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魔王と、娘と、勇者と、全部。

茶室を思わせる落ち着いた空間。

障子越しに差し込む柔らかな陽の光が,照らされて熱を帯びた畳の香りを更に漂わせる。

目の前にいるのは、十歳にも満たないであろう褐色肌の小さな少女。

しかしその端正な顔立ちは、幼いながらも妖艶で。俯きどこか恥じらうその姿は、心の奥を激しく揺さぶる。

熱を帯びた頭の中が、これは現実なのかと問いかける。

「・・・あの、勇者・キクチ様?」

「は、はいっ!」

名前を呼ばれて、激しく動揺してしまった。

自分でも聞いた事ない声で答えてしまう。

目の前の女の子は、そんな僕を見て、きょとんと。でもすぐに、クスクスと笑った。

「そんなに緊張しないでください。確かに私はそこにいる魔王の娘ですけど、そんなの関係ないですから」

「あっははははっっ・・・」

なんと答えたらいいのか、思わず口元がぴくぴくしている。

僕の隣に座っている魔王(親)の顔は確認できていないが、恐らく顔面にこれでもかと立て線が引かれている事だろう。それとも烈火の如く怒り狂っているのだろうか?

娘の一言一言が、魔王の命を削っている気がする。

僕は、魔王と共に彼の領地である魔界に来ている。

魔王と対峙したあの日、近くで見ていた彼の娘・ヴァレンシアにどうも気に入られてしまった様なのである。

娘に僕の事を紹介してくれと強く懇願されたようなのだが、二人の事は絶対に認められないと魔王に拒否された様なのだ。

まぁ、魔王からすれば自分の事を討伐しに来た人間に、何故自分の娘を紹介しないといけないのか?

魔王が敵ならば、その娘も敵と認識される事は当然だ。二人を合わせるなんて危険極まれない。

だから親心から、娘の頼みを断った。

その結果。

怒った娘と妻が、置き手紙を残して人間領における魔物全員を連れて故郷(魔界)に帰ってしまったのだ。

当初数日で折れるだろうと思っていた娘と妻の態度も、一か月以上経っても折れることなく続き、結局娘の機嫌を取る為だけに、今お見合いという形で二人は向き合っているのである。

魔王は娘の様子を見て、対峙したあの時に傷付けなくて本当に良かったと心底思った。

「・・・勇者様」

「はいっ」

言葉を選んで、少しばかりの笑顔をのせて。

「結婚を前提に、お付き合いして頂けないでしょうか?」


この世界に来る前、いや今でも自分の中の根本的にな部分は変わってはいない。

僕は自分が嫌いだった。

卑屈で自信がなくて、それなのにその現状を変えようとすらしない自分。

だから、周りから何を言われても、しょうがないと思っていた。

『暇なら、二人で映画でも行って来たら?』

親戚の家に遊びに行った時、おばさんに声を掛けられた。そしてその家の娘さんの答えが『次の言葉』だった。

「なんで『これ』と並んで街中歩かないといけないの?」

彼女の言葉に、ぴくりと目元が動く。

視線を上げると、恥ずかしいと発した彼女は、理不尽だとばかりに顔を顰めている。

私と並んで歩く事は、彼女にとってとても恥ずかしい事らしい。

直接的にその言葉を聞いた時も、さほどショックは受けなかった。

彼女に限らず、日頃からそれに似た言葉を聞いていたから。

『そうなんだ』みたいな。

まぁ、それもしょうがないのかな。とは思う。

だって人に好きになってもらう努力をして来なかったし。

髪はいつもボサボサで、服も同じもので。

今何が流行っているのか、皆は何に関心があるのか?

