恐怖を乗り越えて。です
私は、何をしている?
「アニキッ!!?」
「しっかりするんダゼ!!」
どうしてこの体は動いてくれない?
どうして私の足はあいつの下へ走ってくれない?
どうして私の腕は敵を斬りつける動きをしてくれない?
「人間の浅はかな知恵だったナ。」
カイドウと約束したのに。
ここに来たのはその為なのに。
「だが、この俺に挑んダことは誉めてヤロウ。その敬意を表シテ、この一撃で屠ってヤル。」
私は・・・。
「アニキーーーッッ!!!」
あれからどれだけの時間が経ったのだろう。
いや、きっとこの牢屋に入ってからそれほどの時間は経っていない。
肌寒さは感じるものの凍えるほどでもない。
だが、情報は時間が命。早急にバルギウス様に知らせるべきだ。
「ここから抜け出る方法は・・・あったら苦労しないな。服も取られてあるのはこの肌着。牢屋の中は布団にバケツのみか。使えそうな物は無いな。おまけに・・・。」
「しっかりいる。確認完了。」
時間おきにメイドが確認しに来る。
話して篭絡できるほど甘くはなさそうだ。
「無意味に時間を過ごすしか無いのか?」
そんなことを考えていると、扉の開く音がする。
不思議に思う前に座っていたメイドが立ち上がる。
「ご主人様。」
「ご主人?ということは!?」
「すまないが席を外してくれないか。」
「カイドウ!!」
「少しだけムーア先生と話したい。」
カイドウの頼みを逆らうことなど出来ないメイドはすぐに退出した。
「カイドウ!ここから出してくれ!すぐにでもバルギウス様に知らせなければこの村は!頼む!」
「落ち着いてくださいムーア先生。そのことでお話があって来たんです。」
「は、話だと!?」
「はい。まず初めにこの話は既にバルギウスには話してあります。もちろんゴブリジェネラルのことも。先程オルゲンも交えた作戦会議の末、決まったことがあります。それは僕たちでゴブリジェネラルを倒すということです。」
「僕たちでって・・・まさか!?」
「はい。僕とムーア先生です。」
「無茶苦茶だ!君と私とで倒せるほどゴブリジェネラルは甘くは無いんだぞ!わかってるのか!?」
「わかっています。ですがこの方法でしかこの最悪の局面を乗り越えることが出来ません。」
「・・・どういうことだ?」
カイドウはバルギウス達とのやり取りを話した。
現状ではココ村の戦力でゴブリジェネラル率いるゴブリン軍団を倒すことは困難なこと。
オルゲンの進言により勝つ可能性があるのがゴブリジェネラルを暗殺すること。
暗殺するための力が無いからカイドウとムーアで何としてでもゴブリジェネラルを倒さなければならないことを。
ここまで話したが、謎の四人組については意図的に話さなかった。
それはムーアに余計なことを考えさせない為のカイドウの配慮である。
「・・・なるほど。一応は考えなしの作戦ではないのだな。」
「はい。」
ムーアはカイドウの話しの素直に耳を傾けてくれた。
所々に思うことはあったのだろう。
だが、それでも最後まで黙って聞いてくれた。
「勝てるのか?カイドウ。前もって言うが私は勝てるとは到底思えないんだが・・・。」
「勝てる勝てない以前の問題なんです。ココ村を見捨てることが出来ない以上、勝つしかないんです。」
「・・・そうだな。私としたことが弱気になっていた。わかった!オルゲン殿が考えてくれたこの作戦に私も命を賭けよう。」
「お願いします。僕が倒せればいいんですが、万が一の場合はムーア先生にお願いしますよ。」
そう、あの時約束した。約束したんだ!
「クッ!もうダメなんダゼ!クゥ坊!俺様たちだけでも逃げるんダゼ!」
「イヤだ!オラはアニキを見捨てないィィッ!」
「馬鹿野郎なんダゼ!!!」
何をしているムーア!動かせ!足を!腕を!引きちぎれても壊してでも動かせ!
「アアアァァァァァァァァァッッ!!!」
雄たけびを上げ、自分を叱咤すれば動く。
足が動く。自分が思い描くよりも早く、鋭く力が出てる!
「ムッ?」
ゴブリジェネラルとカイドウの間に!そして!!
「ハアアァァァァァァァァァッッッ!!!」
守れ!カイドウを!!!
振り下ろされた大剣を槍で受け止める。
想像通りの重い一撃に意識が持っていかれそうになる。
だが、奇跡は起きた。
たったの一回なのかもしれないが、奇跡は起きたのだ。
「ナン・・・ダト・・・!?」
ゴブリジェネラルの攻撃をムーアは防いで見せたのだ。
それはゴブリジェネラルにとっては予想できなかった結末。
「ハアアァァァァァァァァァ!!!」
防いだ大剣を横に受け流し、そのまま心臓を一突きに貫く。
目の前の非現実な光景に目を奪われたゴブリジェネラルは対応できない。
「・・・グブッ。」
嫌な音を奏でながらムーアの手に心臓を貫いた感触が伝わる。
痛みから逃れるように後ずさり、ゴブリジェネラルはゆっくりと膝から崩れ落ちる。
何が起きたのかわからない。
けれど勝った。その気持ちがムーアの心を、頭を支配する。
勝利を宣言するように、ムーアは槍を天へと掲げた。




