ムーアの過去話その4です
今でもハッキリと覚えている。
眼下に広がる魔物たち。
それを統率する魔族共。
そして・・・奴隷の人間と使者の首。
兵士たちに恐怖が伝染するのに時間はかからなかった。
「我が名は魔王軍第三の将アバラン!交渉決裂により、これから蹂躙を開始する。」
「ま、待ってください!!」
「む?貴様は?」
「わ、私はこの国の外交を預かる者です。い、いえ!ございます。わ、我々に戦う意思はありません!ど、どうか!お考え直しを!!」
「散々我らのことを馬鹿にしておきながら、まだ交渉できると思っているのか?笑わせるな!」
アバランという魔将の殺気は大気を揺るがすほどに大きく見えた。
名のある兵士や騎士でさえ、身震いしていたほどにな。
「ば、馬鹿になどしておりませぬ!」
「ならば何故こちらの条件を呑まない?」
「そ、それは・・・。」
「簡単な話だろ?互いに不干渉を約束する代わりの人質交換。魔王様は右腕とも呼べるお方を。お前たちはローレシアとかいう小娘を。それが何故出来んのだ?」
「ろ、ローレシア様はこの国の宝です!ひ、人質になど・・・。」
「何か問題でも?」
「あ、いや、その・・・。」
「魔王様も幼少の頃よりともに育ってきた大切な方をお前たちごときに人質として出す決断をしたのだぞ?貴様らだって国の宝と呼ばれる小娘程度出さないでどうするんだ?それとも、貴様は我らがローレシアとかいう小娘を凌辱するとでも?」
「そ、そんなことは!」
「ならば何故出来ん?納得のいく答えを言ってみよ。こちらが納得出来たら交渉にもう一度応じてやろう。」
「で、でしたら時間を!」
「よい。あの太陽が真上に昇る頃に最後の答えを聞いてやる。」
それから大臣や国王陛下、バルギウス様は集まり必死に話し合いをしていた。
一方の私はいつでもローレシア様の身代わりになれるようにローレシア様のドレスを着て、身支度を整えていた。
もちろん、兄さまにもローレシア様にも内緒で。
「で、できましたクリン様。」
そういえばメイドの声は震えていたなぁ。
「そうか。どうだ?お前から見てもローレシア様に似ているか?」
「は・・・はい・・・ぃ。」
「泣くな。お前は仕事をしたまでだろ?」
「違います!!わ、私は、私は!人殺しの手伝いを・・・!」
「何も死にに行くわけでは・・・。」
「死に行くようなものです!!クリン様は・・・クリン様は!」
「それ以上は言わなくていい。」
「ですが!」
「私は覚悟を決めた。ローレシア様のため、この命を捧げたんだ。だからこれ以上は泣かないでくれ。私の決心が鈍ってしまう。」
「クリンさまぁ!!」
国王陛下たちの答えは決まった。
バルギウス様の提案通り、私を身代わりとして差し出すことだ。
「準備は出来ています。」
「・・・すまない。」
「堂々としていてください父上。父上がそんなんでは敵に感ずかれますよ。」
「・・・すまない。」
「父上・・・いえ、お父さん。」
「っ!?」
「私をここまで育ててくれたのに、このような結果になってしまい、申し訳ありませんでした。」
「クリンッ!!」
「お時間です。ローレシア様。」
「では、お元気で。」
覚悟を決め、馬車に乗った時だった。
外から怒号が飛んだのは。
「何事だ!」
「騎士団長大変です!!副団長が!?」
「何だと!!?」
副団長である兄さんが、戦争の口火を切ったんだ。
「ハァァァァァァァッ!!」
「ムンッ!」
城壁に駆け付けるとそこは戦場と化していた。
「何があった!」
「副団長が戦いを挑みに!我々も止めたのですが・・・。」
「馬鹿者が!」
「兄さん・・・。」
戦いは拮抗状態だった。
「ヌハハハハ!良いぞ人間!なかなかの強者よ。」
「ほざけ!魔族風情が!!」
「そう言うな人間。我は嬉しいのだ。蹂躙することしかないと思っていたこの詰まらない戦場でお前という強者に出会えたことがな。人間、名乗れ。」
「魔族に教える義理はねぇ!!」
「おっと。そう言うな。我はどちらが死んでもいいように貴様の名を知りたいのだ。名も知らぬ誰かに殺されること程虚しいことは無いぞ人間。」
「黙れ!!!」
「ヌハハハハ!我も強いではないか!!」
拮抗していた戦場が我々の有利に動いたのは、新たな英雄の台頭だった。
「ギギィッ!?」
「フンッ!」
「ギギュアァァッ!?」
「セイッ!」
兄さんと彼のおかげで戦争に勝てる希望が見えたんだ。
そう、彼こそがダラン。
この村出身の英雄だ。
「ダラン殿の活躍は目覚ましく、私たちの国にこのような英雄がまだいたことに感謝したんだ。」
(バルギウスと同じ、目を輝かして言うなぁ。)
「兄さんがアバランを抑えてくれたおかげでダラン殿がどんどん前線を押して行けたんだ。このままいけば勝てる。そんな希望をいつしか私も持っていた。」
「・・・でも、そうはならなかったんですよね。」
「・・・ああ。あいつ・・・魔王さえ姿を現さなければ。」
ムーアの手の震えは怒りからなのか、はたまた恐怖からか。
もしかしたらその両方かもしれない。
どちらにせよ、カイドウにとっては貴重な情報になるのは間違いない。




