姿を見せる、ゴブリルークです。
「ゴブリルークサマ。」
小さいながらも森の中に築かれた城。
その城壁の上に、ゴブリルークは姿を見せる。
城壁の下で頭を下げるゴブリンやゴブリメイジ、ゴブリライダー、そして見たことの無い種族。
同じように城壁の上で頭を下げている他のゴブリンとは違う者たち。
皆がゴブリルークにかしずく。
その様子を冷静に見回し、紳士服に似た服を着たゴブリンが椅子を差し出し座る。
「皆の者よ、気を休めよ。楽な姿勢でよい。」
ゴブリンとは違い流暢にゴブリルークは話す。
「ゴブシードよ。」
「ハッ。」
先程の紳士服に似た服を着たゴブリンがゴブリルークの前に立ち、頭を下げる。
「報告があるそうだな。皆の者に聞こえるように報せろ。」
「ハッ。オオセノママニ。」
懐から巻物を取り出し、広げて読み上げる。
「マズ、ファルオウルニツイテデスガ、キョウリョクヨウセイハキョヒサレマシタ。」
ゴブシードの言葉に他のゴブリンたちから罵詈雑言が飛ぶ。
ある程度の間を開けて、ゴブリルークが手をかざして静かにする。
「やはり望めぬか。あの犬っころ共は魔王軍の正規軍ではないからな。致し方あるまい。」
「発言の許可ヲ。」
ゴブリルーク並ではないが、他のゴブリンよりも比較的流暢に話す重鎧に身を包んだ巨漢のゴブリンが手を挙げる。
「よい。申せゴブリジェネラル。」
「御意。前々カラお聞きしたかったのデスガ、正規軍とそうでない軍とは何なのデスカ?」
「うむ。良い質問だ。皆の者もこの際だハッキリと覚えておけ。」
ゴブリルークは立ち上がると空に巨大な絵を二つ描いて見せる。
片方は真っ赤なゴブリンの絵、もう片方は青い犬の絵である。
「我ら魔王様に認められし正規軍には主なルールが二つある。」
指を鳴らすと、二つの絵の下に文章が浮かび上がる。
「一つ目が絶対の服従。これは上の者の命令は絶対順守ということだ。しかし、状況下に影響を受ける。魔王様が治める魔王領ではもちろん魔王様の命令は絶対だ。しかし、この場においては私が上の者。つまり皆の者は私の命令が優先されるということだ。」
納得するようにゴブリンたちは頷く。
「そしてもう一つが、仲間内の裏切り行為の御法度。言わずもがなだが、魔王軍は一枚岩のように見えて違う。皆が皆上を目指し、切磋琢磨している。だが、それはあくまで正々堂々。卑怯な手や裏切り行為に当たる味方を傷つける行為は即死罪。私たちは愚かで醜い人間とは違う。理性ある魔族だ。そのことを肝に銘じろ。」
真っ赤な絵を消すと、青い絵を拡大する。
「では正規軍でないものとは何か。それは私たちのように魔族ではあるが、魔王様に認めれれていない軍のこと。正確に言えば、群れと呼ばれるものだな。今回の場合はファルオウル、つまりファルムの群れだな。こいつらは私たちの命令に従う理由はない。故に自由。しかし、逆に言えば私たちが手を出しても良いということ。だからこそオーク共の阿呆は正規軍ではないエルフを襲えるのだ。」
感動したようにゴブリンたちから賞賛の拍手が起こる。
「ゴブリジェネラルよ。お主の疑問は晴れたか?」
「ハイ。有難きお言葉デシタ。」
深々と頭を下げ、感謝の意を示す。
「では報告を続けろ。」
「ツヅイテノホウコクデス。ツイニニンゲンノサトヲミツケマシタ。」
「ククク。ようやくか。」
ゴブリルークは下卑た笑みを見せる
「クワシクハゴブニンカラオキキクダサイ。」
黒い装束に身を包んだ額に傷のあるゴブリンが膝をつき、報告する。
「報告。人間集落アリ。規模、中程度。兵士練度、低イ。殲滅、容易。」
単調な話し方だが、他のゴブリンよりは聞き取りやすい。
「ふむ。」
ゴブリルークは考えるようにひじ掛けを指で叩き、ゆっくりと目を閉じる。
沈黙の間が数分続くと、またゆっくりと目を開ける。
「あの集落はかつて私たち魔王軍に打撃を与えた英雄の男・・・名を、ダランと言ったか。その男の産まれた集落。阿呆共のせいで魔王様はご立腹だったと聞く。殲滅することは容易かもしれないが、それは許されない。魔王様は人間から強者が生まれることを望んでいる・・・なかなかに厄介な話だ。」
「オッシャルトオリデス。ゴブリルークサマ。」
「だが、阿呆共でも私たちの同族。人間に対し、多少の怒りを覚える。さて、いかがなものか・・・。」
「許可ヲ。」
「申せ。」
「贄を出させてはいかがデショウカ。我らの秘密裏に溜め込んでいる人間のメス共の数が減ってイマス。このままでは数を増やせマセン。贄としてのメスの人間数匹ト、見せしめの兵士何人かを徴収スルノデス。メスは我らの繁殖用デアリ、見せしめの兵士を殺せば人間共ノ士気も下がるデショウ。」
ゴブリジェネラルの発言を満足そうに聞き、ゴブリルークは立ち上がる。
「で、あるならば猶予と脅威を示そう。ゴブリジェネラルよ、お前が軍を率いて人間共の集落に姿を見せろ。そしてこう言うのだ。“許しを請え。贄を差し出せば許そう。”とな。細かいことやその場の状況に適宜対応しろ。お主の期待を望む。」
「有難きお役目、謹んで拝命致シマス。ゴブリルーク様。」
ゴブリルークが去ると、早々にゴブリジェネラルは軍の準備を始めた。
その様子をパンプンとクゥは伝えるために全力で走るのだった。




