目を付けられました。です
「・・・そこか?」
ゴブリルークは警戒を緩めることなく、辺りを見回した。
そしてそれが何処にいるかをすぐに把握した。
「・・・グルルルル。」
ゴブリルークの視線の先、パンプンの影の中からそれは姿を見せた。
夜の闇よりも暗い毛並み、ゴブリジェネラルに並ぶであろう体躯そして真っ赤な瞳。
「何故そこにいるのだ?ファルオウル。」
パンプンの陰から出てきたのはゴブリルークの協力要請を拒否したファルオウルだった。
「・・・グルルルル。」
「どういう用件か聞いているんだが?」
ゴブリルークの質問に、唸り声で返すファルオウル。
明らかな敵対行動に、ゴブリルークは肩を降ろす。
「話す気も無いか。ならば邪魔だ。消えろ。」
ファルオウルの威嚇に応えるようにゴブリルークは威圧感を強くする。
だが、それでも動こうとしない。
苛立ちが、脳を刺激始める。
弱者相手ならばそのようなことは無かっただろう。
だが、曲がりなりにもファルオウルは強者。
いくらゴブリルーク自身の方が強いという自負があっても、容易に手は出せない。
「対話に応じる気がないならどけ。これ以上の邪魔立ては魔王様への反逆と捉えるぞ。よいな?」
「・・・グルルルル。」
「チッ。ならば死ね!」
左手にみるみるうちに魔力が集まり、炎が膨れ上がってくる。
本来ならそこまで必要ないが、苛立ちの礼としてゴブリルークはファルオウルを殺すことを決めた。
だからこそ、最大限の威力で魔法を放とうと考えた・・・が、放たれることは無かった。
「グェッフフフ。貴方のその忠誠心には感涙を禁じ得ませんね~。」
「ムッ?その声は・・・もしや!?」
再びパンプンの影が揺らめく。
ゆっくり、ゆっくりとそれは偉業の姿へと形を変え、ゴブリルークの目の前に現れる。
「お久しぶりですね~。ゴブリルークさん。」
忘れもしない。自分達の進化の可能性を示してくれた御方。
ゴブリルークは即座に膝をつき、頭を垂れる。
「お声を掛けて頂き、感謝の極みでございます。デ・メキン様。」
「グェッフフフ。そう畏まらなくていいですよ。ファルオウルさんも威嚇の必要はありません。」
「ハッ。」「御意に。」
「さてさてゴブリルークさん。貴方に命じられた作戦の方はどのような進捗出すかね?」
「恥をさらす結果となりますが、ゴブリジェネラルは死亡しました。村の方も未だに堕とせていません。貴方様の期待を裏切る結果をお見せしてしまい、誠に申し訳ございません。デ・メキン様。」
「いえいえ!むしろ良かったですよ~。おかげで貴方の首を吹き飛ばさなくて済みました。私、運だけはいいんですよね~。グェッフフフ。」
「は、はぁ?」
「グェッフフフ。実はあの後この村について色々と調べましてねぇ。最初こそ単なる好奇心でしたが、これがこれが実はこの村は魔王様のお気に入りだと知りましてね。いや~危ない危ない。」
「ッ!?そ、そうとは知らず!誠に申し訳ございません!」
「謝る必要はありませんよ。これは私が貴方に命じた作戦。むしろ謝罪をしなくてはなりません。」
「滅相もございません!亡きゴブリジェネラルも村を壊さずに済んで良かったと思っています!」
「そうですか~?なら良かったです。」
笑っていることを示すように目玉が湾曲する。
いまいち表情が読みずらいため、目玉の動きで感情を知るしかない。
「ところで・・・この現状はいかがなさいましょうか。」
「そうですね~・・・おや?」
デ・メキンはゆっくりとカイドウに近づき、顎を軽く持ち上げる。
「ふむふむ。これは・・・。」
「その人間がどうかしましたか?ま、まさか!?その人間が魔王様のお気に入りだったのでしょうか!?」
「いえいえ。魔王様は強者にしか興味を持ちません。こんなところで気を失っている少年に興味などないでしょう。ですが・・・。」
触手型の目玉がゆっくりとカイドウの頭へと延び、ぐるりと巻き付く。
「うんうん。やはりそうですか!いやはやこれは・・・グェッフフフ。」
「あ、あの、その人間が何か?」
「ゴブリルークさん。私が思う人間の価値ってなんだかわかりますか?」
「へ?い、いえ!私ごときの頭では貴方様の崇高なお考えは・・・。」
「ファルオウルさんはどうです?」
「強い個体。」
「良い答えですが、我々魔王軍にとっては強い個体の人間などいません。皆等しく弱者です。では、そんな人間に私が見いだした価値。それは職業です。」
「職業、ですか?確か人間が産まれながら持っているというあの?」
「ええ。その中でも特にレア物に価値を見いだしていましてね~。この少年はそのレア物です。」
「な、なんと!?」
「それも、こんな職業は見たことないですね~。これは楽しくなりそうな気がしますよ。グェッフフフ。作戦の変更ですゴブリルークさん。貴方とファルオウルに新たな作戦を命じます。」
この日、滅ぶはずだったココ村はゴブリン軍団の撤退という奇跡のような幕引きで終わった。
困惑する兵士を置いてきぼりにしてに民は喜びの声をあげた。
後にこの戦いは奇跡の一戦として歴史に刻むことになるが、今は置いておくことにする。




