腹の探り合いです
「まさか君からここに尋ねてくれるとは思わなかったよ。」
太陽が起き始めた頃、バルギウスは応接間で兵士たちと共にカイドウを出迎える。
朝ならバルギウスだけと話せるかもしれないというカイドウの思惑は外れてしまった。
(いつ寝てんだよこいつらは。)
促されるがままにカイドウはソファーに座る。
「さて。早速で済まないが、用件は何だい?間違っていたら謝るが、君は僕を嫌っていると思っていたからね。これでも驚いているんだ。」
変わらない作られたような笑顔に、カイドウはため息すら出てこない。
「・・・まぁ、お前のことは嫌いとまでは言わないが、好きではないな。」
「そうか!嫌われていないようで良かったよ。」
バルギウスは大袈裟に安堵する。
「それで。用件は何かな?」
話を進めたがるバルギウスに、主導権を握られないようにカイドウは考えながら話を始める。
「まず確認をさせてくれ。お前はどこまで知っているんだ?」
「うん?どこまでって・・・何をだい?」
「駆け引きは得意じゃないからハッキリと言うぞ。リリアナの考えた案を採用し、町のゴロツキ達を冒険者の様にしただろ?それで何を得たのか。それが聞きたい。」
バルギウスの表情から一瞬だけ笑みが消えるが、すぐさま満面な笑みを浮かべながら肩をすくめる。
「それが何もだよ。彼らにかなりのお金を賭けたが、彼らは何の情報も持って帰ってこなかったんだ。悲しいことにね。」
(どこまで本気で言ってるんだこいつ?)
「それよりもカイドウ。君は何かを得たのかい?」
見透かそうとするバルギウスの視線から目を外し、天を仰いでから話す。
「期待しただけだ。何かしらの情報があれば、教えて欲しいと思ってね。」
心苦しい言い訳。
そんなことはバルギウスも瞬時に理解できる。
が、確証が無いのであえて踏み込まずに話題を逸らす。
「そう言えばクリンは元気かい?」
「元気なんじゃないか?毎日多大な訓練メニューをくれるよ。」
「そうかそうか。元気なら何よりさ。最近会っていないからね。多少は心配してるんだ。」
バルギウスの会話に、兵士たちも理解ができなくなってくる。
「クリンはさ、本当は根の素直な優しい子なんだよ。愚直で何でも信じて。だから僕の妹の護衛に推薦したんだ。」
「・・・何が言いたいんだ?」
「どうして、この場にクリンは来てないんだい?」
バルギウスの雰囲気ががらりと変わり、背筋に冷たいものを感じる。
「さぁな。忙しいんじゃないか?」
カイドウは動揺を見せないように、慎重に答える。
「ふ~ん。そっか。なら、今度は僕から君の家に尋ねようかな。」
「それはやめたほうが良いんじゃないか?」
「何でだい?何か隠しごとかな?」
「いいや。単なる助言だ。僕はともかく、リリアナはお前のことが嫌いだからな。」
「・・・ふふっ。確かに。この前彼女を口説こうとしたら簡単にフラれたよ。」
(・・・は?え?口説く?誰が?バルギウスが?誰を?リリアナを?マジでか!?)
心の中によくわからないモヤモヤが生まれそうになるが、カイドウは話題を変更してそれを見なかったことにする。
「さてと。冗談はここまでにしてだ。本題がある。」
腹の探り合いを止めたカイドウをバルギウスは真剣な表情で迎える。
「・・・今朝方、パンプンとクゥが慌てて帰ってきた。」
バルギウスはカイドウの表情を読み、嘘ではないと判断し、兵士一人に地図を持ってくるように促す。
「慌てて帰ってきた?それはどういう意味かな?」
「ゴブリジェネラル。」
ピクッと、眉が動き前傾姿勢になる。
「どうやらコンガの森の奥からゴブリジェネラルとかいう奴が、大量のゴブリンどもを引き連れてこの村に進行してきているらしいんだ。」
あえてカイドウはゴブリルークの存在は隠す。
「ゴブリジェネラル・・・それは本当かカイドウ?」
‟ゴブリジェネラル”という言葉に他の兵士は動揺を隠せていない。
唯一バルギウスだけが冷静に考えている。
「詳しいことは知らない。ただクゥ達からそう聞いただけだ。確証もない。だからお前が何か知っているかどうか聞いたんだ。」
筋が通っているように思える為、バルギウスはカイドウの話しを信じ始める。
「ゴブリジェネラル。昔大臣に勧められた本に書いてあったな。ゴブリンの中で真の強者だけがゴブリジェネラルになれると。そしてゴブリジェネラルは人間と同じように武器の扱いに長け、その強さはオーガすらも超えると。」
(は?マジで?オーガってあのオーガですか?前世の同級生がオーガの強さを熱く語ってたなぁ・・・。そのオーガですか?)
「ゴブリジェネラルだけでも厄介な存在なのに。それに加えて大量のゴブリンか。大量と言ったが、具体的にはどのくらいだ?百か?それとも千?」
「さっきも言ったが詳しいことは知らないんだ。だが、最悪の想定はしておいて損はないだろうな。」
「・・・そうか。」
「た、大変です!!」
地図を持ってくるはずの兵士が大きな音を立てながら部屋の中に入ってきた。




