初めての食べ物です
ト・クゥが指さした方角を歩き続けると、だんだんと木々の間が開き、道が広くなっていく。
そして目の前に巨大な岩壁が姿を見せる。
広くなる道も相まって、岩壁は待っていたかのよう勇壮に見える。
「すごいな・・・。」
自然の力強さを全身に感じる。
鬱蒼とした森の中とは比べ物にならないような、美しい空気を肌に感じる。
「すごいよね。オラも一瞬で目を奪われたもん。」
岩壁を見回すと、先が見えないほど続いている。
(ここを掘って住処にするのも悪くねぇな。・・・水の問題があるか。)
ぐぎゅるるぅぅぅ~。
「ご、ごめん!?」
ト・クゥ腹の音を聞き、ここに来た目的を思い出す。
「そういえばカエルだったな。どこにいるんだ?」
「えっと、ちょっと待てね。」
一歩前に出て、岩壁を細かく見ている。
自分にできることもないから待っていようと思ったが、二人でやった方が速いと思い、ト・クゥに聞く。
「何をしているんだ?」
「えっとね、岩ガエルは岩に穴をあけて巣を作るんだ。ほら!あそこ!」
指の先を見ると、穴が二、三個開いている。
「あれか。んで?どうやって取るんだ?」
「虫を紐で結んで、穴の中に入れて、食いついたら引っ張り出すんだ。」
「虫?何でもいいのか?」
「好物は蟻だから蟻がいいんだけど・・・。」
当たりにそれらしい影は見えない。
というよりも虫そのものが見えない。
ト・クゥはその辺の石をひっくり返したり、木を隈なく探すが、虫を見つけることはできない。
カイドウも探してみるが、不思議なことに一匹も見つからない。
思い返してみれば、この森で虫を一度も見ていない。
(変な森だよな。虫なんてそこら中にいると思うんだけど・・・いねぇな。)
「ごめん。」
小さな声が聞こえる。
「オラが期待させるようなことを言わなければ・・・。」
「気落ちすんなクー。カエルがいる以上、生きていくのに食わなきゃカエルだって生きていけない。どこかに虫はいるはずさ。」
「オラの名前?」
「ん?あ、ああ。ト・クゥって言いにくいからお前のことは“クー”って呼ぶことにする。・・・ダメか?」
「ううん!そんなことないよ!へへへ。オラはクーか。へへ。」
「笑ってねぇで他の方法を考えるか、虫を探せよ。」
「うん!」
(と言っても見つかんねぇんだよな。虫探しはクーに任せて僕は他の方法を考えるか。)
座り込んで、もう一度記憶の海に潜る。
何かしらのいい方法を探して。
だが、カエルの捕まえ方なんてゴム手袋で触れましょうとか、川原や田んぼで耳を澄ましてみましょうなどばかりしか思い出せない。
役に立ちそうな記憶が無いことをショックに思いながらも、ある記憶が思い出される。
それは小学校のクラスでのことである。
『なぁ!知ってるか!』
『何をだよ?』
クラスでは基本的に顔を伏せていたから誰が話しているかまでは知らない。
『俺、クワガタを確実にゲットできる方法を知ってるんだ~いいだろ~。』
『はぁ?そんなもんは林に行けば捕れんじゃん。』
『馬鹿だな~確実だぞ?確実!』
『だから、林に行けば確実に取れるだろ?』
『いやいやお前さ、クワガタが樹液に吸いに来てなかったら捕れねぇじゃん。』
『そりゃあそうかもしんれないけど。』
『そんな時でも確実に取れる方法があるんだよ!』
『どんな方法だよ?』
『知りたいか~?』
『いいから教えろよ!』
『へっへ~ん。実はな、あいつらは煙が苦手なんだよ。だから、巣穴に煙草の煙を流し込んでやれば自分から出てくんだよ。どうだ?すごいだろ?』
『確かにすげぇけど、それって大丈夫なのか?クワガタに害はないのか?』
『そ、それは・・・わかんねぇ。』
『なら止めとこうぜ。』
『・・・だな。わりぃ。』
『気にすんなよ!』
目を開けて、今の記憶を反復する。
(なるほど、煙か・・・。)
「クー、煙を起こそう。」
「煙?何で?まだカエルを捕まえてないよ?」
「そのカエルを捕まえるためだよ。」
「へ?」
「いいから火を起こすぞ。スキル頼む。」
「う、うん。」
昨日と同様に石で円を作り、中に木の枝や葉っぱを大量に入れる。
少し離れ、様子を見ることにする。
「スキル!火の弾!」
ト・クゥの指の先から野球ボールサイズの火の玉が現れ、円の中に飛んで行く。
着弾した瞬間、勢いよく燃え出す。
「おおーー!」
「へへへ。」
誇らしげに鼻の下をこする。
火が起きたのを確認してすぐに、ある物を作り始める。
太めの枝に、蔓をぐるぐると巻いて行く。
蔓を巻くとき、葉っぱを何枚も絡まらせる。
「よし。」
簡易的ではあるが、松明の完成である。
火に近づけ、松明に火をつける。
その松明を穴の下に置く。
葉っぱが燃え、白い煙がもくもくと立ち込める。
「アニキ、何をするの?」
「静かに。見てろ。・・・ん?アニキ?」
「うん。オラ、アニキのこと“アニキ”って呼ぶことにするよ!へへ。いいでしょ?」
「・・・まぁいいか。」
煙がゆっくりと穴の中に入って行く。
その様子を見て、心の中でガッツポーズをしつつ、気を引き締める。
(ここからが勝負だな。)
煙が穴の中に入って少し経ち、“グェッ!?”という鳴き声と共に数匹の影が穴から飛び出してくる。
「今だ!行くぞ!」
「うん!」
二人は茂みから飛び出し、飛び出してきた影を掴む。
「取った!」
「こっちも!」
「まだいるぞ!逃がすな!」
もう一匹捕獲して気づく。
(マズった!?入れ物がない!?)
