カイドウの決断です
「さて、余所者がいなくなったところで。」
リリアナが手を叩くと、応えるように全員集合する。
「ここからが本題よ。皆の意見の総意で、今後の行動方針を決めましょう。」
皆は静かに頷く。
「まずは私から。結論から述べると、逃げの一択ね。この村に未練も無ければ、バルギウスに恩もない。家を失うことや食料の確保が難しくなることなど、課題は山のようになるでしょう。でも、それが元々の生活だったんだから気にしないわ。」
ララも同意見のように頷く。
「あたしもそれには同意見だよ。勝てる見込みがない以上、ここに留まるよりかは逃げた方が生きられる。」
「わ、わたすも!」
リリアナの意見に早速カミラとミムルが同意を示す。
「私たちの総意としても、リリアナお嬢様に付き従う所存でございます。」
(あの人は確か・・・メイド長のミネルバさん、だったかな?)
ミネルバの言葉に、残りのメイドたちも頭を下げて同意を示す。
「お、オラも!」
「おれさまは元より、目的があるんダゼ。」
少し遅れてクゥとパンプンも同意する。
残るカイドウとクルミ、そしてオルゲンをゆっくりと見まわしてからリリアナは口を開く。
「貴方達はどうなのかしら?」
(どう?って聞かれてもなぁ。正直、戦うにしてもまだまだ力不足で勝てるビジョンが見えないのが現実だ。理想を語れば戦ってこの家を守りたいって胸を張れるけど・・・正直、今回は分が悪すぎるよな。)
「ワシはリリアナ殿に従うぞ。」
カイドウが悩んでいる間にオルゲンは答えを決める。
「確かに、この村に思い入れはある。が、今のわしが忠義を尽くすべきはリリアナ殿とカイドウ殿のみ。天涯孤独の身であったワシに、ここに残る理由は無いな。」
「そう。」
「じゃが、もし願いが叶うならばじゃ。願いが叶うならば避難民を募りたいと思うぞ。」
「避難民を?どうしてかしら?」
オルゲンは髭を撫で、一部の兵士たちの顔を思い出す。
「カイドウ殿の強さに惚れたのはワシだけではないからだ。他にもいる逃げたい者を受け入れてやるべきだと判断したまでよ。」
オルゲンの言葉でリリアナの脳裏にも一人、ある人物が浮かぶ。
「・・・そうね。バルギウスの自己満足に付き合う必要はない。いいわ。明日の夕方までに募集をかけてちょうだい。」
「感謝するぞ。」
「私は。」
オルゲンが頭を下げる前に、黙っていたクルミがようやく重い口を開く。
「正直迷ってる。そりゃさ、勝てないっていうのもわかるんだ。けど、ようやくできた仕事や知人、安心して暮らせる場所。何よりも奇跡が起きるんじゃないかって言う思いも捨てられないんだ。」
元気で明るいのが魅力的な彼女らしくない寂しそうな顔。
その気持ちをリリアナは理解できてしまう。
リリアナだって好き好んで逃げたいわけではない。
勝てる希望があるのなら、それが限りなく小さいものだったとしても、リリアナは戦うことを選択しただろう。
だが、今回の場合はそれすらないほどの強大な敵。
折角あの地獄から這い上がれたのに、またしても地獄に落ちることを、リリアナは許せない。
何よりも・・・カイドウを失いたくない。
「・・・無理する必要はないわクルミ。貴方は貴方なりの選択をしなさい。それを責めることも避難することもしないし、ここにる全員にそれをすることを私が許させない。」
「リリアナ・・・。」
「でも、もし私の我がままを、聞いてくれるのなら・・・一緒に逃げて欲しい。家族になってくれた貴方の最後を、私はまだ見たくないわ。」
リリアナの悲しさを感じさせない微笑み。
声を聞けば、涙を堪えてることぐらいわかるのに。
その思いがクルミに痛いほど刺さり、答えを保留にさせた。
残るはカイドウのみ。
「さぁ、答えを決めてちょうだいカイドウ。ここまで色々語ったけど、全ての決定権は貴方にあるわ。この家族の長は貴方よ。私たちは貴方の決定に従うから。」
リリアナは言い終わると、腕を組んで目を瞑る。
(ちょっ!?おまっ!?今さらそんなこと言うか!?普通ッ!?そんな命の責任を僕だけに押し付けるなよ!!ふざけるなッ!僕は自分の命すら軽く見た前科があるんだぞ!?馬鹿野郎!!)
文句を言いたかったが、カイドウは表情を変えることもなく皆を見回す。
全員の視線がカイドウに集まり、最良の決定を望んでいるのが伝わる。
その視線から逃げるようにカイドウは立ち上がり、窓から外を眺めるフリをする。
(ど、どうすんだよ・・・僕が決める?ここまでリリアナが勝手に決めてきたのに?そんなもん逃げる以外に選択は・・・でも・・・。)
窓の反射に、自分ではなくムーアの顔が一瞬映る。
「・・・そうだな。」
覚悟を決め、元の位置に戻る。
「決まったのね。」
「ああ。決まったよ。でも最後の確認。僕の決定には従うんだよね?」
「ええ。貴方が戦うのなら私たちも戦うわ。」
「わかった。ならば僕の選択は・・・。」
カイドウが決めた選択に、リリアナの怒声が響くのであった。




