ムーアの過去話その2です
「貴方がクリン?」
「・・・。」
「ん?クリンじゃないのかしら?」
「は!?い、いえ!?じ、自分がクリン・ムーア第二部隊隊長です!」
「うふふ。今は私の専属護衛騎士でしょ?」
「あ。し、失礼しました!!」
「うふふ。」
初めてお会いしたローレシア様はとても美しく、言葉では表せないような神々しさがあった。
だから私は見惚れてしまった。
「クリン。」
「ハッ!」
「この後ね、公務は無いから一緒にお茶にしない?」
「いえ、自分は・・・。」
「いいでしょ?ね。」
年月を経て、分かったのはローレシア様は年相応の無邪気さを見せる時もあれば、勇ましい大人の姿を見せる時もある魅力にあふれた人物だということだ。
「王女様。こちらが現在我が国が抱える貧困層の名簿です。」
「これほどの人数が。人事大臣、この名簿のどれ程の人が働けずにいるのですか?」
「おおよそ八割が職を失い、何も出来ずに日々を過ごしております。」
「勿体ないわ。この者たちを活かせる仕事はないかしら。」
「そのようなものがあれば良いのですが・・・この問題はずっとありますから。」
「でも、そこで見限ってはダメよ。この国に住まう民は全て家族なのです。家族が困っているのなら助け合うべきなのですから。」
「ハッ。」
「私の方でもう少し考えてみます。人事大臣も何かしら知恵を私に授けて頂けると嬉しいです。」
「もちろん。喜んでご協力させていただきますよ。」
魅力あふれる彼女を嫌う人なんてこの国にはいなかった。
中には女神の生まれ変わり。そのように言う人も多かった。
そんな彼女だからこそ、結婚相手は誰もが注目したんだ。
「またお見合いですか。」
「はい。陛下より各国の有力な人物がリストアップされております。どうか目を通すだけでも・・・。」
「じゃあクリンにあげるわよ。」
「わ、私に!?そんな!?立場が違いすぎます!」
「じゃあ私も嫌。」
「ローレシア様!」
「結婚なんてしたくないの!私はこの国をもっともっと皆が暮らしやすい国に発展させたいの。結婚なんてしたらそれこそ子供作れだ、やれ育児だって縛られちゃうわ。」
「で、ですが・・・。」
「嫌なものは嫌!」
ローレシア様にも困ったものだって。
最初は思っていたけど、本当は別の理由で嫌がっていたんだ。
「よぉクリン。それにローレシア様。」
「にいさ・・・副団長。」
「おいおいそこはお兄ちゃんでいいんだぜクリン。」
「い、いつの話ですか!?」
「ちょっとオーレン。私をついでみたいに扱わないでくれる?私、これでも立派な王女様なんだけど。」
「ふっ。兄ってのは何よりも妹を優先する生き物なのさ。妹命。これ本気。」
「むー!!王女よりも妹優先ですか!」
「当然だ!例えこの国全てを敵に回しても俺は妹を!?いってぇぇぇ!?」
「僕の妹を蔑ろにするのは感心しないよ。オーレン。」
「ってぇなァ!何すんだよバルギウス!!」
「バルギウス様だ。僕は一応この国の王子だぞ?」
「そんなもん知らないね。ならこっちは英雄様だ!」
「ふ、副団長!」
「ふふ。ここまで王族をこけにする奴も他にいないね。今日という今日はきっちり上下関係を叩きこんでやる!」
「やってみろやァ!」
バルギウス様と兄はいつも喧嘩のようなじゃれ合いをしていた。
それを私とローレシア様が眺める。
いつもの変わらない日常。
けれど、いつしか気づき始めた。
ローレシア様が兄を見る顔がいつもと違うこと。
「・・・ローレシア様。」
「なぁに?クリンから話しかけるなんて珍しいわね。」
「いえ、その・・・。」
「話してごらんなさい。大丈夫。怒ったりしないから。」
「・・・ローレシア様は副団長、私の兄がお好きなのですか?」
「ふふ。どうしてそう思うの?」
「その、兄を見る目が他の者と違う気がして。ですので、その・・・。」
「うふふ。半分当たりで半分ハズレ。」
「え?」
「私は確かにオーレンのことを慕っています。けど、それだけじゃないの。」
「と、言いますと?」
「私、貴方も好きよクリン。本気でね。」
「わ、私を!?ですか!?」
「ええ。とっても可愛い。だから妹に欲しいの。勘違いしないで。オーレンのことも好きよ。けど、貴方のことも同じくらい好きなの。だから私は必ずオーレンと結婚して貴方を妹にするの。ふふ。とてもステキでしょ?」
「ローレシア様は本当にお優しい人だった。私が兄のことを大好きなのを知って、自分が兄を奪わないように。あえてそういう風に言ったんだ。私も家族だよって。だから私もローレシア様が兄と結婚することに反対しないし、何より・・・その、ローレシア様が姉さんというのもそれほど悪くはないと思ったんだ。」
(ん、ん~?い、いやそのね。ムーア先生の純粋なお気持ちを、過去を汚すつもりはないんだけど・・・。あのその、ローレシア様が単に両方いける人だっただけなんじゃないのかな?あわよくばムーア先生のことも・・・いや、これ以上は考えないようにしよう。うん、やめておこう。)
カイドウは少しだけ大人になった。




