油断大敵です。
「や、やりやがったんダゼ・・・。」
倒れて動かないゴブリジェネラル、目の前で高らかに槍を掲げるムーア。
誰が見ても結果はわかる。
ムーアは、ゴブリジェネラルを倒したのだ。それも一撃で。
少しの間の沈黙、だがそれも森の外から聞こえる怒声でかき消される。
「・・・ハッ!?か、カイドウは無事か!?」
「大丈夫なんダゼ。心臓は動いてるんダゼ。」
「そ、そうか。」
「しかし凄いんダゼ。あのゴブリジェネラルを一撃で倒してしまったんダゼ。」
「うん!ムーアさん凄かったよ!!」
「あ、ありがとう。ただ覚えていないんだ。何だか体が勝手に動いて・・・気がついたらあいつの心臓を。」
本当にゴブリジェネラルが死んだことを確認するために、カイドウを木の下に寝かせ、三人はゴブリジェネラルの死体に近づく。
ドクドクと流れる血がゴブリジェネラルの死を教えてくれる。
終わった。作戦は成功した。
そのはずなのに・・・。
「しかし何だこの妙な感じ、ダゼ。」
「う、うん。」
「戦が終わっていないからとも考えていたが、それだけではないような・・・。」
「ほぉ。ゴブリジェネラルが殺されたか。」
流暢に聞き取れる声に一瞬の油断が生じた。
それはムーア達の知るゴブリンたちは流暢に話さないからだ。
だから人間だと思ってしまった。
その結果、声に反応する前にムーア達は吹き飛び、それぞれ木に激突する。
「カハッ!?」
打ち所が悪く、ムーアとクゥは気を失ってしまう。
「ん?一匹はまだ意識があるのか。」
「ぐ、ぐふっ。な、何者のなんダゼ?」
「その運の良さに敬意を表して名乗ってやろう。我が名はゴブリルーク。魔王様より賜った命により貴様らの村を滅ぼす者だ。」
「なッ!?ダゼ。」
ゴブリルークをパンプンは知らない。
聞いたことも、見たことも無いのだから知ることなど出来ない。
それでもわかるのはゴブリジェネラルと比べられないほどの魔力量を持つこと、何より恐怖の度合いが違う。
「念のためを思い、ゴブリジェネラルの陰に忍ばせたライフドールが役に立つとはな。存外人の子らも侮れんな。」
「ら、ライフドール?ダゼ。」
ライフドールとは装備した者の生命反応を教えてくれるアイテムである。
それ以外に使い道がないため余り知られていないが、魔王軍では違う。
常に侵略戦争を続ける魔王軍にとっては敵が死んだことを知らせてくれる有能なアイテムなのである。
「本来であるならばゴブリジェネラルには必要のないアイテム。が、予定していたファルオウルからの協力を得られなかった時点で私のプランは崩壊している。常に最悪を想定するのは正しい行いだ。貴様らと違ってな。最もこ奴は油断をして死んだがな。」
ゴブリジェネラルの頭を蹴る。
それは仲間だった者への態度ではない。
「何なんダゼ、お前はダゼ!」
「先程名乗ったが?」
「そうじゃないんダゼ!仲間の死体を無下に扱うなど同族としてあるまじき行為なんダゼ!」
「それはそちらの流儀だろ。われらゴブリンは弱肉強食が流儀。敗けた者など価値は無い。何より死体は何も感じないのが常識だ。」
「クソッ!ダゼ!」
懐のナイフを抜き、ゴブリルークへ向けて構える。
これまで湧き上がらなかった敵への本気の殺意が、今のパンプンを突き動かす。
「同族は、大切にするべきなんダゼ!」
「本気か?貴様如きが私に適うはずがないだろうよ。」
「そんなことはどうでもいいんダゼッッ!!」
逃げてばかりいたパンプンにとってこれが初めての戦闘だった。
ビギナーズラック。ムーアを見てそんな奇跡が起きるんじゃないか?
それだけを胸にパンプンはゴブリルークに斬りかかる。
だが、その刃が届くことは無い。
「愚か者だな。」
「・・・ガ、ハッ。」
振り上げたナイフが降りる前にパンプンの胴を尖ったものが貫く。
自分のお腹から広がる熱が、自分の最後の命を語るようで、パンプンは怖かった。
「先程の貴様の方が賢かったぞ。最もあの村を滅ぼすと決めた以上、誰一人として生かさないつもりだがな。」
興味のない玩具を投げる赤子のように、パンプンは投げ捨てられる。
パンプンに抵抗する力は無く、無情にも地面を転がる。
「少し話過ぎたか。しかし貴様らには感謝しよう。ゴブリジェネラルが有能ではないことを私に教えてくれたのだからな。これからはゴブリン軍の見直しも・・・ん?」
確かに感じた自分の心に干渉する何か。
辺りを見回しても誰も立っていない。
暗殺者かとも思ったが、仕掛けてくる様子もない。
気のせい、そう処理すべきかと思ったがそうはしなかった。
「貴様、何を隠している?」
息絶え絶えのパンプンに質問をするが、呼吸をするだけでも精一杯のパンプンには答えられない。
そもそもパンプンにはゴブリルークの質問の意図が分からない。
何故ならそれは作戦には無かったこと。
「・・・グルルルル・・・。」
地面の感触を確認するように、指が動いた。




