バルギウスの思惑です
カイドウ邸の外れには外の景色が見えないような作りの檻がある。
カイドウ本人は知らないが、この檻は元々ここには無かった。
「では、こちらでお過ごしください。」
「・・・。」
「武器や鎧、自害に使えそうな物は全て没収とさせて頂きます。そのような格好で申し訳ありませんが、全ては貴方様のみの安全の為です。ご理解いただけることが、幸いです。」
武器や鎧だけでなく、服も奪われたムーアは薄い肌着だけで牢屋の中におとなしく入る。
「食事は最低限とさせていただく事を先に謝罪いたします。また、どの程度の期間こちらに居ていただくかについてはお答えできませんので、ご了承ください。」
「・・・。」
「素直なご様子ですので、これで失礼いたします。2時間ごとに私たちメイドの誰かが様子を見に来させていただきますので、しっかりと生きていてくださいね。」
「・・・。」
「では、失礼します。」
檻の鍵を閉じ、扉も閉められる。
扉を閉められると、檻の中は暗く、ほとんど何も見えない。
(どうにかしてここから脱出し、バルギウス様に知らせなければ・・・。)
おとなしく入ったが、ムーアはまだ諦めていなかった。
ムーアが脱獄を思案している頃、バルギウスには別の知らせが届いていた。
「何?カナデル帝国が?」
「ハッ。魔王軍の標的になりながらも防衛に徹さず、攻勢的に進軍。目覚ましい活躍をあげていると報告がありました。」
「カナデル帝国と言えば紅獅子殿か。素晴らしい!」
気分を良くしたバルギウスは地図を広げ、詳しい話を聞く。
「なるほどな。」
「危機を感じた魔王軍は既に最強の軍を紅獅子殿の軍にぶつける模様です。」
「このまま紅獅子殿がご活躍すれば魔王軍の崩壊も容易になる。我が軍はどうだ?」
「ハッ。申し上げにくいですが、精鋭と呼べるのは数十人程度。まだまだ魔王軍との戦いは不可能かと。」
「兵士の養成はまだ不十分か。ならば少しでもいいから戦える兵士や民兵を合わせたらどうだ?少しはましに・・・。」
「なりません。民兵の数は少なく、戦える兵士と言っても百人もいません。」
「くっ。」
苛立ち、自身の爪を噛む。
「大々的に人を募れればよいのですが、ここは仮にも魔王領の中、そのようなことをすれば魔王に目を付けられましょう。」
「他に方法は無いのか?兵士や騎士、冒険者に傭兵、なんでもいい!我が軍の武力を向上させれないのか!!」
「難しいでしょう。ここは言わば陸の孤島。隣村や隣国は愚か、このココ村周辺の地図もない。我らがもう少し余裕をもってこの村に来られればまだ情報があったかもしれませんが、そのような過去のことを・・・。」
「言っても仕方がない、な・・・!?」
その瞬間、バルギウスの脳裏でリリアナの言葉が思い出される。
「そうか。」
「・・・?」
「だから冒険者か。」
「バルギウス様?」
「使えない兵士や村で愚だ撒いている奴を集めろ。」
「で、ですが?」
「なるべく早くだ。そうすれば我が軍がより強くなれる。」
「は、ハッ!!」
月を見上げ、バルギウスはリリアナの言葉を一つも漏らさずに反復し、笑みをこぼす。
「なかなかに有能だな、あの女は。」
月が見えぬほどの暗い森。
紅い幕で出来た陣営では紅獅子と呼ばれた男、ゼアンが酒を煽る。
その横でこの軍の軍師、サイモンが丁寧に魚を食す。
二人しかいない陣営はとても静かだが、外にできているテントはお祭り騒ぎである。
「ゼハハハハ!魔王の野郎、手を抜いておるな。」
「でしょうね。噂以下の強さです。」
「どう見る?」
「簡単なこと。魔王軍は人間の力を過小評価しているんですよ。だから我々に対しても同等の知識で味方を送るんです。ま、我らにしてみれば敵を減らすいい機会、加えての士気向上。良いことづくめで・・・。」
「不気味、だろ?」
「ええ。」
ナイフとフォークを置き、眼鏡の位置を正しながら中央に置かれた地図に歩み寄る。
指で一つずつ行程を確認しながらサイモンは語る。
「魔王軍にとって誤算だったのは我が軍が守りではなく攻めに転じたこと。そして将軍の強さを見誤ったことです。軍が一つ潰れたのですから、そろそろ本格的な軍が攻めてくるでしょう。」
酒を飲み干し、ゼアンも地図を見に来る。
「貴公の予想は?」
「恐らくですが、七日前後に開幕でしょう。それまでに我が軍は地形的優位を確保しなければ。」
「出来るか?」
「誰に申しているのかお分かりですか?将軍。」
「ゼハハハハ!そうだな!貴公は出来もしないことは言わんな!」
「既に冒険者を周辺探索に向かわせております。将軍のお嬢さん、ディアナ様も後方の探索に力を入れておりますよ。」
「うむ!実に結構だな。」
「カーニバル様も此度の戦で冒険者のみに被害を留めておりますし、戦力的には何も問題ありません。」
「ゼハハハハ!」
嬉しそうにゼアンは笑うと、枝で遮られた空を見上げ、滾る思いを拳に乗せて天を殴った。