準備不足により、何匹かの岩ガエルは逃げていく。
その様子を見ることしかできず、悔しく思う。
「やったよアニキ!カエルが捕れた!」
見せるように二匹のカエルを掲げる。
その無邪気な様子にひとまず、捕まえたことに喜んでおくことにする。
「そうだな。僕も捕まえたぞ!早速食おうぜ!」
「うん!」
「しかし・・・。」
岩ガエルと呼ばれたカエルは前世で言うところのウシガエルに似ている。
体もそこそこに大きく、力もまぁまぁ強い。
だが、腹を押さえて掴むと動かないのは少し違うような気もする。
(岩ガエルなんて名前だから硬いのかと思ったけど、別にそんなことはないな。)
腹はむしろぶよぶよである。
「早く食べようよ~アニキ。」
「慌てるなよ。」
調理器具なんて無いので、片足でカエルを一匹抑えつつ、もう一匹のカエルを口から枝を刺し、串刺しにする。
入れ物はないので、捕まえた四匹全部串刺しにして、焼く。
「生で食べないの?」
「生で食べて腹を壊したらどうすんだよ。焼いた方がいいんだよ。」
「そっか~アニキの言う通りだね。ここにはオラたちしかいないし、薬草も無いしね。」
「薬草なんてあるのか?」
「あるけど苦いよ?」
「苦いって言ったって怪我とかしたら必要だろ?苦いのは我慢だ。薬草はどこにあるんだ?」
「わかんない。」
「わかんねぇのかよ・・・。」
「薬草は買うものだと思ってたから。ごめん。」
「買うものって・・・誰が売りに来るんだよ。」
「シュカさん。」
「シュカさん?」
「シュカさんはエルフなんだけど、オラのいた集落に定期的に薬草を売りに来てくれるんだ。」
「ふ~ん。」
(まぁ魔王がいるくらいだ。エルフもいるか。しかし、そうなると・・・。)
「薬草は自分たちでどうにかするしかないな。」
「え?何で?シュカさんから買えばいいじゃん?」
「どうやってだ?」
「へ?」
「そのシュカさんっていう奴はどうやってここに来る?どうやって薬草を買う?悪いが僕は無一文だぞ。」
「そ、そっか。薬草買うにはお金がいるもんね。」
「・・・まぁいい。とにかく怪我しないように注意しながら生活するぞ。薬草の早期発見を今後の目標にしよう。後、水な。」
「うん!わかったよアニキ。」
「さらに・・・。」
振り返り、見上げる。
「僕はここを住処にしようと思う。クーはどうだ?反対か?」
「そんなことないよアニキ!ここにしよう!」
「よし、なら掘るぞ!」
「うん!」
気合を入れていると、何とも言えない匂いが鼻孔をくすぐる。
「いい匂い~。」
どうやらクーにはいい匂いらしい。
「そろそろ焼けたか?」
一匹取り上げると、肉が焼ける音が聞こえる。
息を吹きかけ、少し冷ましながら一口噛んでみる。
少し硬いが、噛み切れなくはない。
遠慮せず、豪快に喰いちぎる。
腹を喰いちぎったため、贓物の苦みを多少は感じるがそれが良い味につながる。
咀嚼してわかる鶏肉のような旨味。
焼いただけなのに、程よい塩分。
つまり、美味である。
「う、うめぇ・・・。」
「あ、アニキ!お、オラも!」
「ほれ。」
焼けた一匹を渡すと、豪快に食いつく。
熱かったのか一度、口を外すが、すぐさま息を吹きかけ豪快に喰いちぎる。
「美味ーーーーーーーーーーー!!」
美味しさのあまり大声で叫び、そして勢いよく食べていく。
「慌てんなよ。こういうのは味わって食うんだ。」
「は~い。」
一匹ペロっと食べた後、二匹目は味わって食べる。
「予定を変更するぞクー。」
「んぐ?どうすんの?」
「まず、捕まえたカエルを入れておく箱みたいなものを作ろう。」
「それならオラが作るよ!」
「なら任せた。僕はこの辺にあの岩壁を掘れるようなものが無いか探してみる。」
「うん。」
二人は残りのカエルを頬張り、立ち上がる。
「あ、作ってる間、火の管理も頼むぞ?」
「わかったよアニキ。」
早速二人はそれぞれの行動に移った。
ト・クゥは岩ガエルを入れておく箱作り。
カイドウは掘るための道具探し。
いつの間にか二人は仲間になっていた。




