ムーアの過去話です
「そういう訳で、私はここに来た。」
微妙な雰囲気のまま色んなことを言われ、カイドウは混乱する。
「カイドウ。今日からゴブリルークを倒すまでの間は私は君の部下であり、槍の教官を担当する。拒否権はない・・・が、その、体の具合はどうだ?」
「大丈夫ッス。順調に回復してるってお医者様も言ってったッス。でも、一ヶ月の安静ッス。」
「そうか。なら明日から簡単なトレーニングから始めよう。」
「だそうッスよご主人様。」
「え?あ、うん。」
(ちょっと待て。理解が追い付かないんだけど?え?ゴブリルークって何?何の話し?てか、ムーア先生が部下で教官?いや。いやいやいやいや!?何が何だかわかんないんだけど!!?)
「それからカイドウ。私はしばらくこの屋敷に共に住む。部屋の用意を頼みたい。」
「それなら自分の方で言っておくッス。ちょっとの間お待ちをッス。」
軽快な足取りでネネは部屋から出て行った。
しばらくの時が経った。
ネネが部屋を出てからというもの、会話という会話は無く、互いに様子を探り合っているかのように終始無言である。
(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?!?この状況どうしろっていうの!?まだ理解すらできてないのに二人っきりにしないで!!ネネ!カムバァァァァァァックゥゥゥ!!!)
「・・・カイドウ。」
「ひゃい!?」
「その・・・すまなかった。」
「へ?」
「才能が無いなどと戯言を言ったことだ。あの戦いで君は確かに槍のスキルを開花させた。君が言った通り君は大器晩成型なのだろう。」
(ん、んぅ!?い、言えない。あ、頭の中の声に従ったなんて言えない。口が裂けても言えない。)
「昔は、こんなんではなかった・・・。」
ムーアの表情を見ると、今にも泣きそうな顔である。
(な、何か元気になることを!?でもどうやって!?)
「・・・私には大好きな兄がいたんだ。」
(何か始まった!?)
私の家は一応貴族家だった。
と言っても三流貴族だけどな。
母は私が生まれる前から病気がちで、私が生まれた時からは大体ベットの上にいた。
父は騎士でほとんど帰ってこれず、私にとって父親代わりだったのが兄だった。
兄はとても優しく、頭のいい人で、騎士である父に憧れて毎日のように剣の特訓をしていた。
そんな兄の真似するように始めたのが私の騎士へ第一歩だった。
「クリンも一緒にやるのかい?」
「うん!わたしもおにいちゃんといっしょにやってみたい!」
「ん~でもクリンは女の子だからなぁ。」
「おんなのこじゃダメなの?」
「ダメってことは無いけど・・・う~ん・・・。よし!クリンには槍を教えてやろう!」
「やり?」
「そうだ!槍は剣と違ってリーチが広い。真の槍使いは相手の接近を許さずに倒すって父さんが言ってたんだ。」
「パパが?」
「ああ!これならクリンだって安全に戦うことが出来るだろ?」
「うん!」
兄は特殊な能力を持っていた。
それは、全ての武器を扱え、極めることが出来るという能力だった。
だから兄はほとんどの武器をある程度習得し、父と同じ剣の道を歩んだんだ。
能力のおかげか、努力の賜物か、あるいはその両方だったのだろう。
兄はどんどん強くなり、気づけば最年少で騎士団入り。
そんな兄に毎日稽古をつけてもらった私もいつしか騎士団に入団できたのだ。
「騎士団入団おめでとうクリン。」
「ありがとうございます騎士団長。」
「ハッハッハ。こんな時ぐらいは父親として呼んでもらいたいな。」
「も、申し訳ありません!?その、こ、このような場所では・・・。」
「そうだぜ親父。一応ここは神聖なる教会なんだからよ。」
「そういうお前は入団したころは『親父、親父』と。」
「ばっ!?それを言うなよ!?」
「ふふ。」
「ハッハッハ。」
「ちょ!?お二人さん!?」
それからしばらく騎士団での仕事も慣れ、順調に立場が上がってきたころに私は国王陛下に呼ばれたのだ。
「面をあげよ。」
「ハッ。」
「其方がクリン・ムーア第二部隊隊長で相違ないか。」
「神に誓って。自分はクリン・ムーア第二部隊隊長で相違ありません。」
「うむ。其方があの騎士団長の娘、か。ククッ。あの鬼のな。きっと母親似なのだろうな其方は。」
「へ、陛下!?ご冗談はそこまでに!?」
「クハハハ。騎士団長も娘の前ではカッコつけたいか。さて、此度其方を呼んだのは他でもない。貴殿には騎士団を辞めてもらいたい。」
「・・・は?い、今何と!?」
「騎士団を辞めて我が娘、ローレシアの専属護衛騎士になってもらいたい。」
「ローレシア様の・・・わ、私がですか!?」
「うむ。其方の評判並びに父親の信頼。何よりも英雄である其方の兄と。こちらから頭を下げてでも願いたい。」
「あ、頭をお上げください陛下!?」
「引き受けてくれるかね?」
私には何の迷いもなった。
「わ、私のようなものでよければ喜んでお引き受けいたします!」
「そうか!クハハハ。其方が引き受けてくれて嬉しいぞ。」
大出世。正直騎士団に未練もあったが、何よりも兄に近づきたい。
その思いが私と、お優しいローレシア様を引き合わせたのだ。




