魔王の腹心、デ・メキンです
ディアナたちは魔法攻撃とわかると、即座に背中合わせに立ち周囲を警戒する。
「ひ、姫様!?」
「落ち着きなさい。これは敵の罠だったのです。私たちはもう敵の手のひらの上、慎重に行動しなければなりません。」
「どのように動きますか?」
神経を研ぎ澄まし、辺りを見回してからディアナは口を開く。
「これほどの魔法攻撃です。術者は近くにいるでしょう。その術者さえ倒せば・・・。」
ディアナの言おうとしていることは他の兵士たちにも伝わる。
だが、その肝心の術者の姿が見えない。
ディアナ自身、自分の言葉を強く信じている。
けれど、気配すら感じないとなると・・・。
「ディ、ディアナ様、術者が外にいる可能性は・・・。」
ディアナがわざと言わないで置いた言葉を兵士の一人が話してしまう。
そう、それは最悪の展開。
術者が近くにいることは確定的だろう。
だが、それが内側だとは言い切れない。
外側にいる可能性だってあるのだ。
が、その可能性を話してしまえばここにいる自分たちに出来ることは無い。
それは不安や恐怖から始まり、最終的に絶望につながる。
だからディアナはあえて言わなかったのだ。
「ど、どうなるんですか姫様!?」
「アタイらはいったい・・・。」
動揺し始める兵士たちにディアナは唇を噛む。
生真面目な性格のディアナに嘘はつけない。
だから先程の兵士に言葉を否定することも出来ない。
何も答えないディアナに増々不安が募り始める兵士たち。
震える口を開こうとした時だった。
「グェッフフフ~。」
その笑い声は水のたまり場の奥から徐々に近づいてくる。
「皆、気を引き締めなさい。敵です。」
自分にも言い聞かせ、ようやく気配を見せた術者と思わしき人物に剣を向ける。
薄っすらと見える人のような影はだんだんと姿を異形に変え、その姿をディアナたちの前に見せる。
「グェッフフフ~。」
それは巨大な目の周りに無数の目がついた顔の者だった。
「始めまして人間の兵士諸君。私は魔王様の腹心、デ・メキンと申します。お名前だけでも覚えてください。グェッフフフ。」
デ・メキンと名乗る異形の者は何が楽しいのか、終始笑っている。
不気味な存在、それでもわかることがある。
(・・・こいつ、強い・・・。)
平静さを装うとしているが、額から流れる汗が止まらない。
「ここはどうです?とても心地のいい場所でしょう。それに貴方達の大好きなお酒が湯水のごとく溢れて止まらない。まさに人を怠惰にするために存在するような素晴らしい場所です。」
「貴様はいったい・・・。いえ、それよりも私たちをどうするつもりですか?」
「質問に質問ですか?まずはこちらの質問にお答えして欲しいのですけれどね。」
ない口でデ・メキンはため息を吐く。
「ま、いいでしょう。お答えしましょう。貴方達は見事に我々の試験に合格しました。おめでとうございます。」
「試験、ですか?」
「ええ。貴方達、人間の軍は我々が用意した試験用の魔王軍に見事圧勝。これはこれまでの人間の国が保有する軍では最高点です。ですので、ご褒美を差し上げようという訳です。」
話しながらもディアナはデ・メキンを倒すことを考えているが、全くと言っていいほどに攻略の糸口が見つからない。
他の兵士に指で合図し、デ・メキンの隙を探らせる。
「褒美とは、魔王軍は何をお考えなのですか。」
「ふむふむ。実に良い質問。やはり貴方を選んで正解ですねぇ。」
柔らかな雰囲気から急に寂しそうな雰囲気にがらりと変わる。
「魔王軍、というよりも魔王様が何をお考えなのか。私にもわかりかねます。」
「腹心、なのにですか。」
「ええ。腹心とは名ばかりなのです。魔王様は心を閉ざされている。誰も魔王様のお心はわからない。ただ、何を求めているかはわかっています。」
「それは?」
「それは強者です。圧倒的強者との戦いを魔王様は求めていられる。ですが、魔王様を満たすような強者に今日まで出会えていません。」
言いたいことの全容が読めず、ディアナの言葉は増々慎重になる。
「ですので、出会えないのであれば作ればよいのです。幸い我ら魔族は寿命というものが途方もなく永い。故に少しばかりの退屈な時間など耐えることは出来るのです。」
「・・・意味が分かりません。」
ギョロリと全ての目がディアナに向けられる。
「つまり褒美とは、貴方を我々が作る強者の母親に認定した、ということです。」
一瞬にして全容が明らかになる。
このデ・メキンはディアナを使って人体実験を行うということだ。
兵士たちも理解できたのか、殺気が満ちる。
「本来ならば紅獅子殿を、と考えていたのですが、あいにくのお年ですし何より男性では子は産めません。ですが紅獅子の娘である貴方なら女性ですから子も産める。何より先の戦いを見ても貴方の活躍有っての前衛達の活躍でしょう?」
ゼアンが指示し、ディアナが考えた隠された作戦。
それをデ・メキンは見破ったのだ。
それがどういうことか、ディアナの手汗が証明した。
目の前の異形に、自分の全てが見透かされているということを。
「ですので、貴方に決めたのです。グェッフフフ。」
目の前の恐怖に負けない一心で、ディアナは剣を抜いた。




