に浮かんだ。

ユーリは後ろを振り返り、微笑んだ顔のまま、魔王に問う。

「あのー、魔王さん最初に来たときから気になっていたのだけれど・・・」

少しの間をおいて、ユーリは尋ねた。

「貴方以外の住民が見当たらないのだけれど・・・」

魔王が震えた。

ビクッとなった。

確かに見渡した景色の中にも、住人らしき人達は映らない。

ここへ来る途中も、誰一人として見てはいなかった気がする。

「あのー、魔王さん?」

そっぽを向いた魔王は、バツの悪そうな顔でポリポリと頬を掻いた。

「奥さんが・・・・・・」

苦笑し、続ける。

「住人全員連れて、実家に帰った」

「は?」

全員?え?住人全て?

魔族皆兄弟みたいなノリ?

流れる沈黙、漂う息苦しさ。

振り返り、アリッサはとユーリは再度、雄大な景色を見渡す。

「綺麗な村ね・・・」

「そうですね」

二人は、空気を読んだ。

私達は何も聞いてはいない。

人生、色々あるさ。


『魔王、グッジョブ!』

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