ムーアの過去話その3です
「・・・だが、三流貴族である兄さんと一国の王女であるローレシア様が結婚することは困難を極めたんだ。」
(まぁ普通に考えればそうだよね。それだけ人気のある姫さんならなおさらだ。けれど、ムーア先生のお兄さんも英雄って言われてたんだよな?なら、問題はないような気がするんだけど・・・。)
「えっと、どうしてなんですか?」
「簡単な話だ。兄さんとローレシア様の結婚を他の貴族が許さなかったんだよ。英雄というだけで特別視は問題があると。」
(なるほど。所詮は三流貴族っていうのが他の貴族たちの考えか。)
「あの時だって、そうだった・・・。」
(おっとまた過去に突入ですね!)
「お父様、もうお見合いの話は止めてください。」
「ん、んぅ。だがな、ローレシアも結婚してもいい年だ。そろそろ婚約者ぐらい・・・。」
「セクハラですか?お父様。性的虐待で訴えますよ。」
「ちょ!?そんな無理矢理な!?」
「お父様だろうと私は容赦しません!意地でも結婚相手は自分で決めます!」
「く、クリン。其方からも我が娘に・・・。」
「クリンは私のものです!お父様の味方は絶対にしません!!」
「そ、そうなのか?クリン。」
「い、いえ!?じ、自分は・・・。」
「・・・クリン?」
「ひぅ!?わ、私は生涯ローレシア様の味方です。」
「よろしい。」
「お、おぅ。」
「ということですので、お見合い話はこれ以上は無しです。いいですね?」
「で、でもな?」
「いいですね!」
「・・・うむ。」
正直国王様には同情したが、ローレシア様の気持ちもわからなくはなかった。
自分の知らない人とたった一回会っただけで結婚するかどうかを決めるなんて。
自分には出来ないことだ。
「ねぇ、クリン。」
「何でしょうかローレシア様。」
「どうしたらあの唐変木をこっちに振り向かせられるかしら。」
「それは・・・私にもわかりません。」
「そうよね~。一番の強敵が貴方自身なんだもの。あのシスコン、妹に何を求めてるんだか。まぁ、クリンが愛おしいほどに可愛いことは認めますけど、妹とは結婚できないのよ?ねぇ、クリン。」
「は、はい。」
「でも、いつまでもこうして逃げ切れるわけじゃないのよねぇ。」
「ローレシア様?」
「・・・あと何年持つのかしら・・・。」
その時のローレシア様の言葉の意味は理解できなかった。
「お呼びですかバルギウス様。」
「ああ。すまないねクリン。」
けれどそんなことは関係ないと言うように。
ある日、バルギウス様に呼ばれた。
それがあの惨劇の始まりだったんだ。
「魔王軍、ですか?」
「ああ。物見からの報告だ。魔王軍がこちらに向けて進行してきているとね。」
「魔王軍が・・・っ!?ということは戦争が!?」
「いいや。王は戦争を望んではいない。戦争などせず、互いの領域を侵さない。相互不干渉、それが王の決断だ。」
正直安堵した。
戦争などしても我々に勝ち目があるかどうかわからなかったから。
でもそれならば何故自分が呼ばれたのか。
その答えを聞かされて目の前が真っ白になったよ。
「・・・え?今何と?」
「申し訳ないがクリン、君にはローレシアの身代わりになる覚悟を持っていてほしい。」
「私が・・・ローレシア様の?」
「魔王軍は口約束の相互不干渉では許さないと言ってきたんだ。そして互いに人質を渡そうってね。あっちからは最も信頼している右腕の者。こっちからはローレシアを、とね。もちろん拒否に決まっている。ローレシアはこの国の宝と言っていいほどの人物だ。魔王軍に渡してどんな酷い目に遭うかわかったもんじゃない。今は他の方法を提案するために使者を送っている。・・・だが、誰も帰って来ていない。これはつまり・・・。」
「交渉の、拒否ですか。」
「そうだ。このまま時間だけが経ち、いつ魔王軍がこちらに攻め込んでくるかわからない。貴族の中にはローレシアを攫って魔王軍に渡そうと考えている者も少なくない。そうなってしまってはローレシアは・・・。」
「・・・その為の、身代わりですか。」
「ああ。残酷なことを言うようだが、魔王軍はローレシアの顔を知らない。ならばそこを逆手に取る。君が一番ローレシアの近くにいたんだ。真似することは可能だろ?」
「・・・はい。」
「ローレシアの命を守るためだ。いくらでも恨んでくれて構わない。だが、これだけは言っておく。そうならない為に今、必死に交渉しようとしている。君の身代わりは最終手段だ。けれど、覚悟だけは今のうちにしていて欲しい。」
「・・・わかり、ました。」
怖かった。
魔王軍もそうだが、私よりもローレシア様の命を大切にする国が怖かった。
日々怯え、逃げ出したくなる毎日。
目の前には何も知らずに微笑みかけてくるローレシア様。
私の心の中で悪魔が葛藤しているとも知らずに、だ。
こんな私に温かい、優しい目を向けてくるローレシア様の為。
・・・私に拒否する権利はなかった。
「・・・いいんだな?」
「はい。覚悟を決めましたバルギウス様。」
「・・・すまない。」
「いえ。この命、ローレシア様の為にお使いください。」
身代わりになる覚悟を決めたその日だった。
「へ、陛下!?」
「どうした!」
「ま、魔王軍が!?魔王軍が!?」
痺れを切らした魔王軍が攻め込んできたのは。