何も知らない。

当然だ。知ろうとして来なかったのだから。

知ろうとしなければ、何も知らないままだ。

要するに、僕は『空っぽ』なのだ。

知識も経験も、何もしないで積み重なることはない。

現状に不満があるのであれば自分自身で行動するしかないのだ。

けれど、僕は何かを特別欲しいと思った事はなかった。

友達も、お金も、将来も。何も興味がなかった。心のどこかで諦めていたのかもしれない。

寂しくはなかった。

だけど、僕はこの世界に来て、初めて必要とされた。そう感じた。そう感じさせてくれた。

この世界を助けてほしいと。あなたにしか出来ない事なんだと。

そんな中身の無い薄っぺらい言葉でも、自分の中にあった『空っぽ』が、少しづつではあるが、空っぽではなくなっていた。

一方的にこの世界へ召喚され、利用されたのだとしても、嬉しかった。

だけど、やはり心のどこかでは違うのだと理解していたのだろう。

空っぽな心が満たされていった等と、そう思い込んでいる自分を感じていた。

魔王に剣を向け、一方的な殺意を向け、どうしようもない空っぽな気持ちを向け。

騙されていると分かってはいても、拒否する事が出来なかった。

ここでも僕は空っぽのままなのかもしれない。

でも。

いま目の前にいる少女が言ったその言葉。

不躾に、一方的に告げられた『それ』。

恐らくは打算など何もないそのままの言葉の意味を、少しづつ理解していくうちに胸の奥に何か暖かいものを感じた。

好意という感情は、例え一方的だったとしてもその人自身を肯定してくれる。

しかし・・・と軽く頭を左右に振る。

相手はまだ十歳で、魔族で人間ではなくて・・・そして、僕は彼女の事を何も知らない。

真っすぐに僕を見つめる少女に対し、問いかける様に声を掛ける。

「ぼ、僕のどこがそんなに気に入ったの?」

思わず声が上ずってしまった。

動揺を隠しきれない。

それは発せられた言葉に対してなのか、それとも少女の言葉に頬を赤く染めた僕に対してなのか。

そんな僕を見て、少女は微笑んだ。


「全部」


この世界の魔族が将来の伴侶として最も重要視する条件は、容姿などの外見の見た目そのままのものではない。

魔族が重要視するもの、それはその人の内に秘める魔力である。

生物誰もが持つ魔力は、各個体それぞれに力の優劣はがある。それは生まれ持ったもので、後天的にはどうしようもない。

それは親からの遺伝によるものが大きいとされていおり、力ある者同士が生まれた子供は体内に多くの魔力を含み、強い個体が生まれる事が多い。当然その反対もしかりである。

よって力あるものはより強い力を持ち、力なきものは弱いままで、それは変わることのない生き物としての優劣を決められていた。

力こそ全ての魔族が、より強い個体を求めるのは仕方のない事だ。

それこそ魔族としての生物の根本的なもので、この世界を生き抜くための生存本能だから。

異世界から召喚された僕は、建前上、この世界を救うために呼び出された。

つまり最初からそれだけ強い力を持った個体として選別され、召喚されたのだ。

魔力の優劣が最も重要視される魔族の世界では、彼の様な存在はより惹かれる生き物として認識される。

「ぜ、全部って・・・」

「はい、全部です」

甘ったるい笑顔を全力で勇者へ向ける少女の顔は、絶対逃してなるものかという強い意志が見てとれる。

少女の傍らに座る母親らしき人物もまた、同様の視線を勇者へ向けていた。

「勇者様、うちの娘はまだ幼いですが、魔族として最も重要視される『魔力』もより強く持ち合わせており、私と夫の遺伝を継いでいるだけあって、親馬鹿と言われるかもしれませんが、容姿もそれなりに整っております」

にっこりとした笑顔をそのままに、逃がさないというスタンスもそのままに。

「うちの娘を、どうか勇者様の生涯の伴侶として娶ってはいただけないでしょうか?」

とても圧が凄い。

なるほど、内に秘めた力というものは、発した言葉にも表れるものらしい。

もしかすると、彼女らの言うところの魔力を言葉に乗せているのかもしれない。

隣に座る魔王からは別の意味での圧力を感じるが、それとは比べ様がない程、目の前にいる二人の鬼気迫る迫力に勇者・キクチは完全に飲まれていた。

キクチの年齢は既に二十歳を超えており、元々いた世界での常識を当てはめれば幼女へ手を出したが最後、『変態』のレッテルを張られる事は間違いない。いや『犯罪者』が最も当てはまる言葉か。

相手は妖艶ともいえる程の美しさを備える少女だ。常識のある方々が、常識ある言葉で、常識のある行動をとってくれる事だろう。

ただ、自身に強い圧を感じると、通常であれば選択したであろう行動が、いつもでは考えられない選択をする事も多々ある。

「いや、あの、その・・・・・・」

何故か一歩後ずさる。

額から流れる汗が、ひんやりと冷たい。

「貰って、下さるわよねぇ」

二人の声が同時にハモる。

有無を言わせぬ迫力に、僕も隣の魔王も語彙力を失い、ただただ頷くしか選択肢がなかった。


PS.後日、盛大に婚約パーティーが開かれ、二人は沢山の魔族に祝福された。

勇者キクチと魔王の娘はその晩、寝床を共にしたが何が二人の間に起こったかは、キクチの名誉の為、二人のみの秘密としておこう。

ただ一言、言わせて貰えるならば私は彼をこう呼ぼう。


この変態野郎と。

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